ep.131 クロノスドラゴンと特訓 ①
ヨミ(クロノスドラゴン)が街の散策に出かけている頃、医務室では眠っていたエルナとアイアが目を覚ましていた。
「お二人共、どうぞ」
「ありがとう」「ありがとうございます」
二人の病室に、ユリアが訪れていた。
ユリアは二人に、温かい飲み物を手渡した。
「「ごくごくごく……はぁ〜……」」
「落ち着きますね……」
「なんか、めちゃくちゃ久々って感じがするわ」
エルナは飲み物を飲んだ後、コップを手元におろした。その瞬間──、
「くっ……!」
「エルナさん!?」
左肩が痛み、持っていたコップを落としてしまった。
「だ、大丈夫ですか!? 火傷とかは!?」
「だ、大丈夫……。ごめん、こぼしちゃった……」
「それは大丈夫ですよ。洗えばいいんですから。それより、私はエルナさんが心配です。肩、痛みますか?」
「う、うん……左肩を穿れた時よりは痛くないんだけど……」
エルナは、左肩を優しくさすりながら小さく呟いた。
「そういえば、他の皆さんは?」
「お姉ちゃんは学園長や、教育委員会などへの報告を。リエ先生は沢山の人の治療などを。ヨミさんは……街へ散策に行っています」
アイアに皆の動向を尋ねられたユリアは、それぞれの動向を報告する。
が、ヨミの報告をする時だけほんの数瞬、戸惑いを出してしまった。
それに気がついたアイアが、少し表情を曇らせながらユリアに尋ねる。
「ヨミ様に、何かあったのですか……?」
「っ……!」
アイアの尋ねに、ユリアが息を呑む。
「ユリア……? 何があったの……?」
「じ、実は……」
ユリアは、ヨミの身に起こった事を説明し始めた。
☆ ♡ ☆
「そう、ですか……そんな事が……」
「はい……」
「もしかして、私達は森におびき出されった事……?」
「まぁ、そういう事になるな」
エルナの言葉に、ヨミ(クロノスドラゴン)が答えた。
ヨミ(クロノスドラゴン)は、ドアに寄りかかっている。
「ヨミさん……じゃなくて、クロノスドラゴンさん、散策はもういいんですか?」
「あぁ。もう日も暮れてきたからな」
そう言われ、三人は窓の外を見る。
「本当だ。もうこんな時間なんだ」
「私達は眠ってましたからね。時間の感覚がいまいち分からないですね」
エルナとアイアは、ずっと眠っていたため、時間の感覚がいまいちよく分かっていなかった。
「それでクロノスドラゴン、私達はおびき出されたのよね? ヨミを殺すために」
エルナは窓から視線をヨミ(クロノスドラゴン)に戻し、真剣な瞳でそう尋ねる。
「あぁ。この作戦を練った人物は、はなからこの少年の命を狙っていたんだろう。だが、簡単に殺せない事くらいは分かっている。だから、森であれだけの騒ぎを起こし、学園にいる強者を引き離した。その隙をついて勇者を差し向けた」
「「「くっ……」」」
分かっていた事だとは言え、改めて説明されると悔しさが込み上げてくる。
自分達がまんまと敵の策にはまり、学園を離れてしまった為、ヨミが危険な目に遭ってしまった。危険な目に遭わせてしまった。
しかも、自分達は敗北して戻ってきた。
まぁ、正確には敗北ではないのだが。
あの時、敵は急に撤退した。
まるで何かの合図があったかのように。
「ねぇクロノスドラゴン」
「なんだ?」
「クロノスドラゴンは勇者の四人と戦ったのよね?」
「あぁ」
「その時、なんか変な行動取ってなかった? 何か、合図的なものをしたとか」
エルナに尋ねられたヨミ(クロノスドラゴン)は、口元に手を当て考える。
「合図か……いや、特には何もしてなかったと思うが……」
「そう……」
「逃げる時に亜空間を開いていたくらいだが、もしかしたら、その亜空間を開くのが撤退の合図、という可能性もあるな」
ヨミ(クロノスドラゴン)の答えを聞いた三人は、表情を暗くしたまま俯いていた。
「まぁ、悔やんでも仕方がない。過ぎた事は戻せないのだ。だから、今はその後悔をどう次に活かせるかを考えるんだな。そして、今はゆっくり休め」
ヨミ(クロノスドラゴン)はそう言って、部屋を後にしようとした。
だが、そんなヨミ(クロノスドラゴン)を、エルナが引き止めた。
「ま、待って!」
「ん?」
「確かに、過ぎた事を悔やんでもしょうがない。それは分かってる。だから、私はこれ以上後悔を増やさない為に強くなりたい! ヨミをこれ以上傷つけない為、危険な目に遭わせない為に、もっともっと強くなりたい!」
「私もです! もっと強くなって、ヨミ様を守れるようになりたい!」
「私も! ヨミさんを、守れるくらい強くなりたい!」
「「「だから、特訓をお願いします!!!」」」
三人にそう言われたヨミ(クロノスドラゴン)は、目を見開いて驚いていた。
いきなりこんな事を言われるとは思ってもなかったのだろう。
「そうか。分かった」
「「「じゃ、じゃあ!」」」
「特訓はしてやる。だが、今は休め」
「「「え……」」」
ヨミ(クロノスドラゴン)の返答に、三人は気を落とす。
しかし、ヨミ(クロノスドラゴン)の次の言葉を聞いて胸を熱くさせた。
「万全な状態じゃない今、特訓をした所で大して強くはなれない。と言うか、なれるわけがない。だから、今は体を休める事に集中して、特訓ができる万全な状態にまで持っていけ。そしたら特訓をしてやる」
「「「ありがとうございます!」」」
「ふん……。言っとくが、我の特訓は厳しいからな。途中で弱音を吐いたり泣いたりしても、逃げ出すことは許さないからな」
ヨミ(クロノスドラゴン)は、素っ気ない言い方でそう言った。
しかし、三人は分かっていた。ヨミ(クロノスドラゴン)は照れているのだと。
「「「はい!」」」
だから、元気よく返事をした。
ヨミ(クロノスドラゴン)に特訓をしてもらうために。
「じゃあな」
ヨミ(クロノスドラゴン)は、部屋を去って行った。三人には見られないように、小さく微笑みながら。




