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「役立たず」と追放されたので、魔王を倒して田舎でカフェを開いたら、元パーティーが泣きついてきた件について

作者: ねこラシ

「お前は……今日限りでパーティーから抜けろ」


 パーティーのリーダーである勇者・レオは、俺に冷たい視線を向けてそう告げた。


 俺の名はセイル。鑑定と支援魔法に特化した補助職である。


「お前の鑑定なんて、最近は役に立ってないしな。戦闘もできない、足を引っ張るだけだ」


「……そうか。わかったよ」


 もともと期待されて入ったわけじゃない。レオたちが魔族との戦いに勝ち進むにつれて、俺の存在価値は徐々に薄れていった。


 だが、それでも一緒に旅してきた仲間の言葉に、少し胸が痛んだのも事実だった。


 ――まあ、いいか。これで自由の身だ。


 そう思うと、すっと心が軽くなった。


 



 


 数ヶ月後。俺は王都から遠く離れた辺境の村で、カフェを開いていた。


 カフェの名前は《黒猫亭》。


 魔物の肉を使ったハンバーグプレート、スライムミルクのラテ、風精霊の葉で煮出したハーブティーなど、ちょっと変わったメニューが売りだ。


「セイルさーん! 今日のケーキ、完売だってさー!」


 元冒険者の獣人娘・ミーナが厨房に走ってきた。


 彼女は俺の店の看板娘で、接客も厨房も万能。正直、彼女がいなければ開店すら無理だっただろう。


「ありがとう、ミーナ。今日も大盛況だね」


「ふふん、田舎なのにお客さんいっぱい来るのは、セイルさんが作る料理が美味しいからだよー!」


 ……いや、本当の理由は別にある。


 実はこの村、魔王城に一番近い場所にある「最前線」だった。


 俺は追放された後、一人で魔王城へと向かい、魔王を倒したのだ。


 その過程で俺は“封印された本来の力”を取り戻した。


 俺の支援魔法は、元々は【世界術式】と呼ばれる最上級の補助魔法だったのだ。


 ただし、王国の鑑定士にはその真価がわからなかったらしい。


 だから俺は「無能」として追放された。


 だが、封印が解けた今の俺は、王国でも最強クラスの魔導士と渡り合える力を持っている。


 



 


 その日の夕方。


 店の扉が開いた。


「……っ! ここで合ってるはずだ……!」


 現れたのは、かつての仲間たちだった。


 勇者・レオ、聖女・アリシア、戦士・グラン。全員、ボロボロの姿で立っていた。


「……セイル、助けてくれ……!」


 勇者が頭を下げる。プライドの塊だった彼が、土下座をする姿など想像もしなかった。


「魔王を倒したあと、魔族の残党に襲われて……。お前の支援がないと、俺たちじゃ立ち行かない!」


「ふぅん」


 俺はカウンター越しに、紅茶を一口すする。


「俺は役立たずなんだろ? 戦闘もできない、足を引っ張るだけの存在だったんじゃなかったか?」


「……っ、それは……俺が間違ってた! 本当にすまなかった!」


 土下座しているレオの背中を、アリシアとグランが見下ろしている。だが、誰もその言葉を否定しない。


 ……ああ、こいつらは、俺が魔王を倒したことを知って戻ってきたんだ。


 それだけのこと。


「悪いけど、俺はもう冒険者じゃない。ここで“役立たずなり”に、カフェをやってるんだ」


「……そんな……!」


 俺は彼らの目の前で、ミーナにこう告げた。


「ミーナ。そろそろ夕飯の仕込みをしよう。今日のスペシャルは、スモークドラゴンの炙りでいくよ」


「はーいっ!」


 追放されて良かった――そう思えるようになったのは、ここでの生活が心から楽しいからだ。


 俺の人生は、あの追放の日から始まったんだ。


 だからもう、戻るつもりなんてない。


 


 ――「役立たず」な俺は、今日も美味い飯を作ってる。


 


 


【完】

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