ep.66 苦渋の決断と別れ……。
「タイリ、行くよ!」
「あぁ! 我はクロノスドラゴンだ!」
謎の男性とクロノスドラゴンは、同時にグートに向かっていく。
が、その二人が接近する前に──、
「ぐごっ!?」
「はっ!?」
グートがクロノスドラゴンを蹴り飛ばしていた。
蹴られたクロノスドラゴンは、真横に吹き飛んだ。
「ぐはっ!?」
壁に激突したクロノスドラゴンは、大量に吐血をしてしまう。
「はっ!」
すぐさまグートに接近する謎の男性だが、その接近に気づき、グートは姿を消してしまう。
「なっ!?」
グートを探すため、辺りを見回す謎の男性。しかし、どこにも見当たらない。
と、次の瞬間──、
「ぐっ!?」
上空からグートが回し蹴りをしながら降下してきた。それをいち早く察した謎の男性は、防御の体勢を取る。
しかし、グートの蹴りの威力が凄まじく、謎の男性は真後ろに吹き飛んだ。
「くっ……!?」
壁に衝突した謎の男性。しかし、その顔は笑っていた。
「……?」
男性の表情に疑問を抱いたグートは、首を傾げながら男性を見る。
「ふふ。油断、したね……。一本、もらったよ……」
「っ!?」
謎の男性が痛む体をゆっくりと持ち上げながら、右手を前に突き出す。
その手には、グートの体に生えていたムカデの足が一本握られていた。
「これさえあれば、離れていても対処はできる……! 遠隔魔法!」
「ぐっ!?」
男性がムカデの足に魔法を使用する。と、少し離れた場所に立つグートが苦しみだした。
「今だ! タイリ!」
「だから我は、クロノス……ドラゴンだ!」
「ぐっ……!?」
脇から現れたクロノスドラゴンが、グートを巨大な手で吹き飛ばした。
グートは真後ろに吹き飛び、壁に激突した。
大きな噴煙が上がる。
なんとか立ち上がろうとしているグートに、さらなる追い打ちをかける。
「ハァァァァァ!!!」
「ぐがっ……!?」
謎の男性が、噴煙に割り込み、立ち上がろうとしていたグートに回し蹴りを打ち込んだ。
グートは蹴られた勢いで、斜め左後方に吹き飛ぶ。
「がはっ……!?」
地面を転がりながら吹き飛び続けるグート。
ようやく止まった所で、大量に吐血をしてしまう。
「「はぁはぁ……」」
謎の男性とクロノスドラゴンは、大きく息を切らしながら、グートを油断なく見据えている。
と、グートがゆらりゆらりと揺れながら立ち上がってくる。
「はは……これはちょっと予想外だね……」
「ああ。まさかここまでやるとはな。俺とお前が組んだ戦いでここまで持ったのは、こいつが初じゃないか?」
肩を並べ立つ二人。その二人の額には汗が滲んでいた。
「そうだね。ここまで長引くとは、思ってなかったよ。だから、そろそろ終わらせよう」
「あぁ」
謎の男性のその言葉を聞いたヨミは、痛みに耐えながら尋ねた。
「お、終わらせるって……な、何を……?」
「ヨミ君。ごめんね。君には悪いけど、彼を殺す」
「っ!?」
謎の男性から告げられた答えに、ヨミは絶望した。
「行くよ!」
「あぁ!」
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………!」」
二人は ”魔力” を込め始めた。
謎の男性は両手を前に突き出し、グートにかざした状態で手の先に。クロノスドラゴンは口を大きく開けてそこに魔力を集めている。
「や、止めて、ください……!? ぐ、グートさんを殺すだなんて、そんな……!」
「ごめんね。助けてあげられなくて。もう、こうするしか手はないんだ」
ヨミの訴えに、悲しそうな声で答える謎の男性。
男性も、本来であれば殺したくなどないのだ。
だが、そうしないとこの危機的状況を打破する事ができない。だから、そうするしかないのだ。
「行くよ、タイリ!」
「あぁ!」
二人は ”魔法” をグートに放った。
「「殲滅魔法! アナイアレイション!」」
