第四十一話 第三勢力
南門前に土煙が迫る。
地響きのような馬蹄の音とともに、黒い旗を掲げた騎兵隊が姿を現した。
旗に描かれているのは、王国の紋章でも、辺境領の印でもない——赤い三日月。
「……あれは、反王国同盟!」
兵士の誰かが叫ぶ。
私の眉がわずかに動く。
彼らは長年、辺境で活動していた反体制派。王都の真下まで来るとは想定外だった。
騎兵の先頭に立つ女は、鋭い眼差しをこちらに向けた。
「——聖女ミリア、我らと共に来い」
その言葉に、南門の空気が凍りつく。
私はすぐに悟った。
彼らはミリアを“味方”に引き入れ、王国転覆の象徴にするつもりだ。
「お断りよ」
ミリアの返答は即答だった。
「私は私の目的のために戻っただけ。あなたたちの駒になる気はない」
その瞬間、クレセントの騎兵たちが槍を構えた。
兵士たちも応戦の構えを取る。
門前は一触即発、混乱の渦に飲み込まれようとしていた。
「……やめなさい!」
私の声が響くが、双方の緊張は解けない。
むしろ、ミリアの存在が火種になりつつある。
彼女は一歩前に出て、騎兵隊の女の目を真っ直ぐに見据えた。
「私は、あなたたちと戦うつもりも、組むつもりもない。
——けれど、邪魔をするなら容赦しない」
その言葉と同時に、彼女の掌から淡い金色の光が零れた。
兵士たちが息を呑み、騎兵たちが僅かに怯む。
聖女の力——完全ではないが、確かに戻り始めている。
「……面白い」
騎兵隊の女が口元を歪め、手を振る。
クレセントの一団は土煙を上げ、撤退していった。
残されたのは、門前に立つ私とミリア、そして無数の視線。
——この瞬間から、彼女は王都中の噂の中心に返り咲いたのだ。