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最後の平穏

 帚木ははきぎの懸念は正しい。おそらく襲撃は数日もたたずに起こるだろう。そろそろ西からの船が着く頃だ。人の出入りも多くなるし、愛生あいが逃げる可能性も高くなる。それまで待ってくれるとは思えない。


「過去に、恩赦を餌にして囚人を使ったという話も聞いています。最悪、千を超える兵がいるとみておいた方がいいでしょう」

「それを早く言ってくれよ……こっちが動かせる兵は?」


 愛生は帚木に尋ねた。


「城に知り合いはおりますが……もうすでに護衛隊が村に入っている。早馬を動かせば気取られてしまいます。それを承知で救援を求めても、着くまで数日はかかります」


 愛生がフェムトで自動車やらなんやら作ったところで同じ事だろう。伏兵を一気に動かされたら間に合わない。


 それならいっそ住民全員が入れるシェルターを作って、無関係な者を助けてやろうとしたが、フェムトが途中からばらばら崩れてしまった。ゲームの前提すら崩れる大きな改変は、マスターが阻止してくるようだ。最初に言っておけ。


「川が使えないのが痛すぎるな」


 水路が使えれば、比較的目につきにくく、人も物も迅速に運べるのだが、城は東。川は西から東への一方通行で、輸送手段としてはまるでアテにならない。


「……村の若い衆をこっそり仲間に引き入れたところで、戦が本業の武士に勝てるようにはとてもならないでしょう。つまり……」


 愛生はそれ以上聞かなかった。


「俺たちと人形だけでやらなきゃならないってことだな」


 ややあって、帚木がうなずいた。


「人形は何体いる?」

「……予備もあわせれば、純粋な戦闘用は三百体。一般用を合わせると四百近くになります」

「あの家に、そんなにいたのか」

「余所に人形用の小屋があるんですよ。ぎっしり詰まってますが、重要な部品を抜いておけば、人形は文句を言いませんからね」


 愛生は腕組みをした。味方の数を聞いて、少し安堵の思いが湧く。戦力差としては、思ったより悪くない。後は、できるだけ村人への危険を減らすことを考えよう。


「ことが起きたら別々に行動しよう。是非、やってもらいたい計画がある。工学的に使える手段なら、だがな」


 愛生は建築関係についても学んできたが、本職の意見も聞きたかった。できるだけ詳しく、自分の頭に唯一浮かんだ案を説明する。


 帚木は長いこと黙って頭の中でなにやら計算している様子だったが、やがて膝をうった。


「素晴らしい。大挙して襲ってくる軍も、これなら対応できるでしょう。ただ、最初の仕掛けなど、細かい場所は訂正させていただきたい」

「そっちの方が詳しいんだ、少しでも早く確実に出来るならどんどん変更してくれ。詳細は任せる」


 愛生はそこまで話して、腕を組んだ。


「あと、何か連絡手段があると助かるんだが」


 ナビ同士で連携できる龍と違って、ここでは迅速に連絡を取り合うのは無理だ。携帯電話のようなものを作ってもいいが、村人に不審がられるのはできるだけ避けたい。


「こちらも連絡係として、人形を使いましょう。この子が一番適任です」


 帚木の頭上を、何かが動くのが見えた。それは、小さな青い鳥形の人形だった。体にもちゃんと羽毛が貼り付けてあり、生きている鳥にしか見えない。大きさは愛生の掌にすっぽりおさまるほどだ。


「人の簡単な言葉は理解します。あまり難しい言い回しは避けてください」

「わかった。これからよろしくな」


 鳥は愛生の手に止まり、目をぱちぱちとしばたいてから、小さく鳴いた。その姿を見て、愛生の中にある思いがこみあげる。


「鳥形をお見せするのは初めてでしたね。驚かれました?」

「……いや、ちょっと連れの顔を思い出していただけだ」


 突然消えてしまった彼女がいたら喜んだろうに、意外とかわいいもの好きだから、とふっと思ってしまったのが情けない。


「兄ちゃん、しっかりしろよ」


 ふさいでいる様子を見て、けいにまで心配されてしまった。こんなことではいけない。愛生は意図的に声を鋭くする。


「俺は引き続き村を見回る。隅から隅までな。あんたはここで、人形をいつでも動かせるようにしておいてくれ。何かあればこの鳥で知らせる」

「分かりました。整備を急ぎます。まずはバネが悪くなっていないか確認しないと……」


 帚木は別れの言葉もそこそこに、家の奥へ駆けていった。愛生にも、その不作法を気にしている余裕はない。


「奴らが隠れられそうな場所の目星をつけて……不自然でない程度に罠を仕掛ける……最悪、驚かせて警戒さえさせられたら」


 愛生はひとりぶつぶつつぶやく。ナビに頼れないのは重々わかっているのだ。……聞けるとしたら、一つくらいか。


「ちなみに、俺の運命の人の居場所は分かったか?」

「全然」


 愛生はきつく唇を噛みしめ、呪いの言葉を吐くのを我慢した。



 その夜、愛生は侵入に全く気づいていない様子で、淡々とエイドステーションで暮らした。周囲に注意を払っていたが、あの後侵入された様子はない。


 翌日も日中は何事もなく過ぎた。


 愛生は首をかしげた。何か、聞き慣れない音がする。矢が放たれる音だ、と不意に気づいた。

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