ep.3 ヨミとエルナの共闘
洞穴を飛び出したエルナは、デストドラゴンと対峙していた。
「グギャアアアアアアア!」
(っ……! 改めてこうやって対峙すると、迫力が凄いわね……。でも、ヨミとユリアを逃がす為、ここで逃げるわけにはいかない!)
「行くわよ! ハァ!」
エルナが、デストドラゴンに向かって飛び出す。が──、
「グギャァァ!」
「ぐっ!?」
デストドラゴンの尻尾の一振りが、エルナの腹部に直撃する。
エルナはその衝撃のまま、横に吹き飛び、壁に衝突してしまう。さらに──、
「ぐっ、ぐはぁ!?」
デストドラゴンが追い打ちをかける。
デストドラゴンが巨大な脚をエルナの全身に打ち付けた。
その時、エルナが打ち付けられていた壁が、大きな音を立てながら崩壊した。
それが、衝撃の強さを物語っていた。追い打ちを受けたエルナは、地面に落下し、次いで落下してきた瓦礫に埋もれてしまった。
「ぐっ……うっ……や、やっぱり、強い……」
エルナはボロボロになりながらもなんとか瓦礫を退け、なんとか立ち上がる。
「二人を、なんとしても逃がすんだ!」
エルナは全身ボロボロの状態で、デストドラゴンと再び対峙した。
服は破け、スポーツブラ、スパッツなどが見えてしまっている。
フラフラになりながらもなんとか立ち上がったエルナだが、この後も立ち向かっては吹き飛ばされを何度も繰り返す事となる。
その際のデストドラゴンは、どこか楽しんでいるようだった。
☆ ♡ ☆
エルナがデストドラゴンと対峙して、攻撃を受ける少し前。
(ん……ここは……?)
ヨミは夢を見ていた。
そこは草原で、二人の子供が走り回っている。
一人は少年、もう一人は少女だった。
(あの子は確か……グリちゃん。って事は、あの男の子は僕か)
どうやら走り回っている少年はヨミらしい。
二人は楽しそうに走り回っていた。しかし、次の瞬間、場面が変換し、草原は焼け野原に。
『グリちゃん! グリちゃんしっかりして!?』
少年時代のヨミが、少女を抱きかかえている。少女は体や顔から血を流して、浅い呼吸を繰り返していた。
『ヨミちゃん、お、お願いが、あるの……き、聞いて、くれ、る……?』
『う、うん! なんでも聞くよ! 何?』
泣きながら頷くヨミ。
『あ、あの、ね……だ、誰にも負けない、最強の魔法使いに、な、なってほしいの……そ、それが、わ、私の、最期の、願い……』
『わ、分かった! 僕、必ずなってみせる! 最強の、誰にも負けない最強の魔法使いになってみせるから! だから、最期だなんて言わないで……!』
『ふっ……い、今まで、あり、が、と……』
力ない微笑を浮かべた後、少女は涙を一筋流し、息を引き取った。
『うっ……うぅ……グリちゃーーーーーーーーーんっ!?』
ヨミが泣き叫ぶ。
と、その叫び声と同時に、ヨミは目を覚ました。
「はっ!?」
「っ!? よ、ヨミさん!? だ、大丈夫ですか……? かなりうなされていましたが……」
飛び起きたヨミを心配し、ユリアが恐る恐る尋ねる。眠っている間、ヨミはかなりうなされていたらしい。
「は、はい……大丈夫、です……えっと、ごめんなさい。君は……」
ヨミが名を尋ねる。
「あ、すみません! 自己紹介してませんでした! 私はユリア・ヴァージンと申します」
ユリアが自己紹介をする。ヨミも軽く自己紹介した後で──、
「ユリアさん、早速で悪いんですけど、状況説明を頼めますか?」
現在の状況説明を求めた。
「あ、はい! えっと、私を庇ってモンスターの攻撃を受けて気を失ってしまったヨミさんと、恐怖で身動きが取れなくなってしまった私を、エルナ・スカーレットさんと言う方が助けてくれたんです」
ユリアは完結に説明をした。
「なるほど……それで、今そのエルナさんは?」
ヨミが口許に手を当て状況を理解する。そして再び質問を投げかける。
「…………エルナさんは、一人でモンスターの所に向かって行ってしまいました……私達を逃がす為に……」
「っ!? それならすぐに助けに行かなくちゃ!」
ヨミはユリアの答えを聞くと血相を変え、動き出そうとする。が──、
