未練って
「そもそもお前自身はどうなんだ?お前は生きたいのか?死にたいのか?」
単刀直入過ぎる魅也子の真っ直ぐな質問に言葉を失った。
生きたいか?死にたいか?
そんなの…決まってる。
「生きたいと言うか…そう聞かれて死にたいって言う人間なんている訳ないだろう?」
ふぅんと言うように席から立ち上がり、僕に近付いた。
「人の気持ちなんてお前に分かる訳ないだろう?当然のようにそんな風に答えるでない」
「え?」
「生きる事は地獄、ただ生きているだけで苦しみ死を選ぶ人間もたくさんいる。周りはその人間がどれだけ苦しんでいるか分からないから亡くなった人間に、『生きてればいいことあったのに』などの言葉を送る。私は本人では無いから分からないが、彼等の選んだゴールはもしかしたら彼等にとって最善だったのかもしれない」
「えっと…それは死んだ方が楽って事か?」
「いや。そうは言ってない。亡くなった後にぐだぐだ言うなら生きてる間に考えを変えさせる事ができたのかもしれない、だが、そんなイフの世界は存在しないので生きてる人間は都合のいい世界を頭で作る。死後の世界なんて誰も見た事が無いのだから今彼等がどうなっているか誰にも分からない」
確かに。SNSがいい例だ。亡くなった人間への弔いのリプなど。
それを見る限り生きている今がどんなに幸せか、死を選ぶのは間違っていると唱えてるモノばかり。
死を選んだ人間だって生前そのようなリプは何度も見ただろうし、人から散々聞かされてきた筈なのに、結局死を選らんでしまったと言う事はこの世がそれだけの世界であったと言う事だろう。
彼等の求めた『幸福』はここには無かった、ただそれだけ。
「でも、僕は…。僕は…」
誰が僕を必要としてる?
僕一人いなくなったところでこの世は全く変わらない。
将来への圧迫、何の生き甲斐も無い人生、だからと言って自ら死を選ぶほど悲観してもいない。
「この世への未練とかはどうじゃ?」
「未練?」
「好きな女に告白とか…」
「…そもそも好きな女の子がいない」
「っそうか」
今一瞬、魅也子の口角が上がった気がしたは気のせいでは無さそうだ。
だが、今はそんな事より自分の事を考え無ければ。
未練か…。
「未練と言うのがこの世界にいたいと思わせてくれる一番の思いなんじゃがな」
女子高生に付きまとっていたメガネ女子は一人になるとスマホをいじり始めていた。
ああしてるとさっきまで女子高生のお尻を嗅いでいたのが見間違えだったのかと思えてきた。
「彼女は生前一人の女の子に飼われていたんだが、散歩中信号無視してきた車に跳ねられ、そこで飼い主共々命を落としてしまって今に至ると言う訳だ」
メガネ女子は僕を見ると軽く会釈してくるとサイドに伸びた長い毛が彼女の頬にかかった。
「まぁ、あと3日のうちに命を落とさないように気をしっかり持て」
気持ちのこもっていない魅也子の声に僕は曖昧に頷くしかできなかった。