ep.10 ヨミの秘めた力
ユリア達が森の外に出て、森が外から見えなくなってしまった頃。
ヨミは、竜人達に別れを告げて、森の中を歩いていた。
「やっぱり、上に戻る道がない……それどころか、どんどん道が狭まって行ってるような……」
そう。ヨミが進んでいる道。そこはどんどんと道が狭まり、分かれ道もなんにもない、一本道になっている道だった。
「後ろは……なんか塞がれてる……? って事は、前に進むしかできない……んだけど、このまま進んでいいのかな……? 昨日みたいに知らず知らずの間に誰かのテリトリーに侵入してる、とかって事になってたらどうしよう……」
ヨミは、昨日と同じ過ちを繰り返したくないと考えていた。
しかし、道はこの一本道しかないので、侵入してしまっていようがいまいが、この道を進むしかないので、ヨミは恐怖心を抱きながらも足を進めるしかできなかった。
☆ ♡ ☆
森の外に出てしまったユリア達。
突然森が消えてしまった事に、驚きが隠せないユリアとエルナ。アイアだけはこの現象について考えていた。すると──、
「エルナさん! アイアさん! あれ!」
ユリアが、突然横を指さして叫んだ。二人が指差す方を向くと──、
「あ、あれは!?」
そこにいたのは、泉霞叡術魔術学園の制服を着た生徒達だった。
森にいた他の生徒達が、何が起きたのか分からず、戸惑っていたのだ。
「一体どういう事なの……?」
エルナが、不思議そうに生徒達を見つめていると──、
「一旦、学園に戻りましょう」
「え……?」
「な、なんで? ヨミを探しに行かないの!?」
アイアの提案に、エルナが抗議した。しかし──、
「森が見えなくなってしまったんです。ヨミ様を探しに行きたくても、入り口も見当たらない。そんな状況でどうやって探すと言うんですか? それに、この事を校長やミリア先生に報告すべきでしょう」
「そ、そうね……。確かにそうだわ。ごめん。怒鳴ったりして……」
「いえ。ヨミ様が心配なのは私も同じですから。他の生徒にも一旦学園に戻る事を伝えましょう」
「うん」
「はい!」
そうして、ユリア達は他の生徒達を連れて、学園に戻る事にした。
その中に、グートの姿はなかった。
☆ ♡ ☆
ユリア達が学園に向かい始めた頃。ヨミは森の中で再び絶体絶命の大ピンチに陥っていた。
「な、なんだこの蜘蛛たちは……」
ヨミの目の前にいる魔物。
それは、蜘蛛のような姿をしたゲノムスパイダー。
魔法使いの魔術や魔法を吸収し、その力を倍にして跳ね返す事ができると言う、かなり厄介な力を持った魔物だ。
そんなゲノムスパイダーが、ヨミの目の前にざっと十匹はいる。
ヨミは、ゲノムスパイダーが魔術を吸収する事を知らないので、魔術を使って攻撃しようとするが──、
「火炎! あれ!? なんで!? 魔術が使えない……!? 前は使えたのに……!」
ヨミはなぜか魔術が使えなかった。ヨミが自分の手を不思議そうに見つめていると──、
「グギギ……」
ゲノムスパイダーが、ヨミに向かって攻撃を放とうとしていた。
それに気がついたヨミは、尻もちをつきそのまま後ずさりをする。そして──、
「グギャ!」
ゲノムスパイダーが、紫色のドロドロとした球体状の液体を発射した。
「うわっ!?」
ヨミは間一髪、躱す事に成功した。が、攻撃が直撃したヨミがいた場所は、異臭を放ちながらドロドロに溶けていた。
「これは、まずい!」
ヨミは、この攻撃に当たってはいけないと確信した。そして、逃げる事をすぐに決めた。
のだが、ここはゲノムスパイダーの巣。辺りには無数のゲノムスパイダーが。
「くっ……! なっ!?」
ヨミは走って逃げた。が、逃げた先に三匹のゲノムスパイダーが攻撃の準備をして待ち構えていた。
「うわっ!?」
ヨミはコケてしまう。
「も、もう……!」
ヨミは覚悟を決めた。もう駄目だと。
ゲノムスパイダーが攻撃を放とうとした瞬間──、
「氷槍─アイスランス─」
突然、ゲノムスパイダー三匹の脳天を、氷を纏った槍が打ち抜いた。
脳天を打ち抜かれたゲノムスパイダー達は、その場に倒れ絶命した。
「あっ!」
ヨミが後ろを振り返ると、そこには──、
「ヨミ様、ご無事ですか?」
ヨミが昨日お世話になった洞窟で出会った、竜人のリンデとロンデの二人がいた。
