「役立たず」と追放されたので、魔王を倒して田舎でカフェを開いたら、元パーティーが泣きついてきた件について
「お前は……今日限りでパーティーから抜けろ」
パーティーのリーダーである勇者・レオは、俺に冷たい視線を向けてそう告げた。
俺の名はセイル。鑑定と支援魔法に特化した補助職である。
「お前の鑑定なんて、最近は役に立ってないしな。戦闘もできない、足を引っ張るだけだ」
「……そうか。わかったよ」
もともと期待されて入ったわけじゃない。レオたちが魔族との戦いに勝ち進むにつれて、俺の存在価値は徐々に薄れていった。
だが、それでも一緒に旅してきた仲間の言葉に、少し胸が痛んだのも事実だった。
――まあ、いいか。これで自由の身だ。
そう思うと、すっと心が軽くなった。
◆
数ヶ月後。俺は王都から遠く離れた辺境の村で、カフェを開いていた。
カフェの名前は《黒猫亭》。
魔物の肉を使ったハンバーグプレート、スライムミルクのラテ、風精霊の葉で煮出したハーブティーなど、ちょっと変わったメニューが売りだ。
「セイルさーん! 今日のケーキ、完売だってさー!」
元冒険者の獣人娘・ミーナが厨房に走ってきた。
彼女は俺の店の看板娘で、接客も厨房も万能。正直、彼女がいなければ開店すら無理だっただろう。
「ありがとう、ミーナ。今日も大盛況だね」
「ふふん、田舎なのにお客さんいっぱい来るのは、セイルさんが作る料理が美味しいからだよー!」
……いや、本当の理由は別にある。
実はこの村、魔王城に一番近い場所にある「最前線」だった。
俺は追放された後、一人で魔王城へと向かい、魔王を倒したのだ。
その過程で俺は“封印された本来の力”を取り戻した。
俺の支援魔法は、元々は【世界術式】と呼ばれる最上級の補助魔法だったのだ。
ただし、王国の鑑定士にはその真価がわからなかったらしい。
だから俺は「無能」として追放された。
だが、封印が解けた今の俺は、王国でも最強クラスの魔導士と渡り合える力を持っている。
◆
その日の夕方。
店の扉が開いた。
「……っ! ここで合ってるはずだ……!」
現れたのは、かつての仲間たちだった。
勇者・レオ、聖女・アリシア、戦士・グラン。全員、ボロボロの姿で立っていた。
「……セイル、助けてくれ……!」
勇者が頭を下げる。プライドの塊だった彼が、土下座をする姿など想像もしなかった。
「魔王を倒したあと、魔族の残党に襲われて……。お前の支援がないと、俺たちじゃ立ち行かない!」
「ふぅん」
俺はカウンター越しに、紅茶を一口すする。
「俺は役立たずなんだろ? 戦闘もできない、足を引っ張るだけの存在だったんじゃなかったか?」
「……っ、それは……俺が間違ってた! 本当にすまなかった!」
土下座しているレオの背中を、アリシアとグランが見下ろしている。だが、誰もその言葉を否定しない。
……ああ、こいつらは、俺が魔王を倒したことを知って戻ってきたんだ。
それだけのこと。
「悪いけど、俺はもう冒険者じゃない。ここで“役立たずなり”に、カフェをやってるんだ」
「……そんな……!」
俺は彼らの目の前で、ミーナにこう告げた。
「ミーナ。そろそろ夕飯の仕込みをしよう。今日のスペシャルは、スモークドラゴンの炙りでいくよ」
「はーいっ!」
追放されて良かった――そう思えるようになったのは、ここでの生活が心から楽しいからだ。
俺の人生は、あの追放の日から始まったんだ。
だからもう、戻るつもりなんてない。
――「役立たず」な俺は、今日も美味い飯を作ってる。
【完】