ep.11 ヨミの異変?
時は少し遡り、ユリア達の前にグルスが現れる少し前。
魔物の森の中、ゲノムスパイダーの巣では、ゲルゲノムスパイダーとの激闘が繰り広げられていた。
「ぐあ!?」
「ぐっ!」
ガンデとロンデが、ゲルゲノムスパイダーの攻撃で吹き飛ばされる。
キンデは、リンデに回復してもらい、戦闘に復帰していた。
二人も共にゲルゲノムスパイダーに挑むが、ゲルゲノムスパイダーの力は凄まじく、四人がかりでも、傷一つ付けられなかった。
攻撃を加えようとすると、その倍の威力で攻撃されてしまう。
それを何度も繰り返し、ついには四人とも倒れてしまった。
そんな四人を見て、ヨミが──、
「僕だって魔法使いだ! はあああああ!」
「おい、よせ! お前が敵う相手じゃ、ねぇ!」
ヨミがゲルゲノムスパイダーに向かって行ってしまった。
痛む体をなんとか起こそうとしながら、ヨミに向かって叫ぶキンデ。しかし、ヨミはすでにゲルゲノムスパイダーの頭の上に高くジャンプしていて──、
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
ヨミが、降下の勢いを利用して攻撃を繰り出そうとした。しかし──、
「ぐっ!?」
ゲルゲノムスパイダーの八本あるうちの一本が、ヨミの腹を貫いた。
しかも、その脚の先端には毒が。
腹部を貫かれたヨミは、ゲルゲノムスパイダーに投げ捨てられ、キンデ達がいる方へ転がった。
「よ、ヨミ様!?」
「しっかり!」
リンデとロンデが、転がってきたヨミに慌てて駆け寄った。
「……………」
リンデとロンデの呼びかけに答えないヨミ。しかも──、
「し、心臓が、止まってる……!?」
『はっ!?』
リンデのその一言に、キンデ、ロンデ、ガンデが言葉を失った。
「お、おい! しっかりしろ! 死ぬなんて許さねぇぞ! おい!」
キンデが声を掛けると──、
「…………っせぇな」
「え……?」
「うるせぇって言ってんだよ」
「…………お前、誰だ?」
キンデは、ヨミに対してその疑問を投げかけた。
☆ ♡ ☆
森があった場所までやって来たユリア達。そして、ゴーザを含む捜索隊達。
「確かに。ここにあったはずの魔物の森が消えてるな」
「だからそう言ったろ」
ゴーザが、森のあった場所を眺めながら呟くと、エルナが小さく苛立ったような口調で呟いた。
「お前ら! なんでもいい。手がかりになりそうな物を見つけてこい!」
『はっ!』
ゴーザから指示を受けた調査隊は、大きく返事をして調査の為、散らばった。
「偉そうに……」
エルナが、またもや苛立ったような口調で呟くと──、
「何をボサッとしている? お前らもさっさと調査に向かえ!」
「うるさいわね! あんたに言われなくても分かってるわよ! 行くよ」
「え、エルナさん!?」
「少しは抑えなさいよ……」
ユリアはエルナに手を引かれ、アイアは少し呆れながら二人の後をついて行った。
そんなユリアの後ろ姿を眺めながら──、
「やはり、あの女はいい。必ず俺の物にしてやる」
ゴーザは、そんな事を呟いた。
☆ ♡ ☆
ゴーザの元から遠く離れた場所で、ユリア、エルナ、アイアが調査をしていた。
「でも、なんで突然森が消えたんだろう……森の中にいた私達が全員外に出されるなんて……」
エルナが、歩きながら疑問を口にしていた。
「そうね……しかも、なぜヨミ様だけが取り残されたのか……謎は深まるばかりよ……」
アイアも、同じ疑問を抱いているようで、立ち止まりながら口許に手を当てて考え込んでいた。
「ヨミさん……ご無事でいてください……」
ユリアは胸の前で、両手を合わせただただ願っていた。ヨミの無事を。
すると──、
「ぐあ!?」
「な、何!?」
突然、森のあった方向から誰かが吹き飛んで来た。
「あれは……人? 竜?」
「あれは……竜人です!」
空から落下してくる竜人を見て、エルナが疑問を口にすると、アイアがその答えを述べた。
そう。吹き飛んで来たのは、竜人のキンデだった。
☆ ♡ ☆
ユリア達が、森があった場所での調査を開始する少し前。
様子のおかしいヨミに、キンデ、ガンデ、ロンデ、リンデの四人が心配そうに声をかけている。
しかし──、
「お前ら、俺から離れろ。お前らごときが俺に近づくな」
「お前……誰なんだ……? あいつはどこに……」
「あぁ? ヨミ・アーバントなら今目の前にいるだろ? ここによ。ほら」
ヨミであるはずの目の前にいる人物は、なぜかヨミだと感じなかった。
それは、キンデだけでなく、ガンデ、ロンデ、リンデもそう感じていた。