「だ、駄目です! 私とエルナさんの治術で傷口は塞いだと言っても、まだ完治した訳ではありません! そんな体で無理をしては──」
「でも! 僕達を助けてくれた人が今、一人で戦って傷ついてるんです! 下手をしたら死んでしまうかもしれない! そんなの絶対に駄目です! 僕はもう、誰も死なせたくない!」
ヨミは、ユリアの言葉を遮り叫ぶ。先程の夢が尾を引いているのだろう。
「…………分かりました。ですが、ヨミさん一人だけに無理をさせるわけにはいきません。あまりお役に立てないかもしれませんが、私にも何か手伝わせてください!」
ユリアが覚悟を決めた表情で言う。それを受けたヨミは──、
「分かりました。では、その……一つ、頼みにくい事なのですが……」
「なんでしょう。私にできる事なら、なんでも言ってください!」
ヨミが迷っていると、ユリアがふんすと鼻息を荒くしながら言ってくる。
「その……む、胸を、揉ませてください……」
ヨミのお願いは無理難題なものだった。
付き合ってもいない、ましてや出会ったばかりの女子に、胸を揉ませてくれなんて、絶対に言ってはいけない事だ。
しかし、今はそんな事を言ってられる場合ではなかった。エルナを助けに行かなければならないのだから。
ヨミには考えがあってこの頼み事をした。果たして、ユリアの答えは──、
「…………はい。私の胸で良ければ、いくらでも揉んでください。それで、ヨミさんのお役に立てるのであれば」
なんと、ユリアは快諾した。一瞬考えるような瞬間があったが、それも一瞬の事で、すぐに答えを出した。
ヨミはその返答に驚いていた。まさか許可をもらえるとは思ってもみなかったから。
「ほ、本当にいいんですか……?」
「はい」
ヨミは最終確認を行った。その確認にユリアは決然たる答えを示す。
「じゃ、じゃあ、失礼します……」
ヨミは、それを確認した後、恐る恐るユリアの胸に手を伸ばし触れた。そして、軽く揉む。
「んっ……」
ユリアの口からは、可愛らしい吐息が漏れる。
「あれ? 光りが出ない……?」
ヨミは、ユリアの声にドキッとしながらも、一つの事を考えていた。
ヨミが考えていたのは、昨日のレベルアップの事。
それを行えば、デストドラゴンに少しでも太刀打ちできるのではないか、そう考えていた。だからユリアに胸を揉ませてほしいと頼んだのだ。
しかし、光りも出なければなんの変化もない。ヨミが動揺していると──、
「も、もしかしたら、もっと強く揉まないと駄目なのかも……」
ユリアが一つの可能性を提示する。それを聞いたヨミは確かにと思う。
そして、顔を赤くしながら──、
「で、ですが、その……いいんですか……?」
と、ヨミが尋ねると──、
「はい♪ ヨミさんになら」
ユリアは満面の笑みで答えた。
「で、では、再び、失礼します……!」
「はい……」
ヨミは恐る恐る再びユリアの胸に触れる。そして、先程より長く強く揉み始める。
「んっ……んあ……んはぁ……♡」
ヨミに胸を揉まれる度、ユリアの口からは可愛らしい吐息が。
その声にドキドキしながらも、ヨミはユリアの胸を揉み続ける。
そして、ヨミが更に力を込めて、胸を揉むと──、
「んん……! んあああああああ♡」
先程よりも大きな声を出して、喘いだ。
すると──、
「あ、これ……」
ユリアの体の周りに、ピンク色の光りが集まり始めた。
「はぁはぁ……せ、成功、しましたか……?」
ユリアは息を切らしながら尋ねる。
「は、はい。その証拠に、ユリアさんの右横に……」
「あ、昨日の……」
ユリアの顔の右横に、ウインドウが表示されていた。
そこには、ER・Lv2と表示されている。すると、その数字が2から3へと変化する。
「僕には、何も……」
ヨミは自分には何も変化がないのかと考えていると──、
「あ!」
ヨミの体に銀色の光りが集まってくる。すると、ヨミの顔の右側にウインドウが表示され、MH・Lv2から一気に三つ上がってMH・Lv5になった。
(これは、昨日とは違う。力が湧き上がってくるのが分かる……! これなら!)
