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第二十四話 面会

 舞踏会の夜、王都中央広場は灯火で昼のように明るかった。

 噴水の周りには色とりどりのドレスを纏った令嬢たちが笑い、楽師たちの音色が通りを満たしている。

 私、セリーナ・ヴァルモンドは、上階のバルコニーからそれを見下ろしていた。

 この場はすべて計算の上で作った舞台——そして、今日の主役は私ではない。


 やがて、ざわめきの中から視線を引き寄せる存在が現れる。

 純白のドレスを纏い、背筋をまっすぐ伸ばして進むミリア。

 その顔には不安も動揺も見えない。

 だが、私にはわかる。あれは鎧を着込んだ戦士の表情だ。


 「ようこそ、我が舞踏会へ」

 階段を降り、正面から声をかける。

 ミリアの瞳が私を射抜くように見据えた。

 「お招きいただき光栄です、セリーナ様。——ずいぶんと大掛かりな集まりですね」

 「春の始まりですもの。華やかでなければ」

 私は微笑みながら、あえて人々が聞き耳を立てる距離で会話を続ける。


 周囲の令嬢たちは、二人のやり取りに目を輝かせていた。

 まるで舞台の一幕を見ているような熱気。

 私はその空気を利用し、ゆっくりと話題を切り替える。

 「そういえば、最近“聖女”と名乗る方が増えましたわね」

 「ええ、不思議なことです」

 ミリアの声は落ち着いていた。

 だが、その手がグラスを握る指先はわずかに強ばっている。


 私は一歩近づき、低く囁いた。

 「あなたの後を追う影は、もうすぐここに来るわ」

 その瞬間、ミリアの瞳が一瞬だけ揺れた。

 私はそれを見逃さず、笑みを深める。


 広間の扉が開き、群衆が振り返った。

 そこに現れたのは——偽聖女レナ。

 白い衣と金の刺繍を纏い、ゆっくりと進む姿は、本物の聖女と見紛うほどの威光を放っていた。


 ざわめきが広がる中、私はシャンデリアの光を背に、グラスを口に運んだ。

 舞台は整った。

 あとは、駒がぶつかるのを待つだけ。


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