エピローグ 陽だまりの庭で
クレセントの戦いから三か月。
王都は表向き平穏を取り戻し、商人たちの掛け声や子供の笑い声が街を満たしていた。
だが、その裏で再建と警備の強化は休むことなく続いている。
私は城の中庭にある小さなベンチで、紅茶を片手に座っていた。
冬の終わりの柔らかな陽射しが頬をくすぐる。
——こんな穏やかな時間が、また来るとは思わなかった。
「こんなところにいたの」
背後から聞こえた声に振り向くと、ミリアが花束を抱えて立っていた。
戦場での鎧姿とは違い、淡い色のドレスに身を包んだ彼女は、驚くほど柔らかい雰囲気を纏っている。
「その花は?」
「南の村からの贈り物よ。あなたが救った場所」
彼女はベンチの隣に腰掛け、花束を私に差し出した。
「……ありがと」
言葉に詰まりながらも、受け取る。
花の香りが風に乗って広がり、遠い戦場の匂いをかき消していくようだった。
「これで終わりだと思う?」
ミリアの問いに、私は空を見上げる。
青く澄んだ空は美しいが、その向こうで何が起きているかは分からない。
「分からないわ。でも……また何かあったら、今度は一緒に戦ってもいい」
「最初からそう言えばよかったのに」
彼女はくすりと笑い、私もつられて笑った。
花束を膝に置き、私は紅茶を一口飲む。
この国の未来も、私自身の未来も、きっと簡単じゃない。
でも——今は、この陽だまりの中で目を閉じていたかった。
戦いの物語は終わった。
だが、私たちの物語は、まだ続いていく。