第三十九話 再会の影
王都の外れ、古びた宿屋の一室。
ミリアは蝋燭の灯りの下で地図を広げていた。
——あと二日歩けば、王都の城壁が見える距離。
追放されてから一月、遠回りを重ね、彼女はついに戻ってきたのだ。
「無茶だと思うぜ」
隣で干し肉をかじっているのは、黒髪の傭兵カイル。
かつてミリアが辺境で助けた男で、今は彼女の護衛兼協力者だ。
「追放者が王都に近づけば、すぐ兵に捕まる」
「捕まらない方法を探すために、あなたを雇ったんでしょ?」
ミリアの瞳には、かつて聖女だった頃以上の鋭さが宿っていた。
一方、王都。
私は謁見室で、最近頻発する「不審な寄付金」について報告を受けていた。
それらはすべて、貧民街や孤児院の支援に回されており、出所は不明。
だが、妙に耳慣れた名前が報告書の端にあった。
——カイル。
「……辺境の傭兵が、なぜ王都で金を動かす?」
答えは一つしかない。背後にミリアがいる。
その夜、王都南門の周辺で、私は影の諜報員たちに命を下した。
「彼女が来る。必ず捕らえなさい」
同じ頃、南門からわずか数キロ離れた森の中、ミリアは焚き火の前で剣を磨いていた。
炎に照らされたその横顔は、もう“聖女”ではなく、戦う者のそれだった。
「必ず、取り返す……全部」
その呟きは、炎よりも熱く、冷たく響いた。
——そして、二人の距離は静かに縮まっていった。