ep.16 ミャナの異変
「フッ! フッ! フッ!」
中庭で木刀を振る少女がいた。ミャナだった。
「フッ! フッ! ふぅ〜……」
ミャナは、素振りを一旦止め、右腕で額の汗を拭った。
「お疲れ様です。朝から精が出ますね、ミャナさん」
「あ、ヨミ君」
ヨミは、手に持っていたタオルをミャナに渡した。
「ありがとう。魔法騎士になる為には剣の腕を磨かないとね。それに、ヨミ君が応援してくれてるんだから、頑張んなきゃ」
「ごめんなさい、無責任な事言っちゃって」
「ううん。無責任なんかじゃない。私はヨミ君のおかげで夢を諦めなくていいんだって思った。だから、ヨミ君には感謝してるの。ありがとう」
「っ……い、いえ……」
ヨミは、ミャナの可愛らしい笑みに、ドキッとして顔を赤くして俯いた。
(何この反応……! 可愛すぎる! これって、私を少しは意識してくれてるのかな?)
ミャナは、ヨミの反応にどこか嬉しそうだった。
「よし。そろそろ再開しようかな」
「あ、ごめんなさい。訓練の邪魔しちゃって……」
「ううん。来てくれて嬉しい。ヨミ君さえよければ、このまま一緒にいてくれる?」
「はい。ミャナさんがよければ」
「いいに決まってるよ。というか、いてほしい」
「分かりました。ではこのままここにいますね♪」
(この笑顔、反則〜〜!)
ミャナは、ヨミの笑顔に心掴まれながら、木刀の訓練に戻った。
ミャナの木刀を振る姿を見つめるヨミ。
(ミャナさんの動きって、無駄がなくて隙がない、綺麗で完璧なフォームなんだよな……剣の腕は問題なさそうだから、すぐに夢を叶えられそうな気はするけど、そう簡単じゃないんだよね……あのフォームってまるで ”剣道” みたいな……って、僕今、なんて言った? ”剣道” って何……?)
ヨミは、自分自身の言った言葉に、疑問を抱いていた。
☆ ♡ ☆
ヨミがミャナの訓練を見守る中、そのはるか上空でヨミを見つめる者がいた。
「いいわよ、その調子。その調子で ”Lv上げ” をして頂戴。私の為に、ね。あなたが強くなる度、私の力が ”戻る” のだから。だからどんどん強くなって頂戴ね〜……なんの用かしら?」
「おやおや、気配を消していたのですが」
「ふん。あなたの気配なんて加齢臭と一緒にプンプンしてるわよ」
「やれやれ、加齢臭ですか。歳には逆らえないですね」
「それで? なんの用なの? 危険を犯してまで私に会いに来るなんて。泉霞叡術魔術学園校長、グルス・ヴォルアさん」
「ふふ」
謎の女性に近づき声をかけてきたのは、校長のグルスだった。
「貴女に頼みたい事がありまして」
「な〜に、また面倒な事? あなたの孫にヴェノムカーデの毒を渡すの、結構面倒くさかったのよ?」
「いえいえ。それほど面倒な頼みではありませんよ。ただ単に、あの小娘をヨミ・アーバントの側から引き離してほしいんですよ」
「へぇ〜それはまた、なぜ?」
「あの小娘を、私の操り人形にしたいんですよ」
「まぁ、相変わらず気持ちの悪い趣味だこと。まぁいいわ。やってあげる。で? 報酬は? まさか、なんの報酬もなくタダでやれとはいわないわよね、この私に」
「もちろんです。成功報酬として、貴女が望む ”生け贄” を好きなだけ提供しましょう」
「あら。珍しく好条件じゃない。なんか裏がありそう。だけどまぁ、いいわ。その条件でやったげる。あの娘の状態について、何か注文はある?」
「いえ。状態については特に注文はありません。生きてさえいれば、どんな状態であっても構いません」
「分かったわ。生娘を虐めるなんて、何年ぶりかしら」
「ほどほどにしてくださいね」
二人は会話を終えると、瞬間移動したかのごとく、姿を消した。
☆ ♡ ☆
「ヨミ〜!」
「あ、エルナさん。どうしたんですか?」
「これ、先生がヨミに渡してって」
「手紙?」
放課後、廊下を歩いていたヨミに、エルナが声をかけてきた。
エルナから手渡されたのは、手紙だった。
「………………」
ヨミはその手紙を読む。
「エルナさん、この手紙ってどの先生から渡されましたか?」
「え? えっとね……数式のチャリチャ先生だけど……」
「そうですか……」
「どうしたの? なんかあった?」
暗い顔をするヨミ。そんなヨミを心配するエルナは、ヨミの顔を覗き込む。
「いえ。なんでもありません。大丈夫です。手紙、ありがとうございました。今日は帰りが遅くなると思うので先に寝ていてください」
「え、え……!? ど、どういう事?」
「とにかくそういう事なので、では!」
「あ、ちょ、ヨミ〜!?」
ヨミは走って行ってしまった。
「ヨミ……」
エルナは、ヨミの背中を寂しそうに見つめていた。
☆ ♡ ☆
夜。森を一人歩くヨミ。
(あの手紙……恐らく僕をおびき出す為の罠だ……。でも、あの手紙の内容が本当だったら大変だ。行かない訳にはいかない)
ヨミは、森をどんどん進んでいく。
この森は、魔物の森とは違う森で、学園の近くにある普通の森だった。
そして、ある程度進んだ所で、立ち止まるヨミ。辺りを見回すが、どこにも誰もいない。
誰かを探しているようだが、一体誰を探しているのか……?
