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強盗団、壊滅

「テントの中には八人いるね」

「わかった」


 そちらについては問題ないだろう。


 りゅうはまず、離れた一人を麻酔弾で倒す。水を運んでいた男が、背後を振り返って粗末なバケツを取り落とした。それを踏み越えて、龍はまだぽかんとしている男に蹴りを入れる。


「なにしやがる、てめえ!!」


 奥でスープを作っていた男が、龍に向かって熱い鍋を投げてきた。しかしちょうどその時、龍はしゃがんでいる。


 水運びの男に、スープがもろにかかった。熱い液体を浴びせられた男は、叫びながら右往左往する。投げつけた男もおろおろし、龍から目を離した。


「おい、何かあったのか?」


 男たちが反撃してこない間に、龍はいつでも使えるようにしてあった煙幕弾をテントの中に投げ込む。煙には催眠成分のオマケつきだ。


 攻撃など予想もしていなかったのだろう、テントの中はやがて静かになった。


「ひいい……」


 龍がスープのかかった男を血に倒している間に、最後の一人が逃げようとした。龍は黙ってワイヤー弾を放つ。


 ワイヤーは男の足に絡みつく。転んだ男は地面で顔面を強打し、奇妙な声をあげて気絶した。


「失礼」


 龍はそっけなく言った。


「全部片付いたようですね」


 賊は全て気絶した。不遜な態度をとっていた男たちも、こうなると形無しだ。龍は倒れている男たちをワイヤーで縛り上げ、動けなくする。


「さて、これからが本番ですね」


 龍は男たちに水をかけて起こす。それでも、男たちはしばらく状況が分かっていない様子だった。


「おい、なんで俺たち縛られてるんだよ!?」

「知らねえよ」

「横で寝てる連中はなんなんだ、こんな時に」


 要領を得ない問答を繰り返すので、龍が口を開く。


「……私はロンクから来ました。あなたたち、何か言うべきことがあるはずでは?」

「うるせえ、ブス」

「俺たちの縄張りに入ってくるな」


 ようやくしゃんとしたと思ったら、口汚い言葉と嘲り。言葉に耳を貸さないなら、動物と同じ扱いをするまでだ。


「盗人が権利ばかり主張するものではありませんよ」


 龍がそう言って一人の顎を蹴り飛ばすと、罵声は一発でなりをひそめた。誰を相手にしているか、ようやく彼らにも分かったのだろう。


「つべこべ言うなら、もっと怖いお兄さんたちが来ますよ。なんのために強盗を始めたんですか」


 龍がさらに脅すと、男たちは大人しくなった。そして、おそるおそるといった様子で答え始める。


 ベルトランが予測した通り、彼らは戦に負けた兵隊くずれだった。逃亡兵だから国には戻れず、仕方無くこちらへ流れてきた。中に何人かロンクの出身者がいて、土地勘があったのも大きかったという。


「……そこで、暇をもてあましてた幼なじみと出会ったんだ」


 その幼なじみは土産屋の次男坊。店はすでに長男のものと決まっているし、二親は金銭に厳しく、自立せず悪い友達とつるんでいる次男を疎んでいた。親からはほぼ勘当された立場の彼と、寄る辺を失った兵隊らは、すぐに親しくなった。


「金がないって言ったら、じゃあ有るところから取ろうって話になって……」


 一人ならやる度胸がなくても、仲間が複数居れば気が大きくなって勢いがつく、そして後先考えずに犯罪でもやってしまう。彼らのような小物には、ありがちな展開だ。


 次男坊は地元民だから、羽振りのいい店がどこなのかも知っていた。やってきた兵士が家族を縛り上げ、金品を奪って逃走する。それを繰り返していたという。


「根城はどこに?」


 龍は男たちの顔を見比べながら言った。


「決まってなかったよ」


 同じ場所にいればバレる。危険を避けるため、彼らはたいがいは数日でテントをたたみ、あっさり移動していたという。なかなか尻尾がつかめないはずだ。


「逃げるくらいなら、人殺しなんてしなければ良かったのに」

「あんなことしたのは、俺たちじゃねえよ!!」


 殺しのことに触れると、男たちは必死になって否定してくる。今までなかった臆病な様子に、龍は少し驚いた。


「おかしくなったのは、途中からなんだ……」


 そう言って、一人の男が唇を噛んだ。


「どういうことかは分からない。だが、確かに先にいたんだ。俺たちじゃない誰かが」


 同じようにして押し入って、その時気づいた。床はすでに血まみれで、店の人間は全員殺されていた。彼らは驚くが、警察や軍に助けを求めることはできない。


「どうせ、訴えたって俺たちがやったと思われるに決まってる」


 そんなことが数件続き、男たちは恐ろしくなった。街を歩けば誰もが敵に見え、お前がやったと後ろ指さされそうで、街からも遠ざかる。


「だから、最近の犯行があったとしても俺たちじゃない。なあ、信じてくれよ」


 龍は眉をひそめる。男たちに、嘘をついているような色がなかったからだ。それに、殺しもやる連中というより、なんだか単なる乱暴者に見える。ひょっとしたら、盗みと殺しの犯人は全く別なのか。


「縛り首になるのかなあ……」

「どうする、これから」


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