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求愛と冒険

「……信じられない」


 りゅうは小さくつぶやいた。目の前に光の渦が降ってきたと思ったら──いきなり愛生あいだけが消えてしまった。後には当惑しきった龍だけが残される。


 しばらく皆が固まっていたが、誰かが不意に沈黙を破る。


「あの方はどこへ!?」

「え、何? 何が起こったの?」

「落ち着いて探せ。そう遠くへ行く時間はないはずだ」


 どこからともなく現れた光は、現場に騒ぎをまき起こした。龍は虎子とらこに聞いてみたが、近くに反応はないという。


 警官たちの捜索は、結局虚しい努力で終わった。周辺に愛生の痕跡らしきものはなにもなく、注意を惹くようなものもなかったと報告が入る。


「結局、あの妖しい光が愛生を連れ去ってしまったということ?」

「……見たのは私だけではなさそうですね」


 ソフィアもカーターも首をひねっている。ということは、これはゲームマスターがやったこと。龍はすぐに思考を切り替える。


「申し訳ない。なんとかしてお探ししますので……」

「いえ、それには及びません。愛生なら、自分で危機を切り抜けるでしょう」


 龍にできることはないし、わざわざ探すほどでもない。単独行動くらい、予想できる範囲の危機だ。向こうは文字通りこの世界の神なのだから、むしろこれくらいで済んで幸運だろう。どうせ問うても、理由など教えてくれまい。


 ソフィアとカーターはまだ困惑している様子だったが、龍の顔を見てうなずいた。


「捜索はこれで終わりにしましょう。待ってもきっと帰ってきません。それよりも、この方をなんとかしなければ」

「女王様、私のことは哀れな下僕とお呼び下さい」


 ……ベルトランと言った暑苦しい男だけはまだいて、龍の目を見つめてくる。龍は相手に見えるよう、眉をひそめてみせた。


「一人でのんびり行きます。構わないでください」

「高嶺の花、天井の星に手を伸ばしていることは重々承知。しかし、よければ私にも機会を与えてくださいませんか? 貴方の心をのぞかせていただけませんか?」


 それでも相手は意に介さず、頬をうっすらと染めていた。そろそろ喉が辛くならないのだろうか、と龍はため息をつく。厄介なことになった。この人に構っている暇はないのに。


 龍は彼に背を向けて、勝手にすたすた歩き出した。


「……全く」


 それでもベルトランはついてくる。悠長というのか暇というのか、ほとほと龍は呆れた。


「運命に従い、私の国までおいでいただけませんでしょうか? 是非、一緒に取り組みたい事件があるんです」


 龍は足を止めた。怒鳴ってやろうかと思ったが、ふとあることを思いついた。これは、愛生なしでゲームをクリアしてみろという、マスターからの挑戦ではないだろうか。揺さぶりをかけられて、それで逃げてしまうようなことをしたら、愛生がどうなるかわからない。


「ついていきます。でも、それ以上のことはなしで」


 さっきまで哀願していたベルトランは、有頂天になって本当に飛び上がった。その結果転んでもひたすら笑っているので、かえって気味が悪い。結果として彼の思い通りになったのだから、当然だが。


「列車や船の旅はお嫌いですか?」

「別に構いません」


 龍は首を縦に振る。普段の移動はほとんど飛行機か車だが、この時代にそんなものはないだろう。かなり辺境への旅になるというので、大人しくベルトランに従うことにした。



 ベルトランの言う街は、ロンクといった。四方を森に囲まれ、その森を電車で抜けると、さらにその先に土地がある。土地はまるでクッキーの型で抜いたように丸くえぐれて崖をつくった。このクッキー生地の中心にできている街が、ロンクであった。


 天然の要害ではあるが、街へ向かう橋が全て落とされれば、陸路での行き来ができない。歩兵の力をそぐことはできるが、兵糧攻めには弱い土地であった。


「だから、自分たちの食料はなんとしてでも確保するという気概が強いんです。橋さえ落として自活をしていれば、内側は鉄壁の守りですから」

「へえ……」

「ま、今は危険はありません。中に入ってからの方が、気をつけなくてはならないんです」

「……そう……」

「一緒に、電車で山の中を通ってきた仲じゃないですか」


 ちょんちょんと周囲を飛び回り、次々と歴史を語るベルトランに向かって、龍は続きを乞うた。だがそれをほとんど聞かず、考えを巡らせる。結局これが一番静かに暮らす方法だと知ったからだ。


 敵意がないのは確かだろう。そういうのは、経験上どうしてもわかってしまう。しかし、彼がいつまでも事件の話をしないのには焦れてきた。


「そういうことです。分かりにくいところはなかったですか?」

「……いえ、大丈夫です。ありがとう」


 どう話を切り出そうか迷っていると、ベルトランは満足した様子で歩き出してしまった。


「ほら、こっちですよ。駅のすぐ下に、街があるんです」


 断るわけにもいかず、龍は従う。電車を降りてしばらく歩くと、街に入った。

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