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判明した真犯人

「何が違うというのです。放置し、見捨て、幼子にまで過酷な暮らしをさせておいて、今更いい人ぶろうとするのは図々しいと──」


 意地になって怒るりゅうに、男はかっと目を開いてみせた。


「そんなはずはございません! 毎年、氷の一族のために正式な勅使が出ていたのです。しかし彼らの住み処は諸国のどこにもないのか、昔から勅使が戻らず──皆、王への恨みで殺されたのだという噂も立っているのです」


 年々、勅使に志願する者は減っている。もういいのでは、という意見は後を絶たない。それでも王は否とは言わない。


「そこに氷の一族への感謝と尊敬の念があるからでございます。我らを守って生き延びさせ、人々が暮らしを営めるようにした一族への。あなたがどう考えるかは勝手だが、それだけは間違いない!」


 龍はその言葉で、ふと我に返った。無理にでも笑みを浮かべると、少し気持ちが落ち着いてくる。


「……分かりました。私も大人げなかったですね」


 なおも身をよじろうとしている男を、龍はなだめた。この男も、嘘をついている様子はない。


「それならなぜ、外の人間など見たことはないと長は言っていたのでしょう。特に拒絶しているような様子もなかったのに」


 できるだけ、いつもの調子で思考を整理してみる。


 少しだけでも金や物資の支援があれば、いや、一族が尊敬されていると分かるだけでも、長たちはどんなに喜んだだろう。しかし、それは全く届いていなかった。


「私には……わかりません」


 勢い余って寝床に倒れこんだ男は、咳払いをした。


「勅使に出会ったことすらないなら、誰かがそれを奪って、利用していた?」

「そんな。そうだとしたら……おお、なんということ……」


 男は目を閉じ、首を横に振ってから──意識を手放した。男に上掛けをかけてやってから、龍は静かに部屋を出る。


 会話の値打ちはあった。そういうことだったのだ。事実を知って、龍の感情は揺れていた。


 一瞬思考がまとまらなくなる。しかしどう考えても、一つの結論しかなかった。求めていたものはとうにあったのに、今までいろんなことに目がくらんで見えていなかったのだ。


「ああ、嫌になってきた……」


 全てわかった。後は、割り切るしかない。最も卑劣な真犯人をどう追い詰めるか、それだけ考えるのだ。




 荷物を馬にくくり、龍は街を出た。龍の馬を守るように、ベルトランが付き従う。相変わらず龍以外眼中にないといった感じで、彼は騒がしく喋りながらも横に並んでいた。


「あれ?」


 迷うことなく進んでいた龍は林の大きな道をそれて、鋭い葉を持つ針葉樹の立ち並ぶ方へ入っていった。もちろん獣道すらないため、馬も戸惑っている。龍はそれをいなして、ゆるやかな昇りになっている土地を進んだ。


 時折窪みに足をとられそうになりながらも、龍は着実に足場を確保し進んでいった。しかし間もなく、高い岩壁に突き当たる。下からは頂上が見えないくらいだから、馬での突破は不可能だ。


 龍がそう思いながら立っていると、ベルトランが追いついてきた。


「困りますよ。急にいなくなられては」

「ごめんなさい。……何か白くて光るものが見えて。里の生き残りじゃないかと、思ったんです」


 ベルトランはそれを聞いて苦笑した。


「たまたま岩か何かが光ったんじゃないですか? 今は、軍も捜索に本腰を入れていますから、そう新たな物が見つかるとは思えません」

「……いつまでも割り切れないものですね」

「無理に忘れようとすることはないですよ。さあ、行きましょう」


 彼は自信たっぷりに、道を折れて先導していく。龍も複雑な気分になったが、それ以上のことは何も言わなかった。


 何度か道を曲がって、見通しの悪い交叉にさしかかった。一応馬が通れる道らしきものはあるのだが、茂った木で前方が遮られる上に、道に倒木がごろごと転がっている。そして地面は湿っていて、足場も悪かった。


 龍は馬を降り、木くずや草をかき分けて倒木の方へ向かった。しゃがんでその幹に手をかけ、しばらく見てから次へ向かう。


「どうしました? 昔、切り株の年輪で方角が分かるって教えてもらいましたが、倒木でもできるんですか?」


 龍と一緒に周辺を調べていたベルトランが首をかしげた。その媚びたような仕草が、龍には鼻につく。


「それとも疲れました?」

「この倒木、全て切り口が新しいですね」


 龍はベルトランに詰問調子で言う。ベルトランは言われて初めて、まじまじと断面を見た。


「誰かが私を足止めするために、わざと切り倒したように見えるんですが」

「へえ」


 ベルトランに驚いた様子はない。その顔は、今まで一緒に過ごしてきた男のものではなかった。口元が不気味につり上がり、明らかに龍を見下げた顔をしている。


「……好き放題やってくれますね」

「その言葉、そっくりあなたに返そう。余計なことばかりしてくれる。……せっかく楽に終わると思ったのに」


 ベルトランは今までの子供っぽい口調すら改めていた。


「苦労して、あなたのために集めたのだから……これはゆっくり味わって欲しい」

「ベルトラン、何を!?」


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