ズサッ。
「ん?」
足音が聞こえ、後ろを振り返るヨミ。と、そこにいたのは──、
「あ、ミャナさん! 無事だったんですね!」
ミャナだった。
学園の制服を着ている事から、ヨミと同じく放課後にこの森を訪れたものと思われるが……。
「ミャナさん、この森は危険です。何か嫌な予感がします。早く帰り──っ!?」
ビュンッ!!
「みゃ、ミャナさん!? い、いきなり何を!? っく!?」
ミャナが突然、木刀ではない真剣を振るって、ヨミに襲いかかってきた。
「……………」
「っ……? ミャナさん……?」
「………………!」
ミャナは剣を振るい続ける。ヨミを殺そうと。
「っ!? っく……! 動きに無駄がないから、少しでも油断したら、斬られる……!」
(ミャナさん、一体どうしたんだ……!? いきなり襲ってくるなんて……あ)
「………………!」
(この感じ……誰かに操られてる……?)
ヨミはミャナの違和感に気がついた。
ミャナの目が虚ろなのだ。
攻撃の動きは俊敏で、凄まじいのだが、ミャナからは覇気が感じられない。
まるで ”眠っている” かのように。
(ミャナさんを傷つける事はしたくないけど、ミャナさんを助けなきゃ!)
ヨミは、ミャナを傷つけたくないと思った。しかし、今はそうも言ってられない。だから、戦う決意をしたのだが……。
「ごめんなさい、ミャナさん。炎術──っ!? な、なん、だ……!?」
(体が重い……!?)
ヨミがミャナに対し、魔術を使用しようとした瞬間、突然ヨミがバランスを崩し、その場に突っ伏してしまった。
まるで、重力に押しつぶされてるかのように。
「ぐっ……! くっ……!?」
(か、体が、動かない……!? な、なんなんだ、これ……!? そ、そうか……動かないんじゃない。重力系の魔術で押さえつけられているんだ……! だったら!)
「空間、術……移転!」
ヨミはその場から姿を消した。
ヨミは空に移動していた。
「はぁはぁ……危なかった……もう少しで潰れちゃうところだった……でもどうしよう……ミャナさんを助けなきゃいけないのに……」
ヨミは地上を見下ろし、ミャナの姿を視界に入れる。
ミャナは突然いなくなったヨミを探しているようで、キョロキョロと辺りを見回している。
「アッハハ! マジかよ! あの重力術から抜け出すのかよ!」
「っ!?」
突如、ヨミの背後から声が聞こえてきた。
ヨミが後ろを振り向くと、そこには黄色の髪で、黄色の服──スカート部分にスリットが入っている──を着た少女がいた。
髪型は、お団子状にまとめた髪が左右にあり、そこから数センチ垂れている。
「あ? なんだ、その顔。アタシの顔になんか付いてっか?」
「き、君は、誰……?」
「あぁ? アタシか? しゃ〜ねぇ〜な。お前には特別に教えてやるよ。耳の穴かっぽじってよ〜く聞けよ? ううん! アタシの名前はリーサル。【三術姫】の一人だ!」
謎の少女──リーサルが、声高らかに名を告げた。
投稿が遅くなってしまい、大変申し訳ありません……!
遅くなった分、楽しんでいただける内容になっていたら、幸いです!
ヨミとミャナの関係。そして、様子がおかしくなってしまったミャナ。謎の女性と校長の関係。
校長の企み。新たなキャラの登場。
色々とてんこ盛りになってまいりました!
ここから、さらに盛り上がってまいりますので、楽しみになさっていてください!
この続きは、3/9に投稿いたしますので、楽しみに待っていてください♪
ブックマーク、ご評価などなど誠にありがとうございます!
皆様の応援で、僕はこれからも頑張っていけます!
これからも、よろしくお願い致します!