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ep.7 クラス対抗クエスト【2】

「他のクラスもいるのかしらね?」


 エルナが辺りを見回しながら言った。


「さぁ。ただ、先生は仲間との絆やチームワークを確かめる特別授業と言っていましたから、他のクラスもいる可能性はあるわね。さしずめクラス対抗クエスト、と言った所かしら?」


 エルナの疑問に、アイアが答える。


「ご丁寧にどうも。別にあんたに聞いた訳じゃなかったんだけどね」

「なんですの、その態度。せっかく親切に答えてあげたと言うのに」

「ふん。だから頼んでないのよ」

「赤髪……あなたって人は……!」


 エルナとアイアの間に、火花が見えるような気がして、ヨミが慌てて──、


「ま、まぁまぁ落ち着いて……チームワークが大事なんですから、仲良くしないと。ね?」

「は、はい……すみません……ヨミ様……」

「ごめんね、ヨミ」

「い、いえ……大丈夫ですよ。でも、仲良くはしましょうね」

「「はい」」


 二人はシュンとしてしまった。


「それより、僕達以外の生徒が見当たらないのはなぜでしょうか?」


 ヨミが辺りを見回す。

 この場には、ヨミ達五人以外見当たらなかった。


「先生が、五人一組の班ごとにスタート地点が異なると言ってただろ。バカか貴様は」


 ヨミの疑問に答えたのは、先程、ヨミ達のやりとりを遠くから見つめていた男子生徒──グート・ヴォルアだった。

 この名前を聞いて気づくだろうが、このグートはグルスの孫だった。


「す、すみません……」


 ヨミが気まずそうに謝罪すると──、


「ヨミ、謝る必要はないわよ。あんなクソ生意気な奴になんて」

「そうですよ。あんな上から目線のクソッタレさんには、謝罪の言葉をかける必要はないわ」

「ちょ、ちょっと二人共……!? せっかく教えてくれたんですから、そんな言い方は駄目ですよ……!」

「いくらヨミの頼みでも嫌! あんな奴に感謝したり謝ったりなんて!」

「そうです! そもそも、なんであなたが私達と同じ班なんですか? 五人一組と言ったら、ヨミ様と私。そしてユリアさん、赤髪、後は私の取り巻き一人が普通ではありませんか? なのに大して関わりもないあなたが、なんで同じ班に……」

「まさか、ユリア狙い?」

「それは聞き捨てなりませんわね。あなたも男。特別授業では野宿をすることになります。その隙をついてユリアさんを襲うつもりなのですか?」


 エルナとアイアの憶測がどんどんと暴走していく。そんな憶測に流石に堪えきれなくなったのか──、


「んなわけあるか。誰もテメェらには興味ねぇよ。そもそも決めたのは先公だろ。俺じゃねぇ。憶測で人の事悪く言ってんじゃねぇよ」


 一触即発の最悪な雰囲気。そんな空気を破ったのは──、


「まぁまぁ。仲良くしてください、三人とも。この特別授業の課題は仲間との絆、なんですから。初っ端から喧嘩していては、ゴールまでたどり着けませんよ」

「…………そうね。ヨミの言う通りだわ。ごめん。でも、あいつには謝らないからね」

「すみませんでした、ヨミ様。ヨミ様の迷惑も考えず……これからは気をつけますわ。ですが、私もあの人には謝りません」

「あは、あはは……」


 ヨミは、苦笑いするしかできなかった。


(ヨミ・アーバント……貴様はこの特別授業で、必ず殺す……!)


 ☆ ♡ ☆


 なんとかエルナ達の喧嘩も収まり、五人は学園へと向かうため、魔物の森に足を踏み入れた。


「なんか不気味ね」

「魔物が住んでいる森ですからね」

「ルートを守れば安全だって、ミリア先生が言ってましたから、そのルートを通れば大丈夫ですよ」

「そうね」


 ヨミが不安そうなユリア、エルナ、アイアを安心させる為に優しく声をかける。と──、


「入学試験もギリギリの落ちこぼれのくせに、偉そうな事言ってんじゃねぇよ」

「あぁ?」「何か、言いました?」


 グートがわざと、エルナ達に聞こえるように声を大きくして言うと、その言葉にエルナとアイアが反応する。その表情は怒りに満ちている。


「別に。お前らには何も言ってねぇよ」


 グートは「お前ら」を強調して言う。それに更に腹を立てた二人は──、


「あんたねぇ!」


 エルナが右手を振り上げ、グートに殴りかかろうとする。いや、もう振りかぶっていて、拳が直撃する数十秒前と言った所だった。しかし、それを──、


「ぐっ!?」

「よ、ヨミ!?」


 ヨミが二人の間に割って入り、エルナの拳を左頬に受け止めた。ヨミの口からは血が流れている。それを見ると、エルナがどれだけ力を込めていたのかがよく分かる。


「余計な真似を。このクソが」

「ちょっと、助けてもらっておいてその態度はなんなんですか?」


 アイアはグートの言葉を聞き逃さなかった。

 アイアとグート、エルナが再び一触即発の雰囲気を醸し出すと──、


「いい加減にしてください!」


 ユリアが怒鳴った。

 突然のユリアの怒鳴りに、その場にいた全員が驚き、目を見開いていた。


「さっき、ヨミさんに言われたばかりじゃないですか……この特別授業の課題は仲間との絆で、揉めていてはゴールにたどり着けないと……なのに、言われた側から同じ事を繰り返すなんて……それに、ヨミさんまで巻き込んで……私、もう耐えられません……! 皆さんがこのまま変わらないのであれば、私は、私は……くっ!」

