ep.129 状況説明
クロノスドラゴンは、ユリア達にヨミの身に起こった事を説明した。
書庫の帰り、四人の人物が現れヨミを襲った事。
なんとか太刀打ちできていたヨミだったが、相手が協力な技を使い、ヨミが破れた事。
ヨミを守る為に、クロノスドラゴンが前面に出てヨミにダメージを与えなかった事。
四人は、クロノスドラゴンに怯んで逃げた事。
逃げる前に何か合図を出していた事。
その全てを。四神龍の力の事以外の全てを皆に伝えた。
「そ、そうだったんですか……」
リエが瞳に涙を浮かべながら、小さく呟く。
そんなリエの背中を、優しくさするミリア。
「それで、今ヨミさんは……?」
「眠っている。戦えていたとは言え、ダメージがなかった訳じゃない。それを回復させる為に今は眠らせている」
ヨミは現在、クロノスドラゴンの力で眠っているらしい。
リョウヤ達との戦いで、多少のダメージは受けている為、今のヨミには休息が必要だった。
「その四人は一体何者なの? なんでヨミ君を狙って?」
ミャナが壁に寄りかかりながら尋ねる。
その声には、怒りが込められているような気がした。
「あいつらが何者なのか。それは我にも分からん。だが」
「だが?」
「あの強さ、あの力……恐らく、奴らは ”勇者” だろう」
「「「「っ!?」」」」
クロノスドラゴンの ”勇者” と言う言葉に、その場にいた全員が目を見開いた。
「ゆ、勇者ってあの……!?」
「ほ、本とかに載っていて、てっきり空想上の事かと思ってたんですけど……」
ミャナとユリアが、少し震えた声で言う。
「まぁ、空想上だと思っても仕方がないだろう。最後に勇者が召喚されたのは今から百年も前の事だからな」
「「ひゃ、百……!?」」
クロノスドラゴンの説明では、勇者、と呼ばれる存在は実在しているらしい。
だが、その勇者が存在していたのはヨミ達が生きる今の時代から百年も前だと言う。
百年も時間が空いていれば、空想上の存在だと思われても仕方がないだろう。
しかし、ユリアは勇者が本に載っていると言っていた。百年も前の事を記したのは一体、誰なのだろうか……?
「その四人が勇者だとして、なぜその四人はヨミを狙ってきたんだ?」
ミリアが尋ねる。
「それは…………我にも正直分からん」
正直、知っていそうな雰囲気だったが、ミリア達はあえて追求しなかった。
ミャナだけは何か言いたそうにしていたが、ミリアがそれを制していた。
「そうか。では、なぜ奴らは逃げたんだ? クロノスドラゴンの力に怯んだと言うが、戦ったんだろう? それなら、クロノスドラゴンが前面に出た時点で逃げるべきだ。なぜ奴らはそれをしなかった?」
「血気盛んな奴が一人いてな。そいつのせいで逃げるのが遅れたんだ。まぁ、我も逃がすつもりはなかったんだが……」
クロノスドラゴンの様子を見て、皆は戦闘中に何かあったのだろうと察した。
先程の報告にもあった、逃げる前の合図、に関わっているのかもしれない。
そう思った皆は、深く追求する事はしなかった。
「これは我の推測だが、奴らは当分動きを見せないだろう。奴らが動かない間に、お前らはしっかりとした休息を取り、力をつけておけ」
「「は、はい!」」
ユリアとリエが返事をし──、
「分かった」
ミャナが無愛想に頷く。
「あんたはどうするんだ?」
ミリアは返事をせず、逆に尋ねた。
「こいつはまだ寝かせておく必要がある。その間、街でも見て回るつもりだ。今の世が、どれほど進化しているか確認する為にな」
「そうか。分かった」
クロノスドラゴンの答えを聞いたミリアは、納得したようで小さく頷いていた。
「それじゃあ、各自自由に過ごすとするか。クロノスドラゴン、ヨミを頼むぞ」
「あぁ」
そうして、しばらくの休息、しばらくのトレーニング期間となった。
医務室を出ていくヨミ(クロノスドラゴン)の背中を、鋭く睨みつける人物がいた事を、この時は誰も知らなかった。
「ほぅ。我々がしばらく動けないという事を、クロノスドラゴンは把握していると」
「えぇ。どこでどうそう思ったのかは分からないけれど、はっきりそう言っていたわ。だから今のうちに休んで強くなれって」
「そうですか」
校長室と書かれた部屋。
その部屋の中で校長であるグルス・ヴォルアと、グルスの古い友人であると言う、薄緑色のドレスを身に纏った女性──グリエ・チャームが話していた。
「まぁ、私はいいタイミングだと思うのよね」
「いいタイミング?」
「えぇ。ヨミにはもっと強くなってもらわないと困るから。この期間を利用すれば、沢山レベルアップができるでしょ?」
「あぁ。なるほど。確かにそうですね」
「だから、しばらく ”計画” を進めるのはやめてちょうだいね?」
「はいはい、分かりましたよ。まぁ、どちらにせよこちらも駒が足りてません。補充などをしなくてはなりませんので、動くつもりはなかったんですけどね」
「そ。まぁ、それならそれでいいわ。ん?」
二人が話していると、グリエが何かを感じた。
「呼ばれたから、そろそろ行くわ」
「えぇ。またお願いしますね」
「ええ」
グリエは校長室を後にした。
グリエがいなくなった後、椅子に座り背もたれに体重をかけたグルス。
「いくら協定を結んでいるとは言え、本来 ”敵” である人と接するのは疲れますね。腹の底が読めない」
暗くなりつつある空を、窓越しに見つめるグルス。
「まぁ ”真の計画” を決行するまでの辛抱です。利用できるものは、全て利用するだけ、ですから」
グルスはそう言いながら、目を瞑った。