ヨミが両手を握ったり開いたりしながら、感覚を確かめている。そして──、
「ユリアさん、ありがとうございます! 僕、行ってきます!」
ユリアに感謝を伝え、洞穴を飛び出した。
「はい! 行ってらっしゃい!」
ヨミの姿が見えなくなるギリギリで、声をかける。
と──、
「んあっ♡ え……? キャッ!」
パチン! ブチ! プルン♡
「え? え……?」
ブラウスのボタンが弾け、更にブラジャーも切れ、おっぱいが外に放り出されてしまう。
「よ、ヨミさんがいなくてよかった……さすがにこれは、恥ずかしすぎるよぉ……」
ユリアは両手で胸を隠す。だが、大きいおっぱいは腕からこぼれ落ちてしまいそうになっていた。
☆ ♡ ☆
ヨミがユリアとのレベルアップを成功させる少し前。
「ぐはっ!? かはっ……!」
エルナは、デストドラゴンと死闘を繰り広げていた。
「ガアアアアアアアアアア!」
地面に打ち付けられているエルナを見て、まるで喜んでいるかのように咆哮を上げるデストドラゴン。
「グルルルルルルルルルル……」
そして、エルナの周りを徘徊する。まるで挑発してるかのごとく。
「ぐっ……こいつ、完全に舐めてるわね……あの顔、腹立つ……! あの子達が逃げるまで、なんとかして時間を稼がなきゃいけないのに……!」
フラフラになりながらもなんとか立ち上がるエルナ。もう立つだけでも辛いのだろう。その額には汗が滲み溢れている。
「はぁはぁ……」
「グヤァァァァァァァァァァァァ!」
立ち上がったエルナに、トドメと言わんばかりに突撃するデストドラゴン。
「くっ……もう、ここ、までか……」
もはや反撃もできないエルナは、目を瞑り、覚悟を決めた。すると──、
「グギャ!?」
「え……?」
衝撃音が聞こえたのでエルナが目を開くと、デストドラゴンが吹き飛んでいた。
そして、エルナの眼前には、蹴りを終え、着地するヨミの姿があった。
「あ……やっぱり、貴方は ”あの時” の……」
エルナはヨミの姿を見て、何かを思い出したのか、乙女の顔になり惚けていた。
「あ、あの……」
「油断しないで! 次、来ます!」
エルナが声をかけようとすると、ヨミが倒れたデストドラゴンを油断なく見据えながら言う。すると──、
「グゴオオオオオオオオオオオ!」
デストドラゴンが怒りの雄叫びを上げながら、二人に突進してくる。
その突進を、エルナを抱きかかえ躱すヨミ。
(ふえ!? こ、これ、今お姫様抱っこされてる!? こ、これヤバすぎ!)
エルナがそんな事を考えていると──、
「エルナさん!」
「ひゃ、ひゃい!?」
突然、名前を呼ばれた為、裏返った声で返事をしてしまったエルナ。顔を上げると、すぐ目の前にはヨミの顔があって──。
(か、顔近すぎぃ……!?)
