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合わない墓の数

 犯人候補としては、その前領主。またはその手先、ということになるのだろう。聞く限り相当気性が荒いようだから、大量殺人になるかもしれない。愛生あいたちにつきつけられるのは、こんな事件ばかりだった。


 今の領主がしっかりしているなら会って助力を求めたいが、親父に好き勝手されているような体たらく──ほとんど傀儡のような状態──ではそれは望めない。


「となると、全面戦争になった時にどうするか、決めておかないとな……」


 まずは地形と、建造物の位置の把握だ。どこにでもある田んぼと山、そして川。これが戦をする上では、重要な地形となる。


「……といっても、防御に使えるものがなーんにもないな」


 愛生はわずかに眉をひそめ、唸った。この地区は田んぼが多く、隠れられる場所がほとんどない。家も木と藁の作りだから、火矢でも放たれたらつるっと丸裸にされてしまうだろう。


「俺がここで戦をするとしたら……」


 まずは主要な道に兵を置いて逃げ場をなくす。それから家を全て焼いて住民をあぶり出し、脚の遅いものから殺していく。


 長期戦なら田畑を焼いて食料を押収し、飢えさせるという手もあるが……それは領主の性格に合わないだろう。


「いずれにせよ、住民側に勝ち目はないな」

「……兄貴って、ホントに性格悪いのな」


 呆れた様子のけいの声が、頭上から降ってくる。


「もしもの話だよ。最悪の事態を想像しとけば、いざっていう時に迷わなくて済むだろ。お前も村の全体図くらい、頭に入れておけ」

「そんな難しいこと言われても困る!!」

「お前、普段どうやって東京で生活してるんだ?」


 愛生は思わず仏頂面になった。


「分からなくなったら人に聞けばいいし。最悪、家から車が迎えに来てくれるからさ」

「ああ、そうかい」


 愛生は生返事をしながら村の端まで来て、踵を返した。


「しっかりした砦を、今から築くのは無理か……」


 まともな平地はどこからも丸見え。河原の方は帚木ははきぎが使っているし、使えそうなのは、少し高くなっている小丘くらい。大規模な開発をしようものなら、まず真っ先に領主にバレる。


「武器をとって兵を排除できる奴は絶対必要で、あとはこっちにも何か秘密兵器が欲しいな……」


 せめて、村人の味方になってくれる勇敢な武士がいればいいのだが。帚木の知り合いは、まだ健在だろうか。他に牽制になるような勢力、統治者はないだろうか。できることなら領主が村に夢中になっている間に、突然背後から襲いかかれればベストなのだが。


「エイドステーションで、周辺国の地図でも探すか」


 愛生は調査に見切りをつけ、戦術を練るためにねぐらに帰ろうとした。そろそろ時刻も夕方になり、空に橙色が混じってきた。徐々に、足元を見るのに提灯が欲しい薄暗さになってきている。


 その時、愛生は視界の端で何かが動いたのに気づく。


 影だ。人の形をしたそれから長いものが伸びていて、何か武器を帯びていることを愛生に教えてくれる。愛生はそちらから見えない位置に移動した。


「夕方は逢魔、とは言うが……あれは人間だな」


 足軽、とでもいうのだろうか。胴体に鎧はつけているものの、腕や足に装備が全くない。彼はしばらく周囲を見渡していたが、愛生には気づかなかったらしく、来た道を引き返した。


 追っていくと、数人の似た格好をした足軽がたむろしていた。その中心に、異質な武者がいる。


 虚ろな印象を与える男だった。真っ黒な鎧兜を身にまとっている。兜の隙間から、神経質そうな顔がのぞいていた。


 男は苛立たしげに周囲を見渡し、何やらしきりに帳面に書き付けている。何やら足軽たちに罵声を浴びせた後、追加で命令をしていた。部下をあずかっているとしたら、それなりの身分か。


 愛生は直感的に物陰に身を隠す。その直後に、男の顔がこちらを向いた。見つかったか、と思ったが、彼はゆっくりと顔を元に戻した。


 彼らは程なくして立ち去ったが、そのなんの感情も浮かんでいなさそうな目は、愛生に強い印象を残した。人形よりも人形めいた顔に対抗しようと、愛生は拳を握っていたことに気づく。


「あの不気味な男、誰かを探しているようだったが……」


 なんとなくそれは、自分な気がした。ここに来てから、特に人目を避けてはいない。噂にのぼることもあっただろう。


 異分子である愛生を追い払いたいだけならいいが、この村に住んでいる人に迷惑がかかるようなことをしようと企んではいないだろうか。


「なあ、兄ちゃん」


 愛生が唇をかんだその時、不意に声がかかる。


「なんだよ、京。ナビならいらないぞ」

「手がかり探してるんだろ? なんであの墓に行かないの?」


 京の妙な一言に、愛生はなんとも言えない感情を抱いた。前から不思議ちゃんで馬鹿ではあったが、今度は一体なんだ。


「調べたよ。墓は七つとも」

「八つだって言ったじゃん」

「どう見ても墓石は七つしかなかったぞ!!」

「奥にもう一つ隠してあるじゃん。草の向こう」

「……お前、そのことを俺には一回も言ってないよな?」


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