第四十八話 地下の戦い
狭い洞窟の中、剣と剣がぶつかる甲高い音が反響する。
火花が散り、松明の炎が揺れた。
「ミリア、右から二人行くわ!」
私が叫ぶと、ミリアは片手を払って魔力の壁を展開し、敵兵を弾き飛ばす。
その間に私は前へ踏み込み、女隊長と刃を交えた。
「前より腕が上がったじゃない」
「お褒めにあずかり光栄だわ」
互いの剣が交差し、押し合うたびに足元の土が削れる。
だが、女隊長の口元には余裕があった。
——何か企んでる。
その予感は的中した。
彼女が後退し、手にしていた短剣を奥の壁に突き立てると、
洞窟の奥から重い音が響き始めた。
「この拠点は渡さない。——全部、崩してやる」
天井の岩がきしみ、砂がぱらぱらと降る。
「崩落させる気!? そんなことしたら——!」
ミリアの叫びも、轟音にかき消される。
女隊長は撤退の合図を出し、部下と共に奥の抜け道へ消えていった。
追う暇はない。
私はミリアの腕を掴み、走り出す。
背後で岩が崩れ、武器や地図が瓦礫に飲み込まれていく。
「急げ、出口まであと——」
言い終える前に、通路の一部が崩れ落ち、逃げ道が半分塞がれた。
狭くなった隙間に、ミリアが先に滑り込む。
「セリーナ、手を!」
伸ばされた手を掴み、私は全身を引き抜いた。
井戸から地上へ飛び出すと、同時に地響きが響き、村の地面が一部沈んだ。
クレセントの地下拠点は、跡形もなく消えた。
だが、胸の奥に残るのは安堵ではない。
——あの地図。
崩れる前に見た赤い印の数は、王都周辺だけでも十を超えていた。
これは、始まりにすぎない。