第四十四話 一時の共闘
クレセントの兵たちが修道院の回廊に雪崩れ込む。
火花を散らす剣戟の音、破られる扉、修道女たちの悲鳴。
私は剣を振るいながら、冷静に戦況を見極めていた。
——数では互角だが、彼らは奇襲を狙ってきた分、動きが速い。
背後で光が弾けた。
振り返ると、ミリアが片手を突き出し、金色の波紋で敵の動きを押し返していた。
「無駄口を叩く暇があるなら、前を見なさい!」
彼女の声は鋭く、命令のようですらあった。
普段なら反発しただろうが、今は違う。
私は一瞬うなずき、正面の隊長に狙いを定める。
「セリーナ、右!」
ミリアの声に反応し、剣を横薙ぎに振るう。
飛び込んできた敵兵の刃を弾き、逆に懐へ踏み込んだ。
その一瞬、私と彼女は背中を合わせて立っていた。
互いの呼吸が伝わる距離。
敵を討つ動きが、不思議と噛み合っていた。
「……やるじゃない」
「お互い様よ」
言葉を交わす間にも、戦況は動く。
私たちの反撃で流れが変わり、王国騎士団が優勢に転じていく。
しかし、隊長は退き際も鮮やかだった。
「今日はここまでだ、聖女」
挑発めいた笑みを残し、クレセントの兵たちは闇に溶けるように消えた。
戦いの後、修道院には焦げた匂いと血の鉄臭さが残った。
私は剣を納め、ミリアに向き直る。
「命を救われたわ。礼を言う」
「私も助かったわ。でも、勘違いしないで。これは同盟じゃない」
ミリアの瞳には、依然として警戒と敵意が宿っていた。
——それでも、今夜だけは、私たちは同じ敵と刃を交えた。
その事実が、今後をどう変えるのか。
私にも、まだ読めなかった。