第三十二話 崩れる足場
翌日、王都中にニュースが駆け巡った。
「聖女ミリア、北区の商会で不正証拠を捏造!」
「商会会長と警備隊の証言一致」
噂は瞬く間に広がり、神殿前には彼女を非難する市民が集まった。
「神の名を騙って……」
「もう聖女なんかじゃない!」
怒声が石畳に響き、ミリアは神殿の奥に身を潜めるしかなかった。
神殿長は重苦しい顔で彼女を見下ろす。
「ミリア、私は君を信じたい。しかし、これほどの証言と物証が揃っては……」
「全部、罠なんです! あの女が仕掛けた!」
必死の訴えも、冷たい沈黙に飲み込まれる。
一方、私は王宮の舞踏室で開かれた慈善晩餐会に出席していた。
「セリーナ様のおかげで、また孤児院の運営が安定しましたわ」
「ミリア様とは大違いですわね」
社交界の婦人たちが笑いながら近寄ってくる。
私は控えめに微笑むだけで、彼女らはますます私を信奉していく。
——もう、風向きは完全にこちらだ。
その夜、ミリアは神殿の自室で机に突っ伏していた。
港での失敗、商会での罠、そして市民の敵意——すべてが重くのしかかっている。
「……どうすれば、あの女に勝てるの……」
かすれた声は、誰にも届かない。
ただ、蝋燭の炎が小さく揺れ、その影が壁に沈んでいくだけだった。
けれど——私は知っている。
この状況でも、彼女は決して諦めない。
だからこそ、最後まで追い詰める必要がある。