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第一話 断罪イベントの始まり
——また、この場面だ。
広間の中央、私の前に立つのは、聖女ミリア・フローレンス。
白いドレスを着て、涙を浮かべ、怯えたように震えている。
その演技は、相変わらず見事だ。
「セリーナ様! あなたは嫉妬から私を陥れようと——」
周囲の視線が一斉に私に向けられる。
耳障りなざわめきが広がる中、王太子アルベルトが立ち上がった。
「セリーナ・アストレア。君との婚約を破棄する」
その言葉を、私は静かに受け止めた。
前世で読んだ物語と全く同じ流れ。
けれど——今回は違う。
「承知いたしました、殿下」
広間が一瞬、静まり返る。
あっさりと受け入れた私に、誰もが驚いたようだ。
ミリアの演技も一拍遅れた。
「……承知、した?」
「ええ。むしろ感謝いたします。これで、本来の役目に集中できますから」
本来の役目——それは領地アストレアを守り、国の未来を変えること。
私はドレスの裾を翻し、背筋を伸ばして広間を後にした。
背後で、ミリアの焦った声が聞こえた気がした。
——これは退場ではない。始まりだ。