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最弱の魔法使いが、女子の力を借りて最強に  作者: 龍  岳
第一章 絆 編【グート・ヴォルアの過去】
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ep.61 崩れる平穏

 その日は土砂降りだった。

 いつもなら外で遊ぶが、雷も鳴り暴風も吹き荒れているので外に出ることができなかった。


『父様、大丈夫かな……?』


 父様はこんな日でも仕事に出かけている。

 と言うか、二日前に仕事に行ってから一度も帰ってきていない。

 仕事に出かけると帰ってこない事なんて、これまでも何回もあった。でも、この日ばかりは何か嫌な予感がしていた。

 その予感が的中する事になるなんて、当時の俺は思いもしなかった。


『坊ちゃま!?』

『ど、どうしたのメーリ……そんなに慌てて……』

『だ、旦那様が……旦那様が……!?』

『っ!?』


 部屋にやって来たメーリの言葉を聞き、俺は慌てて屋敷の一階に降りていった。

 すると、玄関にお祖父様と父様の職場の同僚である騎士の人が立っていた。

 母様はお祖父様の隣で泣き崩れている。


『か、母様……? お祖父様……?』

『グーちゃん……グーちゃん……!』


 母様が俺を抱き寄せた。

 その体は濡れていた。この豪雨の中外に出たのだろうか?

 よく見るとお祖父様も濡れている。


『か、母様……? どうしたんですか……? 何があったんです……?』

『うっ……! うぅ……!』


 母様は泣いてしまっている為、会話ができなかった。


『話は分かった。この天候の中、わざわざすまなかった。報告に感謝する』

『いえ……! それでは、失礼いたします……! っ……』


 騎士の人は、お祖父様に敬礼した後、俺の方を向いて一瞬悲しげな顔をした。

 だが、すぐに表情を戻し家を出ていった。


『お、お祖父様……?』

『グート、メーリと一緒に部屋に行っていなさい』

『え……? でも母様は──』

『いいから言うことを聞きなさい!!!』

『っ!? は、はい……』


 俺はそこで生まれて初めて、お祖父様に怒鳴られた。

 今まで一度も怒られた事なんてなかったのに。


『グート君……』


 メーリが俺の手を引いて、部屋へと連れて行ってくれる。俺は階段を上る時も、部屋へと続く廊下を歩く時も、一階で泣き崩れる母様が心配でしょうがなかった。


 この日からだ。母様もお祖父様も俺と距離を置き始めたのは。


『母様?』

『グーちゃん、ごめんね……。メーリと遊んでてくれる? 母様、やる事があるから……』


 いつもそう言って部屋に閉じこもるようになった母様。あの日から一度も遊んでもらった記憶がない。

 どうして母様はこんな風になってしまったのか。

 俺がその理由を知ったのは、キッチンでメイド達が会話してるのを聞いてしまったからだった。


『いつまで隠しておくのかしら。もう二年も経ってるのよ? 坊ちゃまだってそろそろ受け入れられると思うんだけど……』

『そうね……そろそろ伝えた方がいいと、私も思うわ。 ”旦那様が亡くなってしまった事” 』


 それを聞いた瞬間、俺は一目散にお祖父様の元へと向かった。

 父様が死んだ……? そんな事ありえない。

 だって、あの強くてかっこいい父様が死ぬなんて、絶対にあるわけがない!

 誰にも負けない槍の技術と、魔法があるんだから父様は死んだりしない!

 そう思った俺は、お祖父様に真相を聞く為にお祖父様の部屋をノックも無し開けて入室した。


『なんの用だ? 私は今忙しい。話なら後で──』

『父様が死んだって、嘘だよね……?』

『っ!?』

『あの最強の父様が死ぬなんて、ありえない……死んだりなんかしてないよね!?』


 俺の問いに黙り込むお祖父様。


『ねぇ!!!』


 俺が泣きながら叫ぶと、お祖父様は俺の目の前までやって来て、しゃがみ込み、優しく抱きしめてくれた。


『黙っていて、すまない……!』

『え……じゃ、じゃあ、父様は……』

『あぁ……逃げ遅れた人を守ろうとして、土砂に巻き込まれ、そのまま……』

『うっ……うっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』


 俺は、お祖父様の腕の中で泣き叫んだ。

 お祖父様は、俺が泣き止むまで、落ち着くまでずっと抱きしめてくれていた。


 お祖父様に「詳しい話は今度、落ち着いてする」と言われ、俺は部屋に戻った。

 部屋にはメーリがいた。


『グート君……』

『お前は知ってたんだよな?』

『っ……そ、それは……』

『答えろよ!』

『し、知ってた……グート君を呼びに行く前に、会話を聞いちゃって……』

『なんで教えてくれなかった……?』

『そ、それは……』


 今思うと、この時の俺は最低だったと思う。

 誰も本当の事を教えてくれなかった事への怒りと、もっと母様達の様子に疑問を持ってこなかった自分への怒りで感情がおかしくなっていた俺は、その怒りをメーリにぶつけてしまった。


『出てけ』

『え……?』

『ここから出てけ!! もう二度と俺の前に姿を現すな!!! この嘘つきやろう!!!』


 俺はメーリに暴言を吐いた後、部屋のベッドに潜り込み泣き続けた。

 この時、メーリがどんな表情をしていたのかは分からない。

 でも、部屋を出ていく前に一言だけ、メーリは呟いた。


『さようなら』


 と。

 そして次の日から、メーリは屋敷から姿を消した。

 どこに行ったのか。それは、誰も知らないらしい。

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