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あなたとの、再会

「ドラゴンは耳がいいからな。奴が不快に思う音で、周りへの注意力を削ぐ。奴が倒れて地に伏せてくれれば一番いいが、そこまで都合良くいかなかったら、俺が石と剣を使う」

「首を落とすのか?」

「いや、まず奴の口が開いた時を狙って、水の石を体内へ入れる。体内の機関が冷えなきゃ、炎の化身である奴は何度でも復活しちまう」

「俺はその間、お前の護衛をすればいいってわけだな。どのくらい時間が稼げるか……」


 言葉にするのは簡単だが、実際やるとなると一筋縄ではいかないだろう。眷属程度ならまだしも、龍の口からは間違いなく超高温の炎が噴き出してくる。それを撃たせないほどのダメージを、短時間で与えられるかどうか。撃たれてしまった場合、石で乗り切れるのかどうか。


 当てにならないナビに計算してもらうわけにもいかないので、愛生あいが考えていると、周囲の男たちがざわめき出した。


「声を出すな、気づかれるぞ」


 ノアが制止しようとしたその時、愛生の視界にも影が入る。その姿は、明らかに人間のように見えた。


「俺たちの他にも誰かいるのか?」

「んなわけないだろ。この前みたいな眷属だよ」


 男たちは必死に前をにらんだ。前方数十メートルほど隔てたところに、冒険者たちの群れが見える。彼らは血気盛んそうな顔をしていて、こちらとの合流を喜ぶ面子とは思えなかった。


「あいつらがいたら、罠を仕掛けに行けないじゃないか」


 そう離れていない距離での余計な手出しに、舌打ちする者もいる。


「……歩きの奴がほとんどだが、獣使いもいる」

「あれは闘将バルジに、疾風のエルンストだ。名の知れた奴が結構混じってる」

「少なくとも三十はいるぞ。数頼みでなんとかする気か?」

「無理だろ、それじゃ」


 他人の心配してる場合か、と愛生は思ったが、男たちはすっかりそちらに気をとられていた。


 しかしその熱中も不意に途切れる。不用意に飛び出した冒険者たちの前の岩が、崩れ落ちたのだ。ドラゴンが踏み壊したのだ、と愛生が気づくまでしばらくかかった。


 岩と共に降下してきたドラゴンが歩み出す。その直後、先頭の数人があっという間に炎に飲まれた。餌にすらならない。しかしそれを見ても、冒険者の数人はまだ楽観的な顔をしていた。


「あいつら、頭おかしいのか?」

「いや、前をよく見ろ」


 その言葉に従って、冒険者たちを見た愛生は驚愕した。彼らの前に氷の盾ができていたのだ。


 エルンストとかいう男が、さらにつかんでいた何かを投げた。その何かは瞬く間に氷となって、彼らの周囲にまとわりつく。


 彼と連れ立っていた冒険者たちが、喝采の声をあげた。遠目で見ていたノアたちも、一瞬驚いた顔になる。まさか、ノアですら無理だった氷の一族に接触していたというのだろうか。愛生もそれは思ってもみなかった。


「優男に見えるが、ちょっとはやるな」

「あいつがあのままやっつけてくれたら、俺たち何もせずに帰れるな……」

「ああ。石が本物だったらな」


 意味深な言葉を吐いたノアを、愛生は振り返る。


「それって、どういう意味だ?」

「……しばらく見てろ。嫌な予感が外れればいいが」


 ドラゴンの炎ではなく、その熱気がかかっただけで氷が崩れ出す。みるみる、きれいさっぱり消え去ってしまった。わずか数分のことである。衝撃的な風景に、思わず愛生は声を漏らした。


「なんだ?」

「おい、どうした!?」


 さっきまで勢いが良かったエルンストたちまで、予定が狂ったという顔をしているから、罠とかそういうことではないのだろう。初めて彼らの顔に焦りが浮かんでいた。


「お前の悪い予感ってのはこれか?」

「言いにくいが……偽物なんだよ、あれはきっと」


 ノアは歯切れが悪そうに答えた。


「しかるべきところで手に入れたとしても、よほどよく物を知ってなきゃ偽物をつかまされる。氷の魔石っていうのはそういう代物なんだ」

「なんでそんな……」

「伝説が一人歩きしてるっていうのもあるし、氷は暑い地方じゃ重宝される。だから、偽物を作っても買い手がいるのさ」


 ノアは深いため息をついた。


「あいつらも努力して探したんだろう。その甲斐あってというべきか、あれは偽物としてはよくできてるよ。だが、威力は物の数にも入らない」


 ドラゴンもそれを全て理解しているようで、圧倒的な力の差を見せつけた後は、すぐに全滅させずになぶるように少しずつ冒険者たちを殺している。


 愛生たちはその残酷さを、隠れ場所から黙って見ているしかなかった。


「諦めて帰れよ、見てられねえ……」


 仲間がつぶやく。それに同意した瞬間、愛生は驚きで目を見開く。信じられないことに──冒険者の中に知った顔を見つけた。


「……おい、マジかよ」


 彼らと一緒にドラゴンを仰いでいるのは、紛れもなくりゅうだった。よりによって、なんでこんなところに、あんな奴らと一緒に。頼まれたのか、それともそそのかされたのか? 愛生は一瞬理解が追いつかなかった。


「いや、あいつがなんの考えもなしにここまで来るわけない……」


 戻れ。話を聞かせてくれ。言葉を発しようとしたが、もう遅かった。

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