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食い違う証言

 男たちの声が震えている。なんだか、こうなってしまうとひどく可哀想だった。これも何かの巡り合わせ、助けてやろうかと思うのは──自分がお人好しすぎるからだけではない。


「今さらそんな愚問を。道など、一つしかないでしょう」


 りゅうはすっかりすくみあがってしまった彼らを見下ろして、ため息をつく。


「荷物を運び出して。盗んだ物は全部持ち主に返すんです。それから警察に自首してください。自首さえすれば、事情について私も口添えしますから」

「本当に!?」

「細かい品物も着服してはいけませんよ。見ていますからね」


 龍がさらっと言うと、男たちは直ちに作業を始めた。全く、大きな子供のようだ。 真面目に付き合って損した。


 しかし人が死んでいるのは事実。彼らが犯人でないとすれば、殺しの真犯人は誰なのだろう。偶然、街で強盗犯がかち合ったという可能性もゼロではないが──あまりにもそれは奇怪すぎる。


「問題は、男に襲いかかろうとした第三の人物……」


 単に血に飢えていたのか、それとも汚い仕事を受けてでも男を始末しなければならない理由があったのか。こうなってみると、男が生きていられたのは奇跡的と言うほかない。先ほど強盗犯に口添えしたのは、その功のためというのが大きかった。


 龍は人通りのない道を戻る。いっそその人物との邂逅を願っていたのだが、こういう時に限って何もなかった。


「難しいですね」


 他の人間が襲われないよう、軍と警察、自警団に情報を流さなければ。龍は街に戻ると、あちこちを歩き回った。


 次第に、明るい声をあちこちで聞くようになる。これはもしかしたら、と龍は背筋を伸ばした。


「龍さん! 聞きましたか? 強盗団が自首してきたんですよ」


 途中でベルトランの声がしたので、龍は振り返った。


「何かしてくださったんですね? やっとこれでひと安心ですよ。ありがとうございます」

「大したことはしていませんが」


 龍は自分のやったことを淡々と話し、強盗たちの事情について説明した。


「全くの無罪というわけにはいかないでしょうが、なんとか死刑だけは回避できませんか」


 ベルトランはそれに対しては、顔をしかめて口ごもった。


「裏付けがないとどうにもね……あなたを信じない、と言うつもりじゃないんですが」

「わかっています。調査を続けてください」


 最初から拒否されなかっただけでも御の字だ。まず最初の義理は果たした。次になすべきことをしなければ。


「今、あの運び込まれた男性の容態はどうですか」

「危険な状態は脱しています。話をしていかれますか?」


 彼は貴重な証人だ。質問したいこともある。龍はすぐにうなずいた。



 男性が眠っている部屋の前には、見張りが立っていた。きちんと守られている部屋に入ると、その物音で男性が飛び起きる。


「あなたでしたか」


 男性は、龍の姿を認め安堵の表情を見せた。


「ここは?」

「ロンクの街外れですよ。安心してください、賊は追い払いましたから」


 答えた龍に、男性は深いため息をもらす。


「なんとかなったと思ったのに……行きすぎてしまったのか」

「行きすぎた?」


 その意味を問うために、龍はさらに話しかけた。


「いえ、助けていただいた恩人に失礼いたしました。私、北方のロンギスから参った者なのですが……ひとつお聞きしたい。この街の近くに、氷を操る民はおりませんでしょうか」


 我に返ったのだろう、落ち着いた口調で男性は話し出した。龍は改めて居住まいを正した。


「……それらしき人たちは、確かに居ました」

「定住していたのに、ここを去ってしまったのですか?」

「殺された可能性が高いです。すでに数十人の体の一部が見つかり、里は失われました」

「氷の民が……犠牲に……」


 男は起き上がって龍を見据えた。そしてその顔色を読み取ると、失望を抑えきれない様子で低く唸る。


「どうして氷の民のことをご存じなのですか?」


 龍は興奮を抑えて聞いてみた。


「私はロンギスの王家からの勅使。彼らの功を称え、恩賞を与えるべく参ったのです。願わくば、彼らに私と一緒にロンギスへ戻って欲しかったのですが……」


 男は長く息を吐き、手で顔を覆った。


「私はなんという失態を。もう少し早く着いていれば」

「ええ、あなたも王家もほんの数日ほど遅かったですね」


 龍は揶揄するように言った。


「あなたは知らないかもしれませんが、そちらの王家は恩知らずの人でなしだと私は思っています。王家が見捨てたせいで、あの人たちがどんな暮らしをする羽目になっていたか」


 龍は思わず怒りを外に出す。本当はふざけるな、と罵声を浴びせてやりたかったが、なんとかこらえる。


「はい?」


 しかしそれを聞いた男は、不思議そうに龍を見た。言われていることがよく分からない、という表情だ。


「そもそも……おっしゃっている意味がよく分かりませんが……それは誤解ではないかと思います」


 龍は動かない体を無理に起こそうとしている男を見つめた。その被害者めいた口ぶりが、龍の神経を逆撫でする。


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