死して始
ここはあの世とこの世の境の場所
”常世町”
ここにはあの世にもこの世にも行けなかった者たちが住んでいる。いわば、閻魔様の裁判により天国に行くほどの善人でもなく、地獄に行くほどの悪人でもないとされた者たちが住むところである。
これはそんな常世町に住む者たちのお話。
まずは、常世町について説明する。前述した通り、ここはあの世とこの世の境にあり、あの世にもこの世にも行けなかった善人でも悪人でもない物たちの町である。ここの町に来るものはそう多くない。なぜなら、閻魔様の裁判はとても厳しいからだ。閻魔様は、死者が生涯に行った善行、悪行のすべてを計算し、少しでも善行が多ければ天国行きに、逆は地獄行きに振り分ける。だとしたら、善も悪も兼ね備えた普通の人であれば、みんな常世町に行くのではないかと思うだろう。しかし、そう簡単なものではない。例えば、歩いているときに知らぬ間に蟻を踏みつぶしてるかもしれない、ただ生きているだけで誰かを傷つけたり、救っているかもしれないそんな自分の意図と無関係のところで起きた善行、悪行も計算に入れられるのだ。地獄の閻魔様に知らぬ存ぜぬは通用しないのだ。そんな厳しい裁判の中、ごく稀に起こるのが善行数、悪行数の完全一致。このごく稀な完全一致を起こした者だけが常世町に住むことが許されるのである。
そんな常世町に二人の少年がいた。朱と菫という少年だ。二人は16歳の若さにして、常世町に来た。
「菫~ ちょっと外出てきて~」
ベランダにいた菫に、朱が呼びかけた。
「おーう 今行く~」
そして、菫が階段を下り、家の玄関を開け、一歩踏み出すとボチャンと音がした。下を見ると、水の張られたバケツに自分の足が入っていた。前を見ると、ニタニタと笑いながらこちらを見る朱がいた。菫は頭に血が上り、朱に向かって走りだした。そして、二歩目を踏み出すとまたボチャンと音がした。菫は、二歩目もバケツに足を入れてしまった。しかし、頭に血が上っている菫は両足がバケツに入っていることに気付かず、そのまま走り出してしまった。すると、思うように前に進めなかった菫はそのまま前に転んでしまった。転んだ拍子に足を突っ込んでいたバケツが宙を舞い、バケツの水が転んだ菫に降りかかった。それを見た朱は、こらえきれず腹を抱えて笑っていた。
「この野郎ーー!!!」
転んでいた菫が立ち上がりながら、言った。
「うお やっべぇ」
笑っていた朱は、菫の声により菫が立ち上がろうとしていることに気付いた。
「にっげろ~~!」
「待てーーー!!!!!」
朱が菫に追われてる光景を見ながら
「あの二人またやっているみたいねぇ」
「いつも二人で遊んどるなぁ」
「ここはほとんどが年寄りだからねぇ」
と住人たちが微笑ましく眺めていた。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・今日で86勝目・・」
と朱は息を切らしながら呟いた。
「ハァ・・・ハァ・・・うるせぇ・・・85敗だから1勝しか変わらねぇだろ・・」
菫も息を切らしながら朱に返した。
「明日はお前だからな 菫」
「ふっ お返ししてやるよ」
そういうと、二人は地面に寝ころんだ。
「そういや 中村のばあちゃんから肉じゃがもらったけど食いに来るか?」
と菫が空を見ながら言った。
「おーういいねぇ 中村のばあちゃんのめしは美味いからなぁ」
「じゃあ、おれんちもどるか」
二人は、菫の家に戻ることにした。
二人が、歩いていると
「あら 朱と菫じゃないか ちゃんとご飯食べてるかい?」
「大丈夫だよ ありがとな 武田のばあちゃん」
と朱が言った。
すると、また別の住人に話しかけられた。
「今日もお前らは元気だのぉ」
「林のじいちゃんも元気じゃねぇか」
菫が答えた。
二人は、この町の住人のみんなから可愛がられていた。
そして、二人はすれ違う住人たちと話しながら、菫の家に戻ってきた。
「はぁ~ ほんとにこの町のみんな優しくていい人ばっかだなぁ」
椅子に腰かけながら、朱は菫に言った。
「そうだなぁ ここのじいちゃんばあちゃんは優しいなぁ だって毎日誰かしら飯もってきてくれるしなぁ」
肉じゃがを温めながら、菫は言った。
その後、二人で肉じゃがを食べ、いつものようにくだらない遊びをして、なにげない日が終わった。
そんな日々を過ごしていたある日、朱が公園のそばを通りかかると、自分と同い年くらいの少年がベンチに座っているのを見かけた。朱は、自分と同じ年頃の人がいることに驚き、座っている少年に駆け寄った。