「ゆ、ユリア!?」「ユリアさん!?」


 ユリアが走り去ってしまった。

 この森は危険な森。正しいルートを辿らなければ命の危険がある。そんな場所で一人になってしまってはかなり危険だ。


「僕が行きます。三人は先に今日のチェックポイントまで行ってください。もし、僕達が戻らなければ先にゴールして、先生達にこのことを知らせてください。頼みます!」

「よ、ヨミ!?」「ヨミ様!?」


 ヨミはユリアの後を追って走り出す。

 取り残された二人は、チェックポイントに向かおうとするが──、


「あれ? あいつは?」

「え? いない、ですね。どこに行ったのでしょう?」


 グートの姿が見当たらなくなっていた。

 だが、ヨミの指示を無視する訳にはいかないので、二人は取りあえず、最初のチェックポイントに向かうことにした。

 その道中、雨が降ってきた。


 ☆ ♡ ☆


 走り出したユリアの後を追いかけるヨミ。すると、ユリアの後ろ姿を捉えた。


(いた……!)


 ヨミが安堵の表情を浮かべると──、


「キャッ!?」


 ユリアが足を滑らせ、崖から落下してしまった。


「ユリアさん!」


 ヨミがすかさずユリアを抱きかかる。そして二人一緒に勢いよく落下してしまう。

 ユリアを抱きかかえているので、ユリアへのダメージはほとんどなかったが、ヨミへのダメージは相当だった。そして、ヨミは地面へ勢いよく背中を打ち付けてしまった。


「痛つつ……」

「はっ!? よ、ヨミさん!? 大丈夫ですか!? どこか怪我は!?」


 ユリアはヨミの上から慌てて飛び退き、ヨミの身を案じる。


「だ、大丈夫です。少し背中が痛むだけですから。それより、ユリアさんの方こそ大丈夫ですか……? 怪我とかしてないですか?」


 ヨミは自分の事は気にさせず、変わりにユリアの身を案じた。その優しさにユリアは嬉しさと申し訳なさの二つの感情が入り混じっていた。


「はい、大丈夫です。ヨミさんに、守っていただいたので」


 ユリアは少し俯きながら答えた。ヨミの顔を直視したら、泣き出してしまいそうだったから。


「それなら良かった。では取りあえず、皆さんの所に戻りましょうか」


 そう、ヨミが提案すると──、


「すみません!」

「え?」


 ユリアが突然、謝罪を口にした。

 その突然の謝罪に、ヨミは首を傾げた。


「私、ヨミさんに迷惑をかけてしまいました……。この特別授業の課題は仲間との絆なのに、私が自分勝手な行動を取ってしまった事で、その絆を壊してしまった……それどころか、規定ルート大きく逸れ、崖から落ちて、更にはヨミさんに怪我を……本当にすみません……」


 ユリアはついに泣き出してしまった。泣き出し、ヨミに迷惑をかけてしまった事への申し訳なさを涙ながらに語った。それを聞いたヨミは──、


「ユリアさん泣かないでください。確かに、今回の課題は絆です。でも、課題をいきなり達成できるはずはありません。こういうのはゆっくりと時間をかけて築いていくものなんです。今回、僕達は少し焦りすぎた。僕の落ち度です。ですので、謝るのなら僕の方です。すみません」

「い、いえ! ヨミさんは悪くありません! 誰が悪いかと言えば私が……!」


 二人は互いに見つめ合い──、


「「ぷっ! あははははははは!」」


 笑い合った。


「やっと笑ってくれましたね」

「え……?」

「やっぱりユリアさんは、笑顔が一番です」

「っ!」


 ユリアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。ヨミの笑顔が可愛くて、それでいて格好良くて直視できなかった。


