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ep.8 仲間の絆と裏切り

 雨は止み、外に出られるようになったが、ユリアは出なかった。


「ヨミさん……」


 隣で苦しそうに息を切らすヨミを見やり、体育座りしながら泣きそうに呟いた。

 ユリアは、ヨミを一人置いていく事なんてできるはずもなく、ずっと付き添っていた。


「誰か、助けて……」


 ユリアがそう小さく呟くと、目の前に緑色のドレスを身に纏った女性が現れた。


「あ、あなたは……?」


 ☆ ♡ ☆


 ユリアが独り言を呟く、少し前。

 ユリア達がいる洞窟を、上空から見つめる一人の女性が。


「あ〜らら。まさかこんな所でつまずくとは。で〜も、まだあなたには死んでもらっちゃ困るのよ」


 そう言った瞬間、緑色のドレスを身に纏った女性は一瞬にして、ユリア達の洞窟の中に移動していた。


 ☆ ♡ ☆


「あ、あなたは……?」


 突然、目の前に現れた女性に、ユリアは戸惑いが隠せない。


「私の事は今は気にしないで。それよりそこの彼、このままじゃ死ぬわよ」

「え!?」


女性の唐突すぎる宣告に、ユリアは目を見開いて驚いた。


「ど、どうすれば助けられるんですか!?」


 ユリアは気が動転しながらも、ヨミを助ける方法を尋ねた。


「あなたに助ける方法は無いわ。 ”今は” ね。でも、私なら助けられる」

「ほ、本当ですか! お願いします、ヨミさんを助けてください!」

「必死なのね」

「はい……! ヨミさんは幾度となく私を助けてくれました。自分の身を犠牲にしてまで……なので、今度は私が助けたい、恩返しがしたいんです! だから……!」

「分かった。今助けます」


 そう言って女性は、ヨミを抱き上げ、顔を近づけ──、


「へ、へっ!?」


 女性は、ヨミに口づけをした。しかも軽いものではなく、深めの舌を絡めるものだった。

 数秒の口づけを終えると、女性はゆっくりヨミから顔を離し──、


「これでこの子は助かるわ。経過をしっかり見てね。それと、これ。解毒剤」

「え? 解毒剤?」

「えぇ。この子のこの症状、おそらくヴェノムカーデの毒ね。何か雨のような水滴を体中に浴びたんじゃない? それで毒が体に付着して、症状が出た」

「た、確かに雨を浴びましたが、私は何も起こってません。雨が原因だというのなら、なぜヨミさんだけが……」

「それは……私にも分からないわ」


 女性は、何か知ってそうな感じだったが、ユリアに気づかれないように誤魔化した。


「もし、他の人が同じ毒に侵されていたら、その解毒剤を使って。毒を消せるはずだから。じゃ、私はこれで」

「あ、ありがとうございました……! あの、お名前は……あれ? いない……?」


 ユリアは感謝を伝え、頭を下げた。そして、頭を上げて名前を尋ねようとしたが、そこに女性の姿はいなかった。

 ユリアは不思議に思ったが、ヨミの体調が先程よりもよくなっているのに気がついた。

 それを見たユリアは、ホッと胸を撫で下ろした。

 しかし、ユリアにはどうしても気になる事があった。それは──、


(な、なぜあの人はヨミさんにき、キスをしたのでしょうか……? 解毒剤があるのであれば、ヨミさんにそれを飲ませればよかったのでは……? そういえば、なぜキスしただけでヨミさんは治ったのでしょう……? 色々と謎です)