「エルナさんは自分自身に、治術をかける事はできますか?」
「へ? う、うん、できるけど……」
「申し訳ないのですが、僕は治術が使えません。なので回復してあげられないんです。なので、使えるのであれば一旦回復に専念してほしいんです。ふっ」
ヨミが地面に着地する。デストドラゴンの死角にある岩陰だ。そこにエルナを優しく降ろし、言葉を続ける。
「デストドラゴンは二人でなければ倒せません。なのでエルナさんが回復する時間は僕が稼ぎます。魔術を使用できるようになるまでの回復時間は分かりますか?」
「え、えっと……メイン系の魔術じゃなくて、サポート系の魔術だけなら三十秒もあれば」
エルナは、照れていたがなんとか答える。
「分かりました。では、三十秒、時間を稼ぎます。回復したら火術を使ってください」
「分かった」
ヨミの作戦に頷くエルナ。すぐさま自分に治術をかけはじめる。
それを見たヨミは、岩陰から飛び出し、デストドラゴンの元へと向かう。
「こっちだ!」
「グギャアアアアアアアアアアア!」
ヨミを見つけたデストドラゴンは、怒りの雄叫びを上げる。そして、ヨミに向かって翼撃を放つが──、
「僕の今の役割は時間稼ぎだ! お前と真っ向から対峙するつもりはない!」
ヨミはデストドラゴンの攻撃を、巧みに躱していく。
そして、ジャスト三十秒。
「グギャ!?」
ヨミの後ろから、デストドラゴンに向かって火炎弾が放たれた。それを放ったのはもちろん──、
「お待たせ!」
エルナだった。ヨミに向かって可愛らしい笑みを浮かべるエルナ。そんなエルナを見たヨミは小さく頷き──、
「そのまま火術を使ってください!」
「了解! 火術、弾!」
エルナが右手を前に突き出し、術唱を唱える。すると、掌から火炎弾が作り出され、デストドラゴンに向かって放たれる。
連続で放たれる火炎弾。その全てがデストドラゴンに命中した。そして──、
「これで終わらせます! 火炎、業火焔!」
ヨミが両手を突き出し、エルナよりも威力の強い炎を生み出し、それを放った。その攻撃は火炎弾のような弾ではなく、火炎放射のような放射攻撃だった。
「なっ!? 火炎術!?」
エルナは、ヨミが使用した術を見て、驚きの声を上げる。
火炎術とは、火術の変化術で、使用する難易度が高い術だった。
子供の頃から修行を積んでいるエルナであっても、火炎術は使えない。おそらく、泉霞にも使える者はそれほど多くないだろう。
「ハアアアアアアアアアアア!」
ヨミが手に力を込め、火炎放射のような攻撃の威力を上げる。そして──、
「グギャアアアアアアアアアアアアアアア!?」
デストドラゴンが断末魔を上げ、絶命した。デストドラゴンは力尽きたまま、地面に横たわった。
巨体なので、倒れただけでも凄まじい衝撃が巻き起こった。
「た、倒した……?」
エルナは絶命し、倒れているデストドラゴンを呆けた顔をしながら見つめている。どうやら勝利した実感がないようだ。
「エルナさん! 大丈夫ですか?」
ヨミがボーッとしているエルナに近づき、心配そうに尋ねる。
「…………へっ? あ、うん! 大丈夫よ! それより、ヨミの方こそ大丈夫? 背中の傷」
エルナは突然声をかけられた事に驚き、上ずった声を出したが、すぐに質問に答えた。そして、逆にヨミの体の心配をした。
「はい。大丈夫です。エルナさんとユリアさんが治療してくれたおかげです。ありがとうございます」
「い、いや……そんな……どういたしまして……」
エルナは、ヨミの屈託のない笑顔を見ると、顔を赤らめそっぽを向いてしまった。すると──、
「嘘はいけませんよ、ヨミさん」
ヨミの後ろから、右手で胸を押さえたユリアが声をかけてきた。
「嘘って?」
至って平静を装いながら、ユリアに尋ねるエルナ。
「ヨミさん。背中、血が溢れてますよ?」
エルナに尋ねられたユリアは、ジトッとした目線をヨミに向け、エルナの質問の答えを述べた。
「え? ちょ、うわ、エグ……あんた、こんなになってるのに平気だなんて言ったの? どういうつもり?」
エルナはユリアの答えを聞くと、ヨミの背後に回り、ヨミの背中を見る。すると、その背中からは血が大量に滲み溢れていた。
と言うことは、ヨミは相当な痛みを抱えながら戦っていた事が分かる。エルナはそれを察すると、ユリアと同じくジトッとした目で、ヨミを睨んだ。
「え……!? いや、その……あの〜……えっと……あは、あはははは……」
ヨミは、笑って誤魔化すしかできなかった。
この続きは、今日中、もしくは来週の日曜日に投稿したいと思います!
楽しみにしてくださってる方には、お待たせしてしまうのですが、お待たせしてしまう分、期待を裏切らない仕上がりにしますので、楽しみに待っていてください♪
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