ep.130 クロノスドラゴンの散策
ユリア達に状況説明を終えた翌日。
ヨミ(クロノスドラゴン)は、街に出向いていた。
「ほう。中々に賑わっている」
クロノスドラゴンが出向いた街は【ファスティム】と呼ばれていて、農作物が有名である。
果物、穀物、野菜の生産量を誇っている。
特に穀物が有名で、 ”お米” がこの街、いや、この国【ノロスタート】ではよく食べられている。
「昔はここまで賑わっていなかったはずだが……」
ヨミ(クロノスドラゴン)が歩みを進めながら辺りを見回していると──、
「あら! ヨミちゃん!」
「っ!?」
突然、果物屋の店主であるおばちゃんから声をかけられた。
「今日は一人かい?」
「あ、あぁ」
「そうかい。じゃあ、これ持っていきな」
「うおっ!」
袋いっぱいに入った梨を渡された。
「これは?」
「ヨミちゃん達好きだろ〜? 梨! いつもよくしてもらってるからね〜! そのお礼だよ〜!」
手を振ってくれるおばちゃんに対し、軽く会釈をするヨミ(クロノスドラゴン)。
そのまま梨を持ち、歩き出す。
「これは……エリフンか? すんすん……匂いはエリフンに近いようだが……がぶっ! んん! これ美味いな!」
どうやらクロノスドラゴンは梨を気に入ったらしい。
袋に入っている梨をほとんど食べてしまった。
☆ ♡ ☆
「いかんいかん。街の調査をせねば」
口元の梨の果汁を腕で拭いながら、空になった袋をゴミ箱に捨てるヨミ(クロノスドラゴン)。
ゴミ箱に捨てた後、ヨミ(クロノスドラゴン)は街の散策を再開した。
「ここは……書物がある建物か。ふむ。我は文字が読めん。ここはパスだ」
ヨミ(クロノスドラゴン)は、日が暮れるまで街を散策した。
日が暮れ始めた頃。ヨミ(クロノスドラゴン)は人気のない所にいた。
なぜか。それは──、
「下手くそな尾行を、我が気がつかないとでも思ったか?」
「チッ。バレてたか」
「なんの用だ? 貴様はグルスの犬だろう。勝手な真似はできないはずだ」
「そのグルス様からの命令なんだよ。テメェの動向を見張っとけってな」
ヨミ(クロノスドラゴン)の背後から、泉霞の教頭であるゴーザが姿を現した。
どうやら朝からずっとヨミ(クロノスドラゴン)を尾行していたようだ。
ゴーザの左肩には厳ついアーマーが装着されていた。
エルナにやられた傷は完治しなかったのだろうか?
「んで? ここで殺り合うのか? 我は一向に構わんが、貴様は左肩を負傷中だろ?」
「そのつもりはねぇよ。俺の役目はテメェを見張ること。戦う事じゃねぇ」
「ほう。昔と比べて聞き分けがよくなったんだな」
「グルス様に逆らうなんて、今までの俺はどうかしてたんだ。これからはグルス様の命に従って生きていく」
「つまらん人生だ」
「うるせぇ」
そう言ってゴーザは、瞬間移動でもしたかのように姿を消した。
「ふぅ。もう時間も遅い。今日は帰るか。面倒くさい奴が見張っているようだからな」
そう言ってヨミ(クロノスドラゴン)は学園の寮へと帰っていった。
クロノスドラゴンが言った面倒くさい奴とは、ゴーザ……の事ではなく──。
「まさかバレていたとは……」
建物の影から、三術姫の一人、大気のエーサルがヨミ(クロノスドラゴン)を見張っていた。
「やはり、侮れませんね」
エーサルは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた後、姿を消した。




