表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/51

第三十六話 荒野の誓い


 王都の大門が背後で閉じた瞬間、静寂が訪れた。

 耳に届くのは、風の音と自分の足音だけ。

 ミリアは立ち止まり、冷たい空気を深く吸い込んだ。

 ——これで、すべてを失った。

 聖女の座も、信頼も、居場所も。

 それでも、心の奥の炎はまだ消えていない。


 やがて彼女は、道端に崩れかけた小屋を見つけ、そこで一晩を過ごすことにした。

 外套を肩から外し、持ってきた水袋を少しだけ口に含む。

 空腹はひどいが、食料はほとんど残っていない。


 その夜、夢の中で彼女は過去の光景を見た。

 まだ聖女になる前、孤児院で子供たちと笑い合っていた日々。

 「ミリアお姉ちゃんは、ずっとそばにいてくれるよね?」

 小さな声が胸を締めつける。

 ——あの笑顔を、奪わせはしない。


 夜明け前、ミリアは小屋の外に出て、東の空を見上げた。

 星々が薄れ、赤い朝焼けが地平線を染めていく。

 「……必ず戻る」

 その声は低く、しかし大地に染み込むように力強かった。


 彼女は懐から一枚の紙を取り出す。

 そこには、王都の外にいる味方——かつて救った商人、巡礼僧、傭兵——の名前が記されている。

 「今度は、私が全部取り戻す番」


 そう呟くと、彼女は東へ歩き出した。

 王都から遠ざかるその背中に、もう迷いはなかった。


 ——そして私の知らぬところで、その一歩が私への反撃の始まりとなる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