ep.108 シーサルVSユリア&ミリア ①
アイアとリエがコウトと戦闘を繰り広げる中、別の三箇所でも戦闘が行われていた。
まずはそのうちの一つ、ユリアとミリア姉妹の戦いから。
二人の相手は【三術姫】の一人──『精神のシーサル』
「ふわぁ〜……」
「敵が目の前にいるってのに、随分な態度だな」
「敵〜? あ〜そうだね〜」
ユリアとミリアの前には、羊の角を模した髪をした黄色チャイナ服を着た、銀白髪のシーサルが立っている。
シーサルは、ずっと眠そうにあくびをしている。
二人が自分を睨んでいるにも関わらず、まるで自分には関係ないと言わんばかりにあくびをしている。
その態度が気に入らないミリアは、あえて挑発するような言葉を紡ぐ。
「そんな眠そうで、本当に戦えるのか? 家で寝てた方が良かったんじゃないか? 家でママのおっぱいでも吸ってた方が良かったんじゃないか?」
「………………」
ミリアの見え透いた挑発には乗らず、あくびを続けるシーサル。
「お前じゃなくて、他の【三術姫】の方が良かったんじゃないか? あ、でも。他の二人もどうせ弱いだろうから無駄か」
「………………っ………………」
ミリアの挑発には乗らないシーサル。だが、ミリアが【三術姫】の事について触れた瞬間、シーサルの羊の角を模した髪がピクッと動いた。
「どうせ【三術姫】なんて噂されてるだけで、大して強くないんだろ? だから表に出てこない」
「…………れ」
「あ? なんだって?」
「黙れって……黙れって言ったんだこのクソボケがぁぁ!!」
「「っ!?」」
突如、シーサルが鬼の剣幕で怒鳴ってきた。
突然の豹変に、ミリアとユリアの二人は驚きが隠せなかった。
「クソがクソがクソがクソがクソが! なんでテメェみたいなクソッタレにんな事言われなきゃなんねぇんだ! あぁ! オレの……オレ様の家族を悪く言うのはぜってぇ許せねぇ! テメェはここでぶち殺してやる!」
(前に会ったリーサルと同じで、この子も子供みたい……嫌な事があると感情を表に出して、暴れる。もしかして、残りの一人もこんな感じ……? でも、前に現れた時はものすごく冷静で冷徹そうだった……それに、あの人は怖かった……)
右足で何度も地面を踏みつけ、キレ散らかすシーサルを見ながら、ユリアは冷静に分析をしていた。
操られたミャナを救出する際、倒れたリーサルの元にエーサルが現れた。
その時のエーサルは、冷静沈着で冷酷非情のような声音と瞳をしていた。
それに密かにユリアは怯えていた。
「だったら、来い!」
「言われんでも行くわぁ! テメェはぶち殺すっ!」
ユリアが考えている間にも二人の間ではやりとりが続いており、シーサルはミリアに向かって駆け出した。
それを受け、ミリアは足元に水を発生させる。
「よっと!」
そして、水圧を利用して上空に浮かび上がりシーサルの突進を躱す。
「だろうな。そうだと思ってた、よっ!」
「なっ!?」
ミリアの足元にいたシーサルは、出続ける水を突っ切って飛び上がる。
そして、ミリアの足を掴み地面に投げ飛ばした。
ミリアを投げた後、シーサルは地面に着地した。
「おら! まだ生きてんだろ! さっさと起きろ!」
「なんだ……? なんであんな動きが……?」
ミリアは、痛む体を庇いながらゆっくりと立ち上がる。
シーサルの今の動き。あれは、どう考えてもおかしかった。
まるでミリアの行動が読めていたかのように、シーサルは瞬時に上空に上がってきた。
「ええい! 考えている暇はないな! 雷術、閃光稲妻!」
ミリアは考えるのを止め、シーサルに向かって雷術を放った。
が──、
「ハァァァ!!!」
「なっ!?」「っ!?」
シーサルは、その雷を叫びで打ち消してしまった。
これもまた、ミリアが放ってくるかと分かっているかのような動きだった。
「あいつ……やっぱりこっちの行動を読んでる……?」
「へへん」
一体、シーサルにはどんな力があると言うのか……。