ep.75 エルナの思い
「はぁはぁ……」
皆がそれぞれ、休息を取るために解散した後。
時刻はもう夜になっていた。
そんな中、トレーニングウェアを着たエルナが学園の周りを走っていた。
(もっと……もっと強くならないと……! あんな奴に苦戦して、時間をかけて、ヨミを傷つけてしまった……私がもっと強くて、もっと早く倒していれば、こんな事にはならなかったかもしれない……)
どのくらい走っているのかは分からないが、トレーニングウェアに染み込む汗の量からして、かなりの時間走り込んでいる事が分かる。
(ミャナはヨミの力を得た……それって、多分あの子がヨミの力を発現できるほど強いってこと。それがない私は、まだそこまでの強さに到達してないって事になる……。自分が弱いって事は分かってる……分かってはいるけど、でも、それでも……!)
「めっちゃ悔しい……!!!」
暗闇にそう叫ぶエルナ。校門付近で立ち止まると、乱れる呼吸を整え始める。
「はぁはぁ……はぁ〜……」
エルナが、首にかけているタオルで顔の汗を拭っていると──、
「やっぱりこういう事でしたか」
「……? アイア……」
後ろから声が聞こえてきて、そちらを向くと、そこにはアイアがいた。
アイアもトレーニングウェアを着ていた。
「なんでここに……?」
「あなたが真っ先に休むことを提案したので、何かあるなと思っていたんです。そしたら案の定、一人で走ってた」
「…………………」
「水臭いですよ。走り込みをするなら、私にも声をかけてくれればいいのに」
ストレッチをしながら言うアイア。
「私は、強くなりたい……それに──」
「強くなりたいのは私も同じです」
エルナに言葉を遮り、アイアが真剣な表情を浮かべながら言った。
「私だって、あんな相手に苦戦して、数分と言えど気を失っていました。それがものすごく悔しい! だから、もっと強くなりたい! あんな奴に、もう二度と苦戦しないように!」
それに……とアイアは続け──、
「ミャナさんだけがヨミ様の力を得ているのが悔しい……! 何も得ていない私は、ミャナさんよりも弱いと言うことです……! だから、もっと強くなりたい……! エルナ、あなたもそうなんでしょう? だから、こうやって走っている」
「…………………そうよ。私はもっと強くなりたい。誰にも負けないくらい、ヨミの力をもらえるくらい、ヨミを守れるくらい、強くなりたい!」
「だったら、一人で特訓するのではなく、同じ志を抱く者同士、一緒にしましょう」
「分かった。一切の手加減はしないからね?」
「ふっ。当然です。私こそ、手加減はしてさしあげませんから、気を付けてくださいね。途中で泣き言を言っても、助けてあげませんから」
「それはこっちの台詞だ」
二人は見つめ合って──、
「「ぷっ! はは! あはははははははははははは!」」
笑い出した。
「それじゃあ、走り込み園内十周、行くよ!」
「えぇ! 置いてかれないようにしてくださいね!」
「ふん! それじゃあ、よーい、どん!」
二人は元気よく走り出した。
走ってる最中の二人の口論が、静寂な夜の学園に響き渡った。




