ep.12 抜け落ちた記憶
「さぁ、槍竜人よ。さっきの続きと行こうぜ」
ヨミはキンデに近づき、挑発するように語りかける。
「テンメェ……こうなったら、力づくで目を覚まさせてやるよ!」
「待て、キンデ!」
ガンデの静止を無視して、キンデは迫ってきていたヨミに向かって走り出す。
「ふっ」
ヨミが不敵に微笑むと──、
「ぐぁあああああ!」
いきなりキンデが悲鳴を上げた。
ヨミとキンデの距離はまだ縮まってない。距離にして約一メートルはある。
なのにキンデは悲鳴を上げた。なぜか。それは──、
「キンデの、腕が……」
「ぐっ、うぅ……」
なんと、キンデの右腕が切断されていた。
切断された箇所からは、大量に紫色の血が溢れて出ている。
「くっ……この程度、再生すれば……ど、どこだ? どこにある……?」
「お探しものは、これかな?」
「あっ!?」
キンデが探していたのは、切断された自身の右腕。しかし、辺りを見回しても見当たらない。
それもそのはず。切断された右腕は、ヨミが持っているから。
なぜ、切断した腕を持っているのか。それは──、
「槍竜人には、厄介な能力があるからな。例え切断されたとしても、切断された物を切断箇所に当て、治術を施せば瞬く間にくっついちまう。だが、そうはさせない。くっつけるものがなくなれば、再生はできねぇよな!」
ヨミは、持っていたキンデの右腕を宙に投げ、火炎術でそれを消し飛ばした。いや、その術は、魔術のようだが、何か、別のもののような気も……。
灰も残さず消し飛んでしまったキンデの右腕。それが表すのは、キンデが一生右腕を再生できなくなったという事。
「キンデ……」
キンデから離れた場所にいる許嫁のリンデは、心配そうにキンデを見つめていた。
「じゃ、お遊びは終わりだ。ここで死んでもらおうか」
ヨミは、一瞬にしてキンデとの間合いを詰め、キンデの前に立つ。
その威圧感は凄まじいものだった。
「くっ……」
「何か言い残す事はあるか?」
「……………特にねぇ。さっさと殺れ!」
キンデは一瞬、リンデの方を見たが、すぐに視線を落とし、目を瞑ってしまう。
死を覚悟したのだ。
「いいだろう。ひと思いに死ね!」
ヨミが、右手に手刀を作り、振り上げる。
「キンデぇぇぇぇ!!」
リンデの叫び声が響き渡る。その声が響いた瞬間──、
グサッと、ヨミの手刀が何かを刺した音がした。
しかし、キンデは無事だった。キンデは、恐る恐る目を開けると──、
「ぐはっ……」
「ろ、ロンデ!?」
キンデの目の前には、腹部にヨミの手刀を受け、口と腹部から、大量に血を流すロンデがいた。
「フン」
ヨミが右手を、ロンデの腹部から引き抜くと、ロンデはそのまま前に倒れてしまった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
リンデが悲鳴を上げた。
ユリア達も、目の前で起きた状況に、理解が追いつかず呆然としてしまっている。
「邪魔しやがって。まぁいい。まずはお前から死ね」
ヨミが再び手刀を作り出す。そして、それをロンデに向かって突き刺そうとすると──、
「やめて!」
「な、なんだ!?」
後ろから、ヨミの背中に抱きつく者がいた。
ユリアだ。
「なっ!? ユリア!?」
「何してるんですか、あの人は!?」
エルナとアイアは驚きの声を上げる。さっきまで隣にいたはずのユリアが、気づいたらヨミの元にいたから。
「やめろ! 離せ女!」
「嫌です! 絶対に離しません!」
「離せ!」
「キャッ!?」
ユリアはヨミに振り払われ、後ろに倒れてしまう。
「貴様、どういうつもりだ……」
ヨミは、ユリアの顔を見るといきなり黙り込んでしまう。
「ど、どうしたんでしょう……?」
アイアとエルナが、不思議そうな顔でヨミを見る。
と──、
「お、お前、なんでここに!? また邪魔しにきたのか!?」
「よ、ヨミさん……?」
いきなり様子がおかしくなったヨミを心配し、ユリアはゆっくちと立ち上がり、ヨミに近づく。
すると──、
「く、来るなぁ! ”女神” の貴様がこの時代にいるなんてどういう事だ!? クソ……! どこまで俺の邪魔をすれば気が済む!? ぐっ……し、支配が、解かれる……! ぐっ……女神! お前だけは許さない……! いつか必ず、必ずこの手で殺してやるからな! ぐあああああ!」
「ヨミさんっ!」
ヨミは叫び声を上げて、その場に倒れ込んでしまった。
ユリアはすかさずヨミに駆け寄り、体を支える。エルナとアイアもすぐにヨミの元に駆け出す。
リンデとガンデはヨミの元ではなく、キンデとロンデの元へと駆け寄る。
