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幹の終わりに灯るもの――帰れなくなった少女の異世界旅――  作者: 河居


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38/63

ぶどう畑


***


翌朝、俺が目を覚ますと、カナエが朝焼けを眺めていた。

「ヒロさん。早いですね、おはようございます」

こちらにニコリとすると、また朝焼けに視線を戻した。

「おはよう。夕陽もいいが、これも美しいな…」


真正面に夕陽が沈むこの場所からは朝日を見る事は出来ない。

しかしー

朝靄で白くけぶる海と色づき始めた薄青の空、間を漂う雲は薄紅を柔らかく反射してこの世の景色では無いようだった。


「天国の入り口みたいですね……」


そう言ったカナエの頬は空と同じ薄紅だった。


サチはすっかり朝焼けが終わった頃にのそのそと起きてきた。寝坊である。


***


「物凄く綺麗だったんですよー!サチさんも明日は見ましょう」

カナエにキャイキャイ言われながら、集落を歩いた。ヒロはムクタの頼み事があるからと別行動だ。

「あーあーわかったわかった、明日は起きるかもなー」

「あ!きのーのおねーさん!」

気のない返事をしていると、昨日の少女がやってきた。母親と一緒にカゴを背負ってこちらにやってくる。

「マレビト様ですね、昨日はありがとうございました。この子帰ってからもマレビト様のお話ばっかりで」

「あっいえ!そんな……」

カナエはわたわたと手を振って言葉に詰まった。

大方、一緒に遊んだだけのつもりなのに礼まで言われてどうしたらいいかわからないんだろう。

「そんなかしこまるこたぁねぇ、俺たちはあんたらの言うマレビトだろうがなんだろうがただの人だ。こいつはカナエ、俺はサチ、もう一人ヒロって言うデカいのがいる。しばらく、世話になる」

俺はそう言って軽く頭を下げた。

「嬢ちゃんもよろしくな!」

母親が恐縮するより先に少女に声をかけて、肩に乗せた。

「わぁーーい!!高ーい!」

「お気に召したようで何よりだ」

子供の高い声で、カナエの肩から力が抜けたようだ。

「あの、気にしないでください。一緒に遊べて、私も楽しかったんで!」

「カナエもまだまだ嬢ちゃんだからな!」

「サチさん!!」

カナエがムスッとすれば母親はクスクスと笑っていた。

「これからぶどうの収穫に行くんです、よかったら見て行かれますか?」

「カナエおねーちゃんもサチおじたんもいっしょにいこー!」


――おじさん。


「サチさん、ショック受けてます?」

俺が衝撃を受けていると、カナエがニヤリと顔を覗き込んできた。

「おじたんどーしたの?」

「なんでもないよー!ぶどう畑、楽しみだな」

カナエは俺のショックをよそに、親子と楽しげに歩き出した……。


***


案内されたぶどう畑は崖に張り付く様に広がっていて、どれも小さいが実をたくさんつけていた。すでに何人か収穫に来ていて、少女が私たちをみんなに得意顔で紹介してくれた。

「気候が合うのか通年で実をつけてくれるんです。水はほら、あそこから…」

母親が指差す方を見ると岩の隙間から水が染み出して小さな水たまりを作っていた。

「岩をどければもっと水は出るんじゃねえか?」

サチさんは岩を触れて何か確認しているようだった。

確かに、サチさんが言う様に、水は少女の背丈ほどもありそうな岩が邪魔をして僅かに染み出す程度だ。

「こんなに大きいと流石にそこまでは……それに、私たちにはこれで充分なので」

それもそうなのか、と思うがサチさんは思案顔だ。

「カナエおねーさん見てみてー!」

少女が袖を引くのでついて行くと地面に蓋がいくつも並んでいる。

「ここにねー、大人のジュースが埋まってるのー!」

「ジュース?埋まってるの??」

んん?と首を傾げていると、よく陽に焼けたおばさんがやってきた。

「マレビト様……おっとカナエさんだったね。ここには瓶が埋まっててね、ぶどうで酒を作ってるのさ」

「酒だと!?」

サチさんが飛んできた。

「はっはぁー!あんた、サチだったね?酒は好きかい?ここの実はだいぶ酸味が強いが、酒にすると格別なのさ!」

おばさんが瓶を一つ開けて見せてくれた。

開けた途端にふわっとアルコールとぶどうの香りが広がった。

「お!こりゃあうまそうじゃねぇか!俺も働く!これを分けてくれねぇか?」

サチさんが急に生き生きとしだした。

「もちろんさ!……と、言いたいが、マレビト様とは言え働かざる者食うべからずの心意気、気に入った!明日の朝、朝焼けの始まる頃に浜に来な。明日は網を引くからね!カナエさんも、もう一人も連れといで。みんなで働いて、宴会だ!」

「乗ったらぁぁあ!!」

豪快なおばさんの声とそれを上回るサチさんの大声が響いた。

なんだか楽しそうで、私も少女と二人おー!と声を上げていた。


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