第九話 「ステータス」
「ステータス、メニュー……?」
聞き覚えのない単語に、思わず首を傾げてしまう。
ステータスメニュー。ヘルプメニューに続いて、またしても謎の機能が覚醒した。
聞いてもまるでピンと来なかったが、とりあえず最初の画面に戻ってみる。
◇メニュー◇
【アイテム】
【ステータス】
【ヘルプ】
【セーブ】
【ロード】
するとヘルプさんの時と同様、新しい文字列がメニュー画面に表示されていた。
「【ステータス】……? どういう意味なんだろうこれ?」
ヘルプさんに聞いてもいいけど、まあとにかく押してみることにしよう。
タンッと【ステータス】の文字に触れると、即座に画面が切り替わって、驚くべきものが目の前に表示された。
◇ステータス◇
筋力:C350
頑強:D290
敏捷:C320
魔力:D250
体力:C350
精神力:D270
幸運:C330
「こ、これって……」
見間違うはずもない。これは僕の“恩恵の数値”だ。
まさかめちゃくちゃ見覚えのある画面が表示されるとは思わなかった。
どうしてステータスメニューに恩恵の数値が表示されているのだろう?
それに恩恵は通常、“鏡”を用いなければ確認することができない。
神様と親和性のある鏡、もしくは綺麗な水面に触れながら式句を唱えることで確かめることができるはずだが……
「も、もしかして……」
嫌な予感が僕の脳裏をよぎる。
もしかして【ステータス】って、ただ“恩恵を確認するだけの機能”だったりする?
鏡や水面を利用せずとも、メニュー画面を操作するだけで恩恵を確かめられる機能、とか?
まったくの無意味、と言うほどの機能ではないけれど……
30000ノイズも払ってこれだけしかできないというのは、いくらなんでもしょぼすぎじゃないかな。
いや、待て待て。ヘルプさんよりも高い金額を払って覚醒させた力なんだ。きっと他にも何か隠された機能があるはず。
「ヘルプさん、これの解析ってできたりする?」
『新機能“ステータスメニュー”を解析…………解析完了』
「はやっ!」
望みを託すようにヘルプさんに問いかけると、僅か二秒ほどで解析が完了した。
僕は内心で『お願いします』と念じながらヘルプさんの声に耳を傾ける。
『ステータスメニューでは恩恵の数値を自由に割り振ることが可能です』
「えっ、自由に……?」
恩恵の数値を、割り振れる……?
って、つまりどういうこと?
ヘルプさんの説明だけではいまいちピンと来ない。
だから試しに筋力値の数字に触れてみると……
筋力:C350【↑】【↓】
何やら上下を向いた矢印のようなものが出てきた。
それを押してみると、下方向の矢印だけ反応して筋力値を好きに下げることができる。
とりあえず“1”だけ下げて、次に頑強の恩恵値をいじってみると、筋力で下げた分の“1”だけ上昇させることができた。
◇ステータス◇
筋力:C349(−1)
頑強:D291(+1)
敏捷:C320
魔力:D250
体力:C350
精神力:D270
幸運:C330
どこかの数値を“1”減らしたら、その分の数値を他の恩恵に移動させることができる。
恩恵の数値を“自由に割り振れる”っていうのはそういう意味だったのか。
「こ、この機能って……」
僕はステータスメニューの画面を見つめながら、武者震いをするようにゾクッと体を震わせた。
自由に恩恵の数値を操作できる?
通常は無作為に分散してしまう恩恵の数値を、これからは自由に操作することができるってこと?
ステータスメニュー、やばすぎる。
ヘルプさんが覚醒した当初は、強さや便利さがいまいち理解できなかったけれど、これは明らかに“とんでもない機能”だと直感でわかった。
だからこそ思わず体が震えてしまい、同時に変な不安が込み上げてくる。
「お、恩恵の数値って、自由にいじっちゃっても大丈夫なものなの……? 恩恵って、神様が与えてくれてるものだよね? 何かバチが当たったりとか……」
『特にそのような危険は検知できません。ステータスメニューの安全性を保証いたします』
「……」
まあ、ヘルプさんがそう言うのだから危険性はないのだろう。
あまりにもとんでもない機能だから、何かしらの欠点や危険があるものだと疑ってしまった。
でもそういうのがないって言うのなら……
「……じゃ、じゃあ、こういうのもありってことかな?」
◇ステータス◇
筋力:SS+1220(+870)
頑強:D290
敏捷:C320
魔力:F0(−250)
体力:F0(−350)
精神力:F0(−270)
幸運:C330
筋力一点集中の割り振り。
魔法スキルの威力に関係する“魔力”は僕には不要なのでゼロにしても構わない。
同じく武術スキルの発動に必要な“体力”と、魔法スキルの発動に必要な“精神力”も僕にはいらない。
その三つの恩恵の数値をゼロにして、その分をすべて筋力に注ぎ込んでみた。
見ると、ステータスメニューの下の方にもう一つの文字列を見つける。
【ステータスの変更を反映しますか?】
【Yes】【No】
これで【Yes】を押したら、恩恵値の変更が確定されるのだろう。
ものは試しということで【Yes】の文字を押して、僕は恩恵値を変更してみた。
その後、ステータスメニューを閉じて、次いでアイテムメニューを開く。
そこから“手鏡”を取り出してメニュー画面を閉じると、本当に恩恵の数値が変更されているのか確かめることにした。
「【恩恵を開示せよ】」
じわっと手鏡に恩恵とスキルが表示されていく。
◇アルモニカ・アニマート
筋力:SS+1220
頑強:D290
敏捷:C320
魔力:F0
体力:F0
精神力:F0
幸運:C330
◇スキル
【メニュー】・メニュー画面を開いて操作が可能
「……」
本当に変わっている。
ステータスメニューでいじった通りの恩恵になっている。
筋力の恩恵値、驚異の“1220”。
恩恵値評価も最高位と言われている“S”を超えて、“SS+”という聞いたこともない評価になっている。
確か歴代でも最高の恩恵値って、“980”とかそこら辺のはずなのに。
これがステータスメニューの機能。
あの貧弱だった僕の恩恵値が、ステータスメニューのおかげで見違えるような変貌を遂げてしまった。
もしこれで魔物と戦ったら、いったいどれだけの力を出せるのだろう……?
「……試したい」
手に入れたこの力を。
僕は衝動に駆られるように宿屋を飛び出して、すっかり暗くなった町の通りを走り抜けて行った。