そんな様子をたった一人、静観していた人物がいた。ゴーザだ。
「これは、面白くなりそうだ」
そう呟くゴーザだった。
☆ ♡ ☆
あの激しい戦いが繰り広げられた特別授業から、一週間が経った。
ヨミは医務室のベッドで目を覚まし、ユリア達から状況説明を受けていた。
「では、全く覚えていないんですか?」
「はい……キンデさん達と巨大な魔物と戦って、その魔物にお腹を貫かれた事までは覚えているんですけど、その後の事が全く思い出せなくて……なんかずっと寝てたみたいな。だから、一週間じゃなくて、もっと長い間寝てたような感じがあるんです」
「だからあんなに、何度も寝ていた日数を訊いてきたのね」
「はい……」
ヨミは、何度もしつこく寝ていた日数を尋ねていた。それを一喝したのはエルナだった。
怪我人は黙って大人しく話を聞け! と。
「それで、キンデさんやロンデさんは……?」
「キンデさんの方は右腕を失ってしまいました。それで、ロンデさんの方は……」
「ろ、ロンデさんがどうしたんですか……!? ま、まさか……!?」
ヨミが、最悪の結末を考えてしまう。が──、
「人を勝手に殺さないでください、ヨミ様」
「ろ、ロンデさん! 無事だったんですね! よかった〜!」
ロンデはもちろん生きていた。それもそのはず。
ヨミがとどめを刺す前に、ユリアが止めに入ったからだ。
しかし、あの時のヨミの変貌ぶりは一体なんだったのか。それを知るものは誰もいない。
それはさておき。
「なんとか命は助かりました。ですが、腹部に空いた穴が完璧に塞がるまで、少なくとも一ヶ月以上はかかるそうです」
アイアが、若干申し訳なさそうに告げた。
「そう、ですか……でも、無事で良かったです。キンデさんは? 今どこに?」
「キンデなら、別室のベッドで大人しくしてますよ。俺の方が重症なのに、俺より動かないんですよ、あいつ」
「そりゃそうよ。右腕を失ってしまったと言うことは、もう二度と槍を振るえないと言う事だもの。元気がなくなるのも当然だわ」
ロンデが小さく愚痴を漏らすと、ヨミのお見舞いに来たリンデが口を挟んだ。
「リンデさん……無事でよかった」
「は、はい……」
「ん……?」
ヨミは、リンデの反応に首を傾げた。
リンデは、ヨミに話しかけらた瞬間、体をビクッとさせ、一瞬ヨミと目を合わせたものの、すぐに目を逸らし、そっぽを向いてしまう。
そんなリンデの様子を見たエルナは、リンデを病室の外に連れ出した。
「ちょっと! あれじゃ丸わかりじゃない! ヨミには気づかれないようにって言ったでしょ!」
「わ、分かってはいるんですけど、でも、ヨミ様の顔を見ると、あの時の恐怖が甦ってしまって……」
「それは分かるけど、ヨミがあの日の事を思い出して、自分が人を殺め、キンデさんとロンデさんを襲ったなんて知ったら、どうなると思うの? きっと辛い思いをする。それだけは絶対に駄目。ヨミには笑顔でいてもらいたい。その為なら、私は嘘もつくし、なんだってするわ」
エルナはヨミが暴走した事を、ヨミの事を思って伝えてなかった。
エルナ達は、この事を一生黙っていようと固く誓ったのだった。
そして、この後、ヨミは元気になり復帰した。
キンデ達竜人は、オンデに連れられ、新・竜人町へと帰って行った。
☆ ♡ ☆
こ、ここはどこ……?
一体何が……?
謎の空間に漂う少女が一人。
彼女は、自分の身に何が起きているのか理解できていなかった。
私はこれからどうなるの……?
と、言うか、私、誰だっけ……?
少女は自分の名前まで分からなくなっているようだった。
そして、少女はふと気がつくと、見慣れない場所に倒れていた。
辺りを見回していると──、
「大丈夫かい? 怪我はないかい?」
白髪で、白髭を生やした六十代くらいの男性が現れた。
少女は、男性が差し伸ばしてきた手を掴み、立ち上がった瞬間、意識を失ってしまった。
「予定よりも早い到着ですね。。まぁ、いいでしょう。 ”一気に十人” と言うのは中々大変ですから。あなたにはこれから、私の為に色々と役立ってもらいます。ふふふ」
男性はそう言い、少女を浮遊術で浮かし、どこかへ連れて行ってしまった。
この続きは、今日中に投稿したいと思っております!
時間は遅くなってしまうかもしれないのですが、必ず今日中に投稿致しますので、少しだけ待っていてください……!
このエピソードで、怒涛の展開は一旦終了となります。
次は、四人目のヒロインが出てきます!
四人目のヒロインがどう関わるのか、楽しみにしていてください♪