ep.34 ミャナとの再会
「ん……んん……」
超が付くほどの狭い部屋。
その部屋を埋め尽くすように置かれたベッドの上で、一人の少女が目を覚ます。
「あれ……ここは……」
「ミャナさん!」
「あれ……ヨミ、君……?」
目を覚ました少女──ミャナの目の前に、ヨミが心配そうな顔を見せた。
「やっと……やっと目を覚ましてくれました……!」
「私……ヨミ君の部屋で一緒に住む事になって……それから……ヨミ君、私って、どうしたの?」
「ミャナさんは、何者かに操られていたんです」
「っ!? あ、操られてた……!? 私が……!?」
「はい……」
「そんな……」
ミャナは信じられないという表情を浮かべた。
「信じられないかもしれませんが……」
「ううん。信じるよ。というか、ヨミ君が言う事を疑ったりなんてしないよ?」
「っ! あ、ありがとうございます……」
ヨミは、ミャナの小首を傾げた仕草にドキッとして、頬を赤らめた。
「でも、そっか……私、操られてたんだ……それでヨミ君に迷惑をかけるとか……一生の不覚……あっ! ヨミ君、怪我とかは!?」
「だ、大丈夫ですよ……!」
ヨミはそう言うが、両肩には包帯が巻かれており──、
「嘘つかないで! その両肩、それって!」
「あ、えっと……その……」
「本当の事教えて」
「は、はい……その……ミャナさんの剣に刺されました」
「っ!?」
ヨミから事実を聞いたミャナは、歯を食いしばった。
「ご、ごめん、なさい……! 私、ヨミ君になんて事を……!」
「い、いえ……! 気にしないでください……! 僕は全然平気ですから……!」
「ヨミ君が気にしてなくても、私は私を許せない……! 大切で、大好きなヨミ君を、この手で傷つけちゃうなんて……! ぐっ……!」
ミャナは泣き出してしまった。
大粒の涙を流す。自らの意志じゃ止められないのか、とめどなく溢れ出ている。
「みゃ、ミャナさん……」
「っ……ヨミ、君……?」
ヨミは、ミャナを正面から優しく抱きしめる。
ミャナは突然の事で驚いたのか、顔を赤らめた。
「今回の事、ミャナさんは何も悪くないんです」
「で、でも……! ヨミ君の事を傷つけのは本当だから……!」
「それも、ミャナさんのせいじゃない」
「ヨミ、君……」
ヨミはミャナの背中を優しく撫でてやる。
「今回の事は、ミャナさんを操って、攻撃をさせた誰かが悪い。それに、この怪我は名誉の負傷だと僕は思ってますよ? 大切な人を守れた、男の名誉。僕はそう思ってます」
「ヨミ、君……なんで……なんでそんなに、優しいの……!」
「僕は優しくなんてないですよ」
「ううん……! 優しい……! 優しいよぉ……! ヨミ、君……! ヨミ君……!!!」
ミャナはヨミに抱きつく力を強める。
それを感じたヨミも、ミャナを抱きしめる力を少しだけ強める。
「ヨミ君、ごめんね……! ごめんねぇぇ……!!!」
ミャナは約一時間程度、泣き続けた。
☆ ♡ ☆
「落ち着いた?」
「ぐす……うっさい」
「はぁぁぁぁぁ!? 人がせっかく心配してやってんのに、なんなのその態度はぁ!!!」
「まぁまぁ、落ち着いてください、エルナさん」
部屋の中に、ユリア、エルナ、アイアの三人も加わり、今は全員で話をしている最中だった。
「ヨミ様に強く抱きしめてもらえるなんて、なんと羨ましい」
アイアは、頬を膨らませていた。
「ふん。ヨミ君は私の味方だから」
「この女、マッジで腹立つ!」
「え、エルナさん、落ち着いて……」
苛立つエルナをなだめるユリア。
そんな二人を見ながら、ヨミが口を開いた。
「ミャナさん。お聞きしてもいいでしょうか?」
「うん。何? なんでも聞いて♪」
ミャナは満面の笑みを浮かべ、ヨミを見た。
「操られている時、何か見たとか、何かを感じたとか、何か覚えてる事はありませんか?」
