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第二十五話 二人の聖女

 広間の中央、群衆が自然と道を開けた。

 そこをゆっくりと進むのは、白い光をまとったような女——偽聖女レナ。

 その姿は絵画から抜け出したように完璧で、息を呑む音があちこちから漏れた。


 ミリアはグラスを卓に置き、ゆっくりと前へ出た。

 「……あなたが、レナね」

 その声に、レナは優美な笑みを浮かべ、裾を持ち上げて一礼した。

 「お噂はかねがね。本物の聖女様にお会いできて光栄です」

 礼儀正しい言葉。しかしその奥には、薄氷のような冷たさが潜んでいた。


 「どんな噂を聞いたのかしら」

 ミリアが一歩近づくと、レナの笑みは深まる。

 「……人々を見捨て、神殿を離れた聖女がいる、と」

 周囲の空気が一瞬で張り詰めた。

 噂好きの令嬢たちが、まるで宝物を見つけた子供のように耳をそばだてる。


 私はバルコニーからその光景を見下ろし、ワインを傾けた。

 ここから先は、二人の間の火花が勝手に物語を紡いでくれる。


 ミリアは笑わなかった。

 「私が離れたのは、人々を守るため。——あなたこそ、何者なの?」

 「ただの巡礼者です。ただ……困っている人を放っておけないだけ」

 その言葉に、数人の貴婦人が感嘆の声を漏らした。

 まるで、ミリアこそが冷酷な存在であるかのように。


 レナはゆっくりと群衆を見渡し、声を響かせた。

 「神は、真実を求める者を見捨てません」

 その瞬間、彼女の胸元から光があふれた。

 それは聖女の加護を思わせるまばゆい輝き——だが、私だけは知っている。

 あれは細工された宝石の反射光だ。


 群衆は息を呑み、ミリアに視線を向けた。

 「……証明できますか? あなたが本物だと」

 若い騎士の一言が、決定的な追い打ちとなった。


 ミリアは黙ってレナを見据える。

 その沈黙が、何よりも彼女を不利にしていく。


 私はグラスを置き、心の中で駒の位置を確認した。

 ——完璧。次の一手で、彼女は完全に孤立する。

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