ep.40 ヨミとミャナ ①
「調子はどうですか?」
「う〜ん……やっぱり ”異界の人間” は難しいわね。この世界の人間なら、簡単に洗脳できるのだけれど、何かが違うのかしらね? 洗脳ができたとしても、持って数時間。ずっと洗脳しておく事が全くできないわ」
とある薄暗い部屋で、髭を生やした男性が、薄緑色のドレスを纏った女性と話していた。
女性の前には、両手を鎖で繋がれた少女がいた。
服装は乱れており、下着が少し見えてしまっている。
少女は、床に女の子座りをしているが、手を鎖で繋がれている為、力なく前に項垂れている体勢になっている。
「天才の貴女でも難しいのですか」
「えぇ」
「そうですか……では ”残りの二人” は……」
「今のままじゃ到底無理ね。一人を洗脳するだけで手一杯よ」
「そうですか……」
「まぁ、できそうだったらやっておくわ。だから、あなたはなんとか正体がバレないようにしなさいな。グルス・ヴォルアさん」
「えぇ。そうします。グリエ・チャームさん」
二人の人物。髭を生やした男性は学園の学園長、グルスだった。
そして、もう一人は謎の存在、グリエだった。
この二人が言う ”異界の人間” とは一体なんなんだろうか。
☆ ♡ ☆
「フッ! フッ! ハッ! ハァッ! ふぅ〜……」
早朝。寮の庭で木刀を振る少女がいた。
灰色の肌着は、汗で黒く染まっていた。
「お疲れ様です」
「あ、ヨミ君」
木刀を振るっていたのはミャナだった。そして、そこにタオルと飲み物を持ったヨミがやって来た。
「これ、どうぞ」
「ありがとう♪ んくんくんく……ぷはぁ〜! 美味しい!」
ミャナは、水筒の飲み物を美味しそうに飲む。
そして、ヨミからもらったタオルで、汗を拭っていく。
「そう言えば、前もこんな風な事あったね」
「そうですね。疲れとかは大丈夫ですか? 昨日は、その……」
「いっぱい(運動♡)しちゃったもんね♡」
「っ……!?」
ミャナはヨミの耳元で、『運動』と言う部分をだけを囁いた。
「みんなは?」
「皆さんはまだ寝てます」
「そ。ヨミ、肩は大丈夫……?」
「あ、はい。エルナさんとユリアさん、あと、リエ先生の治療もあってお陰様でだいぶ回復してきました」
「よかった……本当によかった……私のせいで、ひどい怪我をさせて、本当にごめんね……」
ミャナは木刀を落とし、ヨミに抱きつく。
そして、肩を優しく撫でる。
「ミャナさん……僕の方こそ、辛い思いをさせてしまって、ごめんなさい……これからは、しっかりとミャナさんを守れるように、僕も強くなりますから」
「うん……でもね。私は守られるだけじゃ嫌。私もヨミ君を守りたい。だから、お互いに守って、補い合っていこう?」
「は、はい……! お互いに、助け合っていきましょう! ミャナさん!」
「うん! うっ!?」
「みゃ、ミャナさん!?」
突如、ミャナは頭を押さえしゃがみ込んでしまう。
「ど、どうしたんですか!? 大丈夫ですか!? ミャナさん!?」
「うっ……!? う、うぅ……!? わ、分かんない……!? あ、頭が、きゅ、急に……!?」
(ど、どうすれば……効くかどうか分かんないけど!)
「業火、焔黒守」
「うっ……!? うぅ……!? うっ……あ……」
「どうですか……?」
「う、うん……落ち着いてきた……ありがとう……」
「いえ。良かったです。それより、何が?」
ミャナはヨミの腕の中で横になっている。
ヨミはミャナを優しく支えながら、尋ねた。
「分かんない……よく分かんないんだけど急に頭に、魔術費じゃない、別の何かが流れ込んで来て……」
「魔術費じゃない、別の何か? 何かって……?」
「ごめん……それは、分かんない……」
「大丈夫です。気にしないでください。それより、ミャナさんの身に危険がなくてよかったです」
「ありがとう。あのさ、ヨミ」
「はい?」
「気になってた事、一つ聞いてもいい、かな?」
「はい。なんでしょう?」
「ヨミが使ってるその、黒い炎の力、それって何?」
「これは、僕にもよくわかんないんです。クロノスドラゴンに認めてもらうために戦いを挑んだんですけど、僕は完敗で。でも、負けたくないと願ったら、突然この謎の力が使えるようになって。しかも、魔術は一回使ったら使えなくなるのに、この力だけは無限に使えるんです」
「む、無限に!? ま、魔術費を消費しないって事!?」
「う〜ん……かもしれません。この力を使っても、体力が減るだけで、魔術費が減ってる感じはしないので」
「なるほど……お互い、分からない事が多いね」
「ですね。お互い、ゆっくり解き明かしていきましょう」
「うん。そうだね。焦らずゆっくり、ね」
「はい!」
二人は微笑み合い、ゆっくり立ち上がった。
そして、ヨミはミャナの素振りを見学していく事にした。
これが、つかの間の平穏とも、知らずに。




