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第二十二話 囁く者


 宿場町は夜霧に沈み、石畳の道は濡れて光っていた。

 ミリアは人目を避けるため、馬を裏手の厩に繋ぎ、小さな酒場へと入った。

 そこにいるはずの男——レナに仕事を指示している中間役、通称〈囁く者〉を探すためだ。


 薄暗い店内には、燻った煙草の匂いと、酔客の笑い声が充満していた。

 ミリアは視線を巡らせ、奥の個室に座る影を見つける。

 男は外套を羽織り、グラスを指で回していた。

 間違いない、あれが〈囁く者〉だ。


 「話があるの」

 そう切り出そうと、一歩踏み込んだ瞬間——

 男の体が、卓の上に崩れ落ちた。

 目は虚ろに開き、唇にはまだ笑みの形が残っている。

 だが、もう息はしていなかった。


 酒場の主人が駆け寄る。

 「さっきまで普通だったのに……突然倒れちまって……」

 ミリアは脈を取り、首筋に薄い針跡を見つけた。

 ——毒だ。しかも、痕跡がほとんど残らない即効性のもの。


 彼女は歯を噛みしめた。

 これは偶然ではない。彼女がここに来ることを、誰かが先に知っていた証拠だ。


 卓の下には、小さく折り畳まれた羊皮紙が落ちていた。

 急いで拾い、懐に滑り込ませる。

 そこには文字ではなく、奇妙な記号が並んでいた。

 教会の古文書で使われる暗号に似ている。

 ミリアの頭の中で、忘れかけていた符号の意味が繋がっていく。

 ——これは日付と場所だ。


 指定された日付は三週間後。場所は王都の中央広場。

 その日は、王都でも珍しい規模の舞踏会が開かれる予定だった。

 しかも主催者の名は——セリーナ・ヴァルモンド。


 ミリアの手が震える。

 ついに、背後にいる影が名前を持った。


 一方、私は屋敷のバルコニーで、夜霧を見下ろしていた。

 「餌は十分に目立たせました」

 ルーカスの声に、私は微笑を返す。

 ミリアは必ず舞踏会に現れる。

 そしてその場で、私は彼女の足元を崩す一手を放つつもりだった。

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