ep.87 文化祭の準備 ⑦
文化祭の準備が佳境に入り、皆の準備は慌ただしいものになっていた。
「あれ? あれってどこにある?」
「ここにある!」
「これは、どこに付けるんだっけ?」
「そこ! あと、これも一緒に!」
「服のほつれがあるよ! ここ補強して!」
「了解! 今行く!」
など、教室の中は慌ただしかった。
「ミャナさん! ここお願い!」
「分かった! アイア!」
「はい! ここに入ります!」
ミャナとアイアの二人も仲良くなっており、連携がよく取れていた。
ユリアは他の生徒と共に服の最終チェックを行っていた。
「エルナさん、ちょっといいですか?」
「うん、何?」
エルナは、ヨミのメイド服をチェックする為、密かにヨミの元を離れる。
一人残されたヨミは──、
「ぼ、僕だけ、何もしてない……」
呆然と立ち尽くし、悲しそうにそう呟いた。
と、その時──、
ドクンッ!
「うっ!?」
突如、ヨミの胸に激痛が走った。
早まる鼓動、痛み出す胸にヨミはたたらを踏む。
「くっ……!」
ヨミは、ふらつきながらもなんとかその場から離れる。
頑張ってるみんなにいらぬ心配を、何より迷惑をかけたくなかったから。
「最近、痛みが増している気がする……! この痛み、一体なんなんだろう……? くっ……!」
ヨミは、階段に座り込み呼吸を整える、
胸が相当痛むのか、服がシワになるくらい力強く掴んでいる。
しばらくの時間が過ぎ──、
「はぁはぁ……だいぶ落ち着いて来た……これって、クロノスドラゴンが抑えてくれてるのかな……?」
ヨミは痛みが和らいできたのが、クロノスドラゴンのおかげだと考えていた。
日々痛みは増しているが、その度におさまる時間が早くなっている。
それもあり、ヨミは自身に宿っているクロノスドラゴンが鎮めてくれているのではと思っていた。
クロノスドラゴンは、グートとの戦闘以来、一回も姿を現さないし、会話もない。
ヨミは何気に心配していた。だが、この痛みを鎮める為に出てこないのであれば、ヨミからしたら感謝しかない。
「ふぅ〜……よし。そろそろ大丈夫、かな?」
ヨミは深呼吸をして、立ち上がろうとした。
と、その時──、
「ヨミ〜? どこ〜?」
「ヨミさ〜ん? どこですか〜?」
ヨミを探す、ユリアとエルナの声が聞こえてきた。
「心配かける訳にはいかない」
そう言ってヨミは、立ち上がり二人の元に向かった。
「あ、ヨミ〜! どこ行ってたの〜?」
「す、すみません……! ちょっとトイレに……」
「もう、それなら一言声かけてくれればよかったのに〜」
「す、すみません……!」
「ヨミさん、ちょっと手伝ってほしい事があって」
「あ、はい。なんでしょうか」
ヨミは、二人に何も違和感を抱かせないように、普段通りの様子を振る舞った。
それにより、二人は何も気づかずにヨミと接していた。
ヨミは、額に汗を浮かべながらもなんとか普段通りを貫き通した。




