第二十七話 沈黙の反撃
王都の社交界から、ミリアの姿が消えた。
舞踏会以来、彼女は公の場に一度も現れていない。
人々は「ついに敗北を認めたのだ」と囁き、興味を失い始めていた。
——それこそ、彼女が望んだ状況だった。
神殿の奥、物置同然の小部屋で、ミリアは地図を広げていた。
そこには王都の水路網と、各孤児院・施療院の位置が記されている。
さらに、裏路地の密輸経路や、影商人たちの名まで赤い印が打たれていた。
「……全部、つながってる」
彼女は小さく呟く。
レナの慈善活動の資金源——それが違法取引によって賄われている証拠を、少しずつ掴み始めていた。
リオンが扉を叩き、小声で報告する。
「西区の倉庫に、例の品が入ったそうです。三日以内に港へ運ばれるとのこと」
「なら、その前に押さえるわ」
「ですが、証拠を押さえるには……」
「私一人で行く」
リオンは口を開きかけたが、ミリアの瞳を見て言葉を飲み込んだ。
その夜——
私は晩餐会の席で、ルーカスから耳打ちを受けていた。
「レナ様の資金源に関して、何者かが調べているようです」
「誰?」
「……まだはっきりしませんが、おそらく——」
彼が口にした名前に、私は思わず微笑む。
「やっぱり、沈んだふりなんてする子じゃないわね」
グラスの赤ワインが、炎のように揺れた。
ミリアは沈黙していない。
ただ、次の一撃を放つ瞬間を計っているだけ。
そして、私もまた、その一撃を利用するつもりだった。