ep.20 ダンジョン攻略 ①
翌日。
「あ〜……暑い……」
馬車の荷台の中で、エルナが一人汗をかき、手をうちわにして自身の顔をあおいでいた。
「エルナ、冷風が効いてるのにそんなに暑いんですか?」
アイアが尋ねる。
「うん。私、昔っから人より暑がりでさ。しかもこれでもかってくらいに。汗も人よりかくし、いつも下着の替えとか持っておかないと大変なのよ」
「体質、なんでしょうかね?」
ユリアが首を可愛らしく傾げながら言う。
「うん。多分ね。昔はこれのせいでからかわれたりもしたわ。汗っかき女とか、汗臭女とかね」
「女性にそんな事を言うなんて、失礼極まりないですね」
「まぁ男子に言っても普通に失礼なんだけど。言ってきたのは女子だったからね」
「男女の問題ではないですわよ? 人として、言っていいことと悪い事の区別くらいつけないと」
「だね〜。ヨミは全然気にしてなさそうだから、実はホッとしてるんだ」
エルナが、壁に寄りかかり眠っているヨミを見る。
それにつられて、ユリアとアイアもヨミを見て、優しい表情を浮かべる。
三人がヨミを見つめていると、馬車を操る先生から声がかけられた。
「もう着くわよ〜。準備してください」
「「「はい」」」
一行は、目的のダンジョンへ到着した。
☆ ♡ ☆
ダンジョン付近に停留した馬車。
ヨミ達が降り、ダンジョンに向かおうとすると、リエが呼び止める。
「エルナさん」
「はい?」
「よかったら、これを」
「こ、これって……」
リエは、エルナに剣を手渡した。
「エルナさんは、剣術を得意としてるって聞いたので、勝手ながら用意させていただきました。でも、安物なので、エルナさんに満足していただけるくらいの性能はないとは思いますが……」
「いえ! そんな事は! とっても嬉しいです! ちょうど剣がなくて困ってたので助かります! ありがとうございます!」
「そうですか? それならよかったです。お役に立てれて何よりです」
エルナは、貰った剣を左腰に携える。
「それでは皆さん、私は馬車を見守らなければならないのでダンジョン内まで同行ができません。ですので、細心の注意を払って、進んでいってください。そして、くれぐれも無理をしないように」
「「「「はい!」」」」
四人はリエと別れ、ダンジョンの中へと入って行った。
☆ ♡ ☆
「ダンジョンの中は冷えますね……」
アイアが、腕をさすりながら言う。
「アイアさん、大丈夫ですか? 僕の上着をどうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
ヨミに上着を着せてもらうアイアは、顔を真っ赤にしてお礼を言った。その顔は恋する乙女そのものだった。
「みんな、一旦止まって」
「「「?」」」
エルナが、皆に止まるように言う。まだ入口からそう離れていない。それなのに、一体どうしたと言うのか。
「何か、気配を感じる……」
「「「え……?」」」
三人が、警戒しながら辺りを見回す。
「本当ですわね……何か、嫌な気配を感じます……」
「全てを貫くような、嫌な気配です……」
アイアとユリアも気配を感じ取ったらしく、額に汗を滲ませている。
そんな中で一人だけ、その気配を感じ取れてない人物がいた。ヨミだ。
(何も感じない……一体三人は何を感じているんだろう……)
ヨミは、三人が何を感じているのか分からず、戸惑いながらキョロキョロと辺りを見回している。
と──、
「はっ!? エルナさん、危ない!」
「っ!? くっ……!」
ヨミが叫ぶと、エルナの上空から、鋭い牙を生やした口が出現した。
エルナは、その口に噛まれそうになったが、ヨミが叫んでくれたおかげで、なんとかギリギリのところで躱すことができた。
「エルナ! 大丈夫ですか!」
「えぇ……でも、今のは一体何……?」
出現したはずの口は、すでに消えていた。
「あの口は、おそらくモンスター……ですが、姿を消し、さらには口だけを遠隔操作できるモンスターなんて、聞いた事も見たこともないわ……」
アイアは、辺りを油断なく見回す。先程のモンスターの気配を探っているのだ。
だがしかし、先程感じた気配は消えてしまっている。
「エルナさん! 大丈夫でしたか!」
「えぇ。ありがとうね、ヨミ」
「いえ。無事でよかった。皆さんが感じていた気配って、あのモンスターだったんですか?」
「多分ね。でも、もう気配が消えた……一体なんだったんだろう……こんな入口付近でモンスターが現れるなんて」
「このダンジョンのボス、クロノスドラゴンに試されてる、と言う事でしょうかね……?」
「だ、だとしたら、私達は今後も襲われ続けるんでしょうか……?」
「……………とりあえず、先に進みましょう。警戒を怠らずに」
「「はい!」」「うん」
四人は、今まで以上に警戒心を抱きながら、先に進む事にした。
連続投稿です!
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