まず、声からして違う気がして……。
「お前は違う。一体誰なんだ?」
「あ〜うるせぇな。俺が何者か、戦えば分かるだろうよ!」
「ぐあ!?」
突然、ヨミがキンデを攻撃する。その攻撃にキンデは空高く打ち上がってしまった。
その上に一瞬で移動したヨミ。
上空で身動きが取れないキンデに──、
「おら!」
「ぐああああ!?」
踵落としを打ち込んだ。その勢いのまま、キンデは地面に落下した。
「な、なんだこの強さ……さっきまでのあいつは、魔術も使えなかったってのに……」
「あれは、私達が知ってるヨミ様じゃない……」
リンデが、空に佇むヨミを見つめて呟く。
「キンデ! 私も共に行きます!」
「しゃあねぇ! 一緒に行くぞ、ガンデ!」
「えぇ!」
キンデは素早く立ち上がり、空にいるヨミへと向かって飛んでいく。
それに合わせて、ガンデも共に空に飛び上がった。
「ふっ。久々の戦いだ。楽しませてくれよ」
ヨミは不敵に微笑み、迫ってくる二人を見つめていた。
「今のあなたには手加減しません。業炎槍─ブラストランス─」
ガンデが、いきなり強力な技をヨミに向かって放った。
燃え盛る炎が、槍を包み込む。それがヨミに向かって一直線に突き進んでいく。
「ふっ。槍竜人か。中々いい技だ。だが!」
ヨミは、右手を前に突き出す。すると、ヨミに向かっていたガンデの槍がいきなり方向を変え、リンデに向かって進み出した。
「な、なんだと!?」
キンデが驚きの声をあげる。しかし、その間もガンデの槍は、リンデに向かっている。
「ひっ!?」
リンデに直撃しそうになった時──、
「くっ……!?」
「ろ、ロンデ!?」
リンデに向かっていた槍を受け止めたのは、ロンデだった。
ロンデは、自分の槍を出現させ、ガンデの槍を受け止めていた。しかし、その槍はガンデが強力な技を込めて放った物で──、
「う、受け止めきれない……!」
「ロンデ、私はいいから逃げて!」
「んな事、できる訳、ねぇだろ!」
ロンデは、両手に火傷を負いながらもガンデの槍を受け止めている。
しかし、それも限界になった時──、
「うーーーーりゃああああああああああ!」
キンデが、その槍を力いっぱい吹き飛ばした。
「はぁはぁ……」
「キンデ、ありがとう……」
「礼を言うのは俺の方だ。リンデを守ってくれてありがとな」
キンデは、珍しく素直に感謝の意を告げた。
「皆さん! 次来ます!」
ガンデのその叫び声で、キンデ達は空を見やる。すると、ヨミがキンデに向かって猛スピードで迫って来ていた。
咄嗟に対応できなかったキンデは──、
「ぐあ!?」
ヨミからの蹴りで、吹き飛んでしまった。
その際、突然バリアでも崩れたのかのように、木々が生い茂る緑の視界から、青空が広がる視界に切り替わった。
キンデが吹き飛んだ先には、ユリア達がいて──、
「よ、ヨミ!?」
エルナが、上空に佇むヨミを見つけ、その名を叫んだ。
☆ ♡ ☆
キンデは、ユリア達のいる所へ転がった。
ユリアは、転がってきたキンデに駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!?」
「に、人間……!? どういう事だ……?」
キンデが、ユリアの顔を見つめながら考えていると──、
「おそらく、森の外に出てしまったのでしょう。何者かの力によって」
ガンデが、冷静に事態を分析し、キンデの疑問に答える。
「こ、これが、外の世界……」
リンデ、ロンデの二人は初めて見た外の世界に、心奪われていた。
そんな中で──、
「ねぇ、ヨミ! なんでそんな所にいるのよ! 降りてきなさい!」
エルナが、上空に佇むヨミに向かって必死に呼びかけていた。
しかし、その声はヨミに届いていないらしく──、
「これが今の人間の世か。美しくもあり、穢らわしくもある。人間の無駄な知恵が暴走した成れの果てか」
ヨミは、町を見回していた。
まるで ”何百年ぶり” に世界を見たかのように。
すると──、
『光術・光弾!』
ヨミに向かって光りの弾が放たれた。しかも、一発だけでなく、五発。
「な、何!?」
エルナ達が、光弾が飛んできた方向を見やると──、
「お前ら、どんどん撃て! あの空に浮かぶ奴に命中させるんだ!」
ゴーザが調査隊の面々に指示を出し、ヨミに向かって攻撃を仕掛けさせていた。
「ちょっとアンタ! 何やってんのよ!? あれはヨミよ!? 私達が探しているヨミ・アーバント! それなのになんで攻撃して、何考えてんのよ!」
「黙れ! あの禍々しいオーラ、あれは我々が知っているヨミ・アーバントではない!」