クロノスドラゴンの口から火炎放射のような炎が、謎の男性の両手から紫色の閃光が放たれた。
「ぎゅああああああああああああああああ!?」
その二つが、グートに直撃。グートが絶叫を上げた。
「あああ!? ああああああああ!?」
体が焼かれる。全身が引き裂かれるような痛みが走る。終わらない苦しみ。
その全てにグートは泣き叫ぶ。
その声を聞き、苦しくならない人は誰もいないだろう。
男性もクロノスドラゴンも、ヨミも苦しそうな顔をしながら俯いている。
「ごめんね……でも、こうでもしないと君の苦しみを終わらせてあげる事ができない……。だから、もう、終わりにしよう」
クロノスドラゴンと男性の攻撃の威力が上がる。
そして、数分、グートを攻撃しようやく攻撃が終わった。
「これで、彼は……」
跡形もなく消えている。
はずだった。
「うぅ〜……」
「「「っ!?」」」
グートが立っていた場所に、真っ黒になり、全身ボロボロな状態のグートがフラフラしながら立っていた。
「な、なぜ!?」
「我らの威力が足りなかったのか……?」
「ヴェノムカーデの姿がなくなってます! い、今なら助けられるんじゃ……!」
ヨミが一縷の望みを抱き、男性に尋ねる。
が──、
「いや。あの液体を大量に浴び、ヴェノムカーデと一体化した。そうなってしまっては、いくら自我があったとしても、いくら正気に戻ったとしても、もう……助からない……」
「そ、そんな……」
「すまない……」
結局、グートはどのみち助からなかった、と言う事になる。
それでも、なんとか助けたいと男性も思っていた。だが、無理だった。
「はぁはぁ……っ」
「あっ! ぐ、グートさん、待って……!? くっ……」
グートはフラフラになりながら、どこかに去って行ってしまった。
ヨミはその後を追いかけようとしたが、体が痛み、動けなかった。
「奴は、どうなる?」
「………………多分、徐々に体が灰になって、消えていくと、思う……」
「なるほどな。それが、奴の運命、か」
二人の会話を聞いたヨミは、一人涙を流していた。
暫くの沈黙が流れた後、その沈黙を破ったのは謎の男性だった。
「おっと。戻ってきたみたいだね」
「そうか。じゃあ、別れだな」
「うん。タイリ? くれぐれもヨミ君を傷つけないようにね? 君が厳しくするのは愛だと分かっているけど、君は時にやり過ぎるきらいがある。君は良かれと思っているかもしれないけど、それが人にとってはとんでもない苦痛なんだかね? それに──」
「あ〜もういい! さっさと帰れ!」
「ふぅ〜。全く。とにかく、もう少し優しくしなよ?」
「はいはい」
「本当に分かってるのかな? まぁいいや。ヨミ君。僕はこれでお別れだけど、一つだけ言っておくね」
「は、はい……」
「自分自身の事、嫌いにならないでね」
「え……?」
「じゃあ、またね」
そう言って謎の男性は、姿を消した。
光りの粒子が散っていくかのように。
そして、それと入れ替わるように──、
「ヨミ〜? ヨ──ヨミ!?」
エルナがやって来た。その後ろにはユリアもいる。だが、なぜかボロボロだった。
そして、アイアとミャナの姿は見えなかった。
「ヨミ! ど、どうしたの!? ユリア! 治癒!」
「は、はい!」
倒れているヨミに駆け寄り、ユリアが治術を使用する。
「み、皆さんこそ、ぼ、ボロボロじゃ、ない、です、か……」
「ヨミ!? ヨミーーーーーーーーー!?」
ヨミは気を失ってしまった。
今回は少し長くなってしまいました……!
ですが、その分楽しんでいただけると思いますので、最後までお楽しみください♪
次話から【絆編】の新たな物語が始まります!
あの冒険者達との戦いが……?
今後がどうなるのか、楽しみにしていただけますと幸いです!
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