ちなみにリンデは女性で、ロンデは男性だ。
その二人の後ろから、遅れてもう一人の竜人が走ってきた。
その竜人は男性で、名はキンデ。
キンデとロンデはライバルで、リンデはキンデの許嫁だった。
「ったく! 今度はゲノムスパイダーの巣に踏み入れるなんて、どんだけなんだよお前!」
「ちょっと、キンデ! ヨミ様になんて口の利き方してるの! 長様の言ってた事、忘れたの?」
「そんなもん関係ねぇよ! そいつはただの人間。長様がなんでそいつを特別扱いしてるのか知らねぇが、俺にとっては他の人間となんら変わんねぇ。そんな奴にヘコヘコするなんざ、俺は認めねぇ!」
キンデは、ヨミの事が少し、いやかなり、いや結構嫌いらしい。
「おい、人間! 戦えないお前がそこにいたら足手まといだ! 戦いに巻き込まれない場所まで下がって隠れてろ!」
「は、はい!」
ヨミはキンデに言われた通り、戦いに巻き込まれない場所まで下がり、身を隠した。
ヨミが隠れたのを確認したキンデは──、
「行くぜ! 雷槍─ボルトランス─!」
キンデがそう叫び、右手を前に突き出すと、どこからともなく槍が現れる。
そして、黄色い光りが槍を包み込み、稲妻のような軌道を描き、ゲノムスパイダーに直撃する。
一体だけでなく、数体。攻撃が直撃したゲノムスパイダー達は、次々絶命する。
「負けてらんないね。水槍─アクアランス─」
「あぁ! 氷槍─アイスランス─」
リンデとロンデも、キンデに負けじと攻撃を仕掛ける。
リンデの放った攻撃、水槍─アクアランス─はキンデと同じように右手を前に構える事で槍を出現させる。
そして、青色の光りが槍を包み込み、波のように緩急をつけながらゲノムスパイダーに攻撃する。
ロンデが放った攻撃、氷槍─アイスランス─も他の二人と同じように、右手を前に構える事で槍を出現させる。
そして、その後、水色の光りが槍を包み込み、まるで氷柱のように上空から一気に落下し、ゲノムスパイダーに攻撃する。
「す、凄い……」
ヨミが、三人の戦いぶりに関心していると、その後ろからゲノムスパイダーが近づいてきていた。それに気づかないヨミ。
ヨミとゲノムスパイダーの距離があと数センチと言った所で──、
「炎槍─フレアランス─」
突如、空から炎を纏った槍が降ってきた。空から降ってきた槍は、ヨミの後ろにいたゲノムスパイダーをたった一撃で絶命させた。
「ヨミ様、ご無事ですか?」
「は、はい……」
空から降りて来たのは、オンデの護衛で、最強の竜人ガンデだった。
「あ、ありがとうございます……! すみません……僕に力がないから守ってもらってばっかりで……」
「いえ。お気になさらないでください。それに、ヨミ様はお強いです。長様が言うには、貴方様には特別な力があるとの事。なのでヨミ様が気にする事は何一つとしてありません。ですが、ここは私達にお任せください」
ガンデは優しく、それでいてクールにヨミに告げた。
「ありがとうございます。お願いします……」
ヨミは素直にそれを聞き、一歩下がった。
こうして話している今現在も、ゲノムスパイダーがガンデに近づいてきていた。
「では行きます。業炎槍─ブラストランス─」
そうガンデが技名を唱えると、先程よりも激しい炎が槍を包み、目にも見えない速度で槍が移動し、無数のゲノムスパイダーを絶命させていく。
「はっ。あいつ、遅れてきやがったのに、目立ってやがる。負けてらんねぇ。行くぜ! 業雷槍─ライボルトランス─!」
キンデが、新たな技を放った。
その技は先程よりも激しい稲妻が槍を包み込み、ガンデのよりも速いスピードで移動し、無数のゲノムスパイダーを絶命させていった。
リンデやロンデ達も負けじと二人で協力し、沢山のゲノムスパイダーを絶命させていく。
「す、すごい……!」
ヨミは、四人の強さに目を奪われていた。
今のヨミに、四人ほどの強さはなかった。それどころか、今のヨミはユリア、エルナ、アイアの三人にも敵わないだろう。
ヨミが、四人の戦いに目を奪われていると──、
「ヨミ様、お下がりください」
「え?」
ほとんど全てのゲノムスパイダーを倒したガンデが、ヨミの前に立ちそう告げた。
ヨミの後ろからは、キンデ、リンデ、ロンデが近づいて来ていた。