ゴーザは、怒鳴り込むエルナを一喝し、エルナを黙らせ、調査隊にさらなる指示を出した。
「最大出力で魔術を撃て!」
先程放った攻撃もまだヨミに届いてないのに、その上さらに攻撃を上乗せするように命じた。
調査隊はその指示に従い、先程よりも強力な攻撃を放った。
「ん? ふっ。舐められたものだな」
ヨミは迫ってくる光弾を見て、呆れた笑みを浮かべた。そして──、
「フッ」
ヨミが右手を前に突き出すと、ヨミに迫っていた光弾が静止してしまう。
「な、何!?」
その様子を見たゴーザは思わず、驚きの声を漏らしてしまった。
しかし、驚くのはまだ早かった。
「自分達の攻撃で、死ね」
そうヨミが言うと、ヨミに向かっていた光弾が向きを変え、調査隊達に向かって飛んできた。
そのスピードは、目にも留まらぬ速さであっという間に調査隊に直撃し──、
『ぐあーーー!?』
調査隊達は吹き飛んでしまった。
攻撃が直撃してしまった者達の中には、気を失ってしまった者、大怪我を負ってしまった者、中には命を失ってしまった者もいる。
「な、なんなんだ、これは……」
ゴーザは信じられない物を見てしまったとい言う表情で、絶句していた。
「あの方達にお話を」
「そうだな」
リンデとロンデの二人は、近くにいたユリア達に状況の説明を求めるのと同時に、森で起きていた事も話そうと接触しようとすると──、
「グギャアアア!」
森の方向から、ゲルゲノムスパイダーが姿を現した。
「あれは、ゲルゲノムスパイダー!? 滅多に姿を見せない森の支配者!? そんな怪物がなぜ……!?」
ゴーザはゲルゲノムスパイダーの姿を目の当たりにすると、信じられんと言わんばかりに首を横に振り、驚いていた。
「な、なんですか……!? あの巨大な生き物は……!? とても恐ろしいです……!」
ユリアは、全長五メートルはあろうかと言うゲルゲノムスパイダーの姿に恐れおののいていた。
「あいつ、私達に向かってこない……? まさか、狙いはヨミ!?」
そう。森から出てきたゲルゲノムスパイダーは、リンデ達には目もくれず、上空に佇むヨミの方向に向かって走っていた。
「あぁ? あ〜そういや、まだ片付けてなかったか。面倒くせぇ」
ヨミは、いかにも面倒くさそうにゆっくりと地上に降下した。
降下したヨミに向かって、猛スピードで迫るゲルゲノムスパイダー。
そんなゲルゲノムスパイダーを一瞥もせずに──、
「さっさと消えろ。目障りだ」
と小さく呟き、パチンと指を鳴らした。
すると、ヨミに向かって走っていたゲルゲノムスパイダーが一瞬にして崩れ落ちてしまった。
走っていた八本の脚はバラバラに崩れ、巨大な頭部は真っ二つに割れてしまっていた。
その結末は、言うまでもない。死だった。
そんな様子を、驚愕の表情を覗かせながら見つめるキンデ達竜人、ユリア達、そして、ゴーザ。
そんな様子はお構い無しに、ヨミは不敵な笑みを浮かべながら、キンデ達に近づいていく。
その不敵な笑みに、その場にいた全員が背筋を凍らせた。
普段は温厚で穏和な優しいヨミが、今は戦いに飢えている獣のような目をしている。
そんな様子に、ユリア達はただただ恐怖を抱くしかなかった。
全員と言ったが、この中で一人、ヨミのあの顔を見たことがある人物がいた。
アイアだ。
アイアは前に、ヨミとの戦いで今と同じ恐怖を味わっていた。
そう。二人が初めて戦ったあの日だ。
アイアは、ヨミの謎の恐怖感に襲われながらもなんとか試合を行った。結果はアイアの降参負けとなった訳だが。
今回のヨミの表情は、アイアとの戦いで見せた時よりも恐ろしい物だった。
「エルナ、ユリアさん。うかつにヨミ様に近づかないでください」
「「え……?」」
二人は、首を傾げる。
「今のヨミ様は、ヨミ様であってヨミ様でない。うかつに近づいたら、私達もあの魔物のようになります」
「「っ!?」」
そこまで聞いて二人は、今のヨミがいきに危険か理解した。
あのゲルゲノムスパイダーを一瞬にしてバラバラにした力だ。
ユリア達など造作もないだろう。
「さぁ、槍竜人よ。さっきの続きと行こうぜ」
投稿が遅くなってしまって申し訳ありません……!
様子が変になってしまったヨミ。一体何があったのか。元通りになるのか。
この続きは2/24の月曜日に投稿致しますので、楽しみにしていてください!
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今後も、皆様の応援を糧に頑張ってまいりますので、よろしくお願い致します!