第三十五話 追放
聖女剥奪から三日後。
神殿長は正式な勅令を読み上げた。
「前聖女ミリア・フォン・エーベルラインは、王都の秩序を乱し、神の威信を傷つけた罪により、王都から永久追放とする」
王都の大門前には、市民や兵士が集まり、彼女の最後の姿を見ようと押し寄せていた。
ミリアは粗末な外套をまとい、荷車にわずかな荷物だけを積んで立っている。
その横には、護送の兵士二名。
群衆の中からは、罵声と嘲笑が飛んだ。
「二度と戻ってくるな!」
「聖女様(笑)」
石ころが一つ、彼女の足元に転がった。
私は遠く馬車の中からその光景を見ていた。
カーテン越しでも、彼女の背筋がまだ折れていないのがわかる。
——追放されてもなお、あの目は諦めていない。
少しだけ、胸の奥に刺のような違和感が走る。
けれど私は目を逸らさなかった。勝負はもうついているのだ。
大門が開き、ミリアは兵士に促されて外へ出る。
その瞬間、王都の喧騒は背後へ遠ざかり、広がるのは荒野と曇った空だけだった。
門が閉まる音が響き渡る。
——王都と彼女を隔てる決定的な音。
馬車が動き出す。
ルーカスが小さく呟いた。
「これで本当に終わりですね」
「ええ、表向きは」
私はグラスの水を一口飲み、窓の外を見やった。
遠ざかる荒野の中、ミリアの小さな背中はまだ真っ直ぐだった。