9、ヒーローは空を飛ばない
「もう会議終わっちゃいました?」
冗談めかして言う奏夢に立花先生が答えた。
「今始まったところだ。私の横に座りなさい。」
「ありがとうございます。立花先生はいつも優しいですね。」
「毎回人助けをして遅れてくる君を責める者なんてこの中にはいないだろう。たとえそれが嘘だとしてもね。」
立花先生は椿の方を見ずにそう言った。
「嘘ではないんですけどね。なぜかいつも目の前で人が倒れるですよ…。そうだ。さっき胸骨圧迫した73歳のおばあさん、立花先生が担当医なんで後で確認お願いします。心筋梗塞起こしたみたいで、詳細は書いておいたのでそれを見てもらえれば。」
「流咲さんか。ありがとう。助かるよ。」
横でそんな話がされている間も、会議は進んでいた。手術の進め方や緊急時について一通り話し終わり、1時間ほどで解散となった。
「立花先生、明後日の手術よろしくお願いします。」
「あぁ、しっかりサポートするよ。全世界が注目している手術だから、失敗は許されないしね。それじゃあ。」
そう言って、立花先生は会議室から出て行った。奏夢と病棟へ戻っている間、立花先生が言っていたホワイトハンドの話をした。
「さっきおばあさん助けてるとき、"天使のようだ"って言われたんだよ。あまりにおかしくて笑いそうになっちゃった。」
「お前が天使?ありえないだろ。」
「そうだよね。僕には悪魔の方が似合う。時雨もブラックハンドの方が似合うよ。悪しき左手を持つ漆黒の天才医師、なんてね。」
ウィンクをしながらそんなことを言う奏夢を睨みつけて、俺は自分の席に座った。
「僕はこの後回診があるから、いつも通りお昼に食堂で会おう。」
「人助け頑張れよ。」
「真のヒーローは空を飛ばないからね。今日は何回心マすることになるかな。」※心臓マッサージ
奏夢が部屋を出ていくと、やっと静かになった。そして、その日はお昼まで特に大きな出来事は起こらなかった。