「ユリアさん……?」

「な、なんでもありまふぇん!」

「ふふ。そろそろ行きましょう。立てますか?」

「は、はい……」


 ユリアは声が上ずって、語尾を噛んでしまった。

 ヨミは可愛いなと思いながら、優しくはにかみ、ユリアの手を取り立ち上がった。

 背中はかなり痛むが、ユリアの前で情けない姿を見せたくないので、少しだけカッコつけていた。


「この崖を登るのは難しそうですね。どこか上に繋がる道を探しましょう」

「はい」


 こうして二人は、エルナ達の元へ戻る為、道を探す事になった。

 この、魔物が住む危険な森の中で。


 ☆ ♡ ☆


 ヨミとエルナが道を探している中、エルナ、アイアは──、


「チェックポイントに着いたけど、ヨミ達は……いないわね」


 エルナが、遠くを眺めながら呟いた。


「えぇ。このまま戻らないなんて事は……」


 アイアが俯きながら暗めのトーンで呟くと──、


「へ、変な事言わないでよ! 確かに戻らなかったら先にゴールしろとは言われたけど、戻らないとは言ってなかったでしょ!」

「そ、そうよね、ごめんなさい……。少し気持がナーバスになってるみたいだわ」

「アイア……」

「チェックポイントに着いたんです。休みましょう。ヨミ様達が戻って来るかは、交代で確認する。それでどうですか?」

「そうね。それでいいわ。じゃあ先にアイア、アンタが先に休みなさい。かなり疲れてるみたいだし」

「あなたが先になさい! と言いたい所ですが、今回はお言葉に甘えさせていただきますわ。実は先程から謎の倦怠感が……」


 そう言って、用意されていたシートの上に座ろうとしたアイアだが──、


「ちょ、あ、アイア!? し、しっかりして! って何!? この熱……!?」


 アイアは、顔を真っ赤にして倒れてしまった。息も激しく切らし、汗もビッショリかいてしまっている。


「もしかして、知らない間に魔物に攻撃されていた? いや、もしかしたら害虫って可能性も……と、とにかく治療しなきゃ!」


 エルナは、アイアに治術を使用した。しかし──、


「熱が引かない……それどころかさっきより上がってる気が……どうすればいいの……? ヨミ、助けて……」


 エルナは瞳に涙を滲ませながら倒れてしまった。エルナの場合は、疲労と急激な魔術費の消費によるものだった。

 この後、すぐに目を覚ましたエルナは、一睡も取らずにアイアを治療していた。


 ☆ ♡ ☆


 エルナとアイアがチェックポイントに着く少し前。


「あ、雨!」


 突然降り出した雨に驚き、ヨミとユリアの二人は雨宿りの為、洞窟に避難していた。


「いや〜突然でしたね……っ!?」

「そうですね……ん? ヨミさん? どうしました?」

「い、いや、服が透けて、その……」

「……………はっ!? す、すみません……!」

「い、いえ……! 僕の方こそ見てしまってすみません……!」


 先程の雨のせいで、ユリアの服が透けてしまい、その下にある水色の下着が見えてしまっていた。

 ヨミは上着を脱ぎ、ユリアに着させる。ユリアは恥ずかしそうに、それでいてどこか嬉しそうにヨミの上着を着ていた。

 ヨミが洞窟にあった木を集め、火炎術を使用し焚き火を作る。

 そうして、それで暖を取っていると──、


「はぁはぁ……」

「よ、ヨミさん……?」


 突然、ヨミが苦しみだした。心配になったユリアが声をかけるが──、


「うっ……」

「ヨミさん!?」


 ヨミがその場に倒れ込んでしまった。しかも──、


「す、すごい熱……!? なんで突然……!?」

「はぁはぁ……」

「ヨミさん苦しそう……どうすれば……あ、とりあえずこれを」


 ユリアはヨミに借りた上着を、ヨミにそっとかける。


「ヨミさん……一体なんで……?」


 なんで突然、ヨミが熱を出したのか分からず、今にも泣き出してしまいそうなユリア。

 だが、泣かない。だって、今一番苦しいのはヨミだから。

 しかも、背中から多少だが出血をしている。


「私がしっかりしないと! ヨミさんは私を守ってくれた。助けてくれた。だから今度は、私がヨミさんを助ける番!」


 そうしてユリアは、ヨミに治術を使用し、看病を続けた。


 ☆ ♡ ☆


 チェックポイントでアイアが倒れ、洞窟でヨミが倒れている頃。

 そのどちらも見える上空で。


「なんとか標的のヨミ・アーバントに効いたみたいだな。しかし、なんであの二人には効かないんだ? じじいから貰ったヴェノムカーデの毒は最強の毒で、少しでも肌に付着したらああいう風に苦しむはずなんだけどな……。まぁいい。このままヨミ・アーバントが死んでくれれば……」


 上空に浮かぶのは、グルスの孫のグートだった。

 彼が何をしたのかは分からないが、独りごちるグートの表情は、どこか暗い感じがした。

 いきなり、分裂してしまったヨミ達。そして、謎の熱にうなされるヨミとアイア。

 それを見て、独りごちるグート。

 二人の身に何が起きて、グートは何を企んでいるのか。色々と考察しながら楽しんでいただけたら、嬉しいです♪

 この続きは、2/9に投稿しますので、お楽しみに!


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『龍  岳』を、よろしくお願い致します!

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