ヨミが、四人の見つめる方を見やると、そこには──、
「な、何、この怪物……」
「こいつはゲノムスパイダーの親玉、ゲルゲノムスパイダー」
ヨミ達の前に現れたのは、ゲノムスパイダーのボス、ゲルゲノムスパイダーだった。
その大きさは、今までのゲノムスパイダーよりもはるかに大きかった。
「ちょ、ちょっと大きすぎない?」
「んだ、リンデ。ビビってんのか?」
「別にビビってないし!」
「こんな奴、俺が一瞬で片付けてやる! 業雷槍─ライボルトランス─!」
キンデが一人で、ゲルゲノムスパイダーに走り向かった。
キンデは、空に飛び跳ね、ゲルゲノムスパイダーの脳天目がけて槍を突き刺した。が──、
「なっ!? 効かねぇ!? しかも、抜けねぇ!」
キンデの攻撃は全く効かず、それだけでなく、突き刺したキンデの槍が抜けなくなってしまった。
「キンデ、早くそこをどけ!」
「あ? ぐわっ!?」
ゲルゲノムスパイダーの長い足の一本が、キンデの腹部に当たり、キンデが吹き飛んだ。
「リンデさん、キンデの治療を。ロンデさん、私と共に行きましょう」
「はい!」
「了解!」
ガンデの指示で、リンデは傷ついたキンデの治療に、ロンデはガンデと共にゲルゲノムスパイダーに向かって行った。
☆ ♡ ☆
「なるほど……そんな事が……」
「はい……」
ユリア達は今、泉霞叡術魔術学園に戻り、担任教師であるミリアに、森で起きた不測の事態を報告していた。
報告事項は四つ。
一つ。突如森から追い出され、森が透明になったかのように見えなくなってしまった事。
二つ。グートが突然姿を消し、ヨミを襲った事。
三つ。ヨミが崖から落下した後、行方不明になってしまった事。
四つ。ヨミとアイアだけが謎の感染症にかかっってしまった事(ヴェノムカーデの毒と言う事をユリアが補足しながら伝えた)。
「しかしなぜ、グートはヨミを襲ったんだ? あいつは同じ班の仲間だろう」
「あいつは最初からヨミを狙ってたのよ。だって仲間だって言うのに、私達に突っかかってばかりで」
「それは私達もでしたが。とにかく、なんでグートがヨミ様を襲ったかは本人に聞くしかありません。それより、今はヨミ様の行方です。どうにかしてあの森を見えるようにして、中に入らなければ……」
「しかし、見えないとなると……」
四人が考え込んでいると──、
「入れない、ですな」
「こ、校長……」
教室の前扉から、泉霞の校長、グルスが入って来た。
その後ろにはゴーザの姿もある。
「話は聞かせてもらったよ。ヨミ君達がいなくなったんだってね。しかも、森が消えたとか。不思議な事もあるもんだね」
「他人事みたいに語ってますけど、今回ヨミに危害を加えたのはあなたの孫なんですよ? 責任を少しは感じたりしないんですか?」
「もちろん感じているよ。うちの馬鹿な孫が申し訳ない事をしたと。しかし、今はそんな事を言ってる場合じゃないだろう? 身内のしでかした事より、我が校の大事な生徒の身を案じなければ。ということで、これから森があった場所に捜索隊を派遣する」
「捜索隊、ですか?」
「何か不満かね? ミリア君」
「い、いえ……」
ミリアは、グルスのなんとも言えない威圧感に押し黙ってしまった。
「捜索隊の隊長はゴーザに任せる。捜索隊の人数は十人ほどと考えているが、君達の中で捜索に参加したい者はいるかな? もしいるなら、特別に同行を許可するが」
グルスが、ユリア、エルナ、アイアを見やりながら尋ねた。その答えはもちろん──、
「私、行きます」
「私もですわ」
「わ、私も!」
三人の答えは一緒だった。
「分かった。では、三人参加で手配しよう。ゴーザ」
「はい」
グルスから指示を受けたゴーザは、教室から退室し、どこかへ向かった。
「ユリア……」
「心配しないでお姉ちゃん。ヨミさんは必ず私達が見つけてみせるから。だから安心して待ってて」
心配そうな表情を覗かせるミリアに、ユリアは安心させるため、優しい言葉をかけた。
そしてこの後、ユリア達はグルスが派遣した十人の捜索隊と隊長のゴーザと共に、ヨミの捜索へと向かった。
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