 ユリアは、ぐんぐんと回復していくヨミを見ながらそんな事を考えていた。


 ☆ ♡ ☆


 ユリアが、ヨミの経過観察をしている中、そのはるか上空で。


「ふふふ。ヨミのこの味、まだ足りないわね。もう少し泳がせた方が良さそうね。もっともっと私の為に頑張ってね、 ”ヨミちゃん”」


 そう言って女性は、姿を消してしまった。


 ☆ ♡ ☆


 謎の女性にキスされた後、ヨミはみるみるうちに回復していった。

 熱も引き、背中の血も止まり、目も覚ました。

 しかし、念の為、ユリアが最後に治術を使用しヨミを回復させた。

 そして、二人はエルナ達の元へ戻る為、洞窟を後にした。


 ☆ ♡ ☆


 エルナは、汗をかきながら必死に治術を使用していた。だが、すでに魔術費は底をつきかけていた。


「はぁはぁ……も、もう、魔術費が……誰か……」


 エルナが今にも倒れそうになった時、そこに──、


「エルナさん!」

「あっ……! ユリア、ヨミ……!」


 ヨミとユリアが駆けつけた。ヨミ達の姿を見つけたエルナは、涙を流した。よっぽど苦しかったのだろう。


「エルナさん! 大丈夫ですか!」


 ユリアが、エルナに近づき体を支え尋ねる。


「わ、私は大丈夫……でも、アイアが……」

「この症状……ヨミさんと同じ……だったら、これを。アイアさん、飲んでください」


 ユリアは、謎の女性からもらった解毒剤をアイアに飲ませた。


「ぐっ、ぐふっ!」

「アイア!」


 無理矢理飲み込ませた為、最初はむせ込んだが、その後、みるみる内に顔色がよくなっていった。


「アイア……」


 エルナは、どんどん良くなっていくアイアの様子を見て安堵の声をもらす。


「ユリアさん、これは?」


 ヨミが、ユリアがアイアに飲ませた物が気になり尋ねる。


「あ、これはヨミさんを助けてくれた女性が、同じ症状で苦しんでいる人がいたら、これを飲ませてってくれた解毒剤です」

「そうだったんですね。じゃあ、アイアさんは……」

「はい。おそらく回復すると思います」

「そうですか。良かった……。エルナさんは──エルナさん!?」


 ヨミがエルナに視線を向けると、エルナは倒れてしまっていた。


「おそらく、魔術費を大量に消費してしまったのでしょう。大丈夫です。眠っているだけです。じきに目を覚ましますよ」


 ユリアは落ち着いた様子で、エルナの頭を撫でながら答えた。

 その様子にヨミは、詳しいなぁといった感じで感心していた。


「あれ? そういえばグートさんは?」


 ヨミは、この場にいるはずのもう一人の仲間の存在に気がついた。

 しかし、この後、グートがヨミ達と合流する事はなかった。


 ☆ ♡ ☆


 ヨミ達がエルナ達と合流した日の夜。

 アイアは回復し、目を覚ましていた。


「ヨミ様、ユリアさん、本当に申し訳ありませんでした……!」


 アイアは姿勢を正し、ヨミとユリアに謝罪した。


「え、ちょ、どうして謝るんですか……?」

「こんな事態になってしまったのは、私達が喧嘩をしてしまったせいですので……」


 アイアは俯きながら、ヨミの質問に答えた。


「そんな事気にしないでください。今回のこの事態は謎の毒が原因だったんですから」

「そうですよ。アイアさんも被害に遭ったんですから、気にしないでください」


 ヨミとユリアは、アイアに優しい言葉をかける。今回は誰のせいでもないと。

 いや、誰かのせいにするのであれば、それはグートのせいであって……。


「二人共、ありがとう……赤髪、ううん。エルナもありがとう」


 アイアは涙ながらに感謝を口にした。それを三人がなだめ、落ち着いた後は夜遅くまで話し込んだ。


 ☆ ♡ ☆


 ヨミ達四人が、楽しそうに話している中、その様子を遠くから眺める人物が。


「くっ……失敗した……明日にはおそらくゴールに大きく近づく……その前にあいつを殺さなければ……お爺様に認めてもらうために……必ず……!」


 グートは、ヨミへの殺意を今まで以上に強く抱いた。


 ☆ ♡ ☆


 ヨミ達が合流して、翌日の朝。

 ヨミは他の三人よりも先に目覚めており、一人森を歩いていた。


「昨日のは一体なんだったのか……なんで僕とアイアさんだけが毒に……?」


 ヨミが一人でそんな事を考えながら歩いていると──、


「おい」

「え? あ、グートさん! どこに行ってたんですか? みんな心配して……」


 ヨミに声をかけてきたのはグート。しかし、その表情は暗いもので……。


「なんでお前は……なんでお前は……」

「ぐ、グートさん……?」


 拳を握りしめながら小さく呟くグートに、ヨミが心配そうに声をかけると──、


「お前のせいでお爺様の計画は崩れた! だからお前はここで死ね! 魔獣術・ヴェノムカーデ! 魔具術・ヴェノム!」


 グートは、魔獣・ヴェノムカーデを召喚し、それを小さな瓶に変え、その中に入った毒をヨミに向かって放った。


「うわっ!?」


 毒がヨミに直撃してしまった。


「はは……はっ。やった。やったぜ。やったぜ! ついにヨミ・アーバントを殺したぜ! これでお爺様に認めてもらえる!」


 グートが歓喜に震えていると──、


「あんたの仕業だったのね、グート!」

「あぁ?」


 ヨミがいた方から女子の声が聞こえてきた。グートがその方向に目を向けると──、


「なっ!? お、お前ら、なんで!?」


 そこには、ヨミの前に立つエルナ、アイア。そしてヨミの隣で体を支えるユリアの姿があった。


「ヨミの姿が見当たらなかったから探しに来たのよ。そしたら、あんたがヨミに攻撃をしようとしてた!」


 エルナがグートを指さして、怒気を込めて言い放つ。


「くっ……テメェら、俺の邪魔してどういうつもりだ!」

「どういうつもり? それはこちらの台詞ですわ! ヨミ様の命を狙うとは何事ですか! 仮にも今回の特別授業で共に行動する仲間でしょう! それなのに命を狙うなんて!」

「仲間? はっ。そんなものに興味はない! そもそもこの班に入れてもらったのは、そいつを殺す為なんだよ! その為にこの班に入り込んだんだ! その為に! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「皆さん、避けてください! うわ!?」


 グートは、ヨミに向かって走り出した。その際、ヨミがエルナとアイアの前に出て、二人を庇った。すると、グートの突進がヨミに直撃。

 そのヨミは──、


「うわああああああああああ!?」


 崖の下に落下してしまった。


「ヨミ!?」「ヨミ様!?」

「ヨミさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!?」


 ユリアの叫びが、森の中に響き渡った。


 ☆ ♡ ☆


 ヨミがグートに突進され、崖から転落してしまい、ユリアがヨミの名前を叫んだ頃。

 泉霞叡術魔術学園の、一年生の教室内で。一人椅子に座り、窓の外を眺める人物がいた。


「何か嫌な胸騒ぎがする……あの子達に何もなければいいが……無事でいてくれよ、ヨミ、ユリア、みんな……」


 ユリアの姉で、ヨミ達の担任教師のミリアが、胸に手を当て、強く願っていた。

 果たして、その願いは届くのだろうか……。

 遅くなってしまい、大変申し訳ございません……!

 連続投稿なので、この続きはすぐにお読みいただけます! 楽しんでください!


 書き方を色々と変えてみました!

 もし読みにくかったり、逆に読みやすいなど、思った事がありましたら、遠慮なくお伝えください!

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