ep.92 文化祭、開幕 ②
「はぁ〜……」
「大丈夫?」
「は、はい……まさか女子と間違わられてナンパされるなんて……」
「まぁ、ヨミは可愛いからね〜。しょうがないよ〜。でも、あんな野郎どもがヨミに近づくなんて許せない!」
「エルナさんが来てくれて良かったです。あのままだったら僕、何もできてなかったと思うので……」
「ヨミの事は、私が守るから安心して!」
「は、はい……! ありがとうございます……!」
ヨミはちょっとした複雑な思いを抱いたまま、エルナの隣に並んだ。
そして、二人で買い出しに向かった。
☆ ♡ ☆
『一日目、終了〜〜〜!!! イェ〜イ!!!』
夜。
ヨミのいるクラスで、営業を終えた皆が一日目の終了を祝っていた。
「いや〜一日目で材料足りなくなるとは思わなかったな〜!」
「そうだね〜! 一日目でこんなに大盛況になるなんて思わなかったね〜!」
など、生徒達が盛り上がっている。
そんな中、ヨミは──、
「今日だけで、五回……五回間違われた……女の子に……間違われ、た……」
「よ、ヨミさ〜ん……? 元気出してくださ〜い……」
机に突っ伏し、落ち込んでいるヨミにユリアが気まずそうに声をかけている。
「エルナ、ミャナさん」
「「ん?」」
「ちょっといいですか?」
「「ん?」」
エルナとミャナは、アイアに呼ばれて廊下に出る。
「どうしたの?」
「何?」
「ヨミさんに関してです」
「ヨミに関して?」
「ヨミ君がどうしたの?」
「平静を装ってはいますが、ヨミ様のご様子がどこかおかしいんです」
「「え……?」」
アイアの言葉に、二人が首を傾げる。
「何か、何かを隠しているような気がするんです……。昨日のお風呂の後、みんなが寝た後、ヨミ様、一人で苦しそうにしてて……」
「ちょ、なにそれ! 何も知らないんだけど!?」
「具体的に、どこが苦しそうなの?」
「胸のあたりを押さえていました。私達に聞こえないように声は殺していたみたいなんですが、額にはとてつもない汗をかいていて……」
「な、何それ……」
「ヨミ君、私達に心配かけないように、隠してたんだ……全然気づけなくて、私の馬鹿……!」
ヨミの異変。
それは、時々起こる胸の痛みの事。
ヨミ本人は、皆に心配をかけたくないと秘密にし、普段通りに振る舞っていた。
皆と一緒にいる時は、不思議と痛みは出ず、一人になると痛みだす。
よって、なんとか隠せていたのだが、アイアがそれをたまたま見てしまったので、ついにバレてしまった。
「隠していると言う事は、何か理由があると言うことです。こちらから無理に聞いたり、詮索したりはしないでおきましょう」
「なんで! しっかり聞いて守れるようにした方がいいでしょ!」
「いや、多分そんなのヨミ君は望んでない。何かあれば必ず言ってくれるはず。それを言わないって事は、私達に余計な心配をかけたくないって事。だったら、その気持ちを尊重してあげるべき」
「そ、それは! そう、だけ、ど……」
三人の間に、少しの沈黙が流れる。
と、そんな三人の元に──、
「エルナさん? アイアさん? ミャナさん?」
ヨミとユリアの二人がやってきた。
「どうしたんですか? 三人共」
「あ、い、いえ! ちょっと三人で反省会をしてただけですよ」
「そ、そうそう。赤髪の失敗を責めてた」
「ちょ、おい〜! なんで私の失敗になってんだぁ!? ってか私失敗なんかしてないし!」
「夕飯を教室で食べようってみんなが。行きましょう?」
ヨミがそう誘ってくる。
「「「…………………」」」
ヨミの顔を見て一瞬顔を暗くする三人だったが、すぐに表情を戻し──、
「そうだね! 行こう!」
「私、お腹空いた」
「そうですね。そう言えばほとんど何も食べてなかったですからね」
「え!? 三人ともそんな状態で仕事してたんですか!? 駄目ですよ〜! ちゃんと食べないと〜!」
教室に向かう四人を眺めるヨミ。
ドクンッ!
「ぐっ……! うぅ……! ふぅ〜……」
またもや痛んだ胸を押さえながら、深呼吸をして──、
「大丈夫。大丈夫」
と、言い聞かせてユリア達に合流した。
この胸の痛みが、ヨミの運命を左右する事になるとは、誰も気づいていなかった。