「う〜ん……操られてるって実感がなくて、ずっと眠ってる感じだったから、全然分からないんだけど……あ、でも! リーサル達がいた部屋に、人が三人くらい、いたような気が……」
「それって、あのガキどもじゃなくて?」
「えぇ。おぼろげなんだけど、服もあんまり見たことがないようなもので…… ”男一人、女二人の三人” がいたような……」
「三人……囚われていた、とかですか?」
ヨミが尋ねると──、
「う〜ん……どうだろう……壁際に立っているように見えたけど……もしかしたら、拘束されていた可能性もあるかも」
「なるほど……」
「ごめんね……全然役に立てなくて……」
「何言ってるんですか」
「え……?」
「ミャナさんが無事なのが一番なんですよ」
「うん……♪ ありがとう、ヨミ君!」
「うおぉ!?」
ミャナはヨミに抱きついた。
「テンメェ! ゴラァ! 何いきなり抱きついてんだ!」
「え、エルナさん、落ち着いてぇ……!」
「今のは、見逃せませんねぇ……!」
「ちょ、ちょっと皆さん!?」
ミャナをヨミから引き剥がそうとするエルナとアイア。そして、そんなエルナを落ち着かせようとするユリア。
結局、四人がヨミに抱きつくような形になり──、
『あ……』
全員が黙ってしまう。ヨミが四人と目線をそれぞれ合わせた後──、
「「「「一緒に寝よう♡」」」」
「は、はいぃ……!」
ヨミは顔を真っ赤にして、四人の願いに応える事になった。
五人は一緒に、眠る事となった。
☆ ♡ ☆
「……………………」
とある部屋で、一人の男性が机に肘をついて手を合わせ、その手に額を乗せながら椅子に座っていた。
「失礼するわよ〜」
と、その部屋の中に、薄い緑色のドレスを着た女性が入って来た。
「あら、どうしたの? そんなに怖い顔をして」
「………………貴女にそれを言う資格があるのですか?」
「どういう事かしら?」
「商品が逃げました」
「あらそう。ヨミちゃん達の成長が著しいって事ね」
「どういうつもりなんですか?」
「何が?」
「なぜ、三術姫を全員、投入して戦わなかったのですか? それに、貴女が本気を出せば洗脳を解かれる事なんてなかったのでは?」
「うふふ」
「何がおかしいのです?」
「失礼。三術姫を全員投入しなかったのは、別に私の指示じゃないわよ。あの子達が自分で考えて自分で決めた事だから。それと、私がどれだけ本気を出したとしても、クロノスドラゴンの力には敵わないわ。私の洗脳は絶対に解かれるわ」
「そ、そうですか……」
「ふぅ〜……まぁ、今回の事に関しては悪かったわ。あの子達の成長が早くて、私自身も驚いているのよ。まぁ、あの子は諦めてちょうだい」
「はぁ〜……分かりました。それで? 用件は?」
「あ、そうだったわ。あなたが捕らえた ”異界の人間” なんだけど、一人貸してくれないかしら?」
「何をする気ですか?」
「別に壊したりはしないわよ。ただ、洗脳術を利用して、色々したい事があってね。あなたに従順になるようにもしとくわよ。どう?」
「………………分かりました。では ”最初に捕らえた女性” をお使いください」
「ありがと。じゃね」
女性は部屋を出ていく。
一人残った男性は、椅子の背もたれに寄りかかり──、
「ふぅ〜……あの人の自由奔放ぶりにも、困ったものですね。…………さて、あらかた準備は整いました。私の計画も ”次の段階に移行” しましょう」
男性は不敵な笑みを浮かべた。
その顔は、月明かりに照らされて見えなかった。
だが、特徴的な白ひげが────。
ヨミ達の所に帰ってきたミャナ。
ミャナが見た謎の三人。
白ひげ男性の怪しい行動。
ここからさらに盛り上がってまいりますので、楽しみにしていてください!
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