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第八十四話 「魔法の鉤縄」

 ダフが地面を蹴ったのと同時に、ヘルプさんの口早になった声が脳内に響く。


『ダフが神から授かったスキルは“光剣(こうけん)術”。手にした剣の刀身から光を照射し目くらましを行います』


「……了解」


 その解説の通り、ダフは接近してきながら銀の刀身をこれ見よがしにかざしてきた。

 瞬間、僕は目を閉じる。


「きゃっ!」


 どうやら刀身から凄まじい閃光が迸ったようで、僅かに離れたところに立っていたヴィオラがささやかな悲鳴を上げた。

 対して僕は事前に彼の能力を知っていたので、目を閉じることで刀身から放たれた凄まじい閃光を無事にやり過ごす。

 僅かに目を開け、光が収まったのを確認した後、青年が振ってきた直剣を的確に短剣で受け止めた。


「な、なんで見えてんだお前!?」


「物知り博士のおかげ……かな!」


 鍔迫り合いの中、僕は右足を振りかぶってぐっと甲に力を込める。

 そのままボールを蹴る要領で振り抜くと、青年は後ろに飛び退き、皮の鎧からはみ出たチュニックの裾を僅かに掠めただけになった。

 やはりいい反応をする。身のこなしも軽やかで決定打を浴びせるのはかなり難しそうだ。

 けど……


「――あれ試すか」


 蹴りを避けられたと思った瞬間に、僕は右手を閃かせて二本の指を下から上に弾く。

 すると【クイックスロット】の画面が表示され、即座に“結ばれた縄”のようなアイコンを押した。

 右手に青白い光が灯る。

 すかさず僕は、飛び退った青年の方にその右手を向けた。


「なにっ!?」


 青白い光の縄が右手から高速で伸び、蛇のように青年の体に巻きつく。

 伸縮自在の吸着する魔法の鉤縄【グラップリングフック】。

 魔物相手には何度か使ってみたが、人間同士の戦いで用いるのはこれが初めてだ。

 同格の冒険者でも、この射出速度の鉤縄を避けるのは難しいみたいだな。

 光の縄で捕縛された青年は、なんとか右腕だけは抜いて銀の剣で切断を試みる。


「ぐっ、切れねえ……!」


 あの銀の剣はかなりの業物に見えるが、まともに立ち構えられない状態で【グラップリングフック】を断ち切るのは至難の業のようだ。

 やっぱりこの魔法の鉤縄は戦闘においてかなり重宝する。

 回避困難な射出速度。鋼を上回るほどの強度。大抵の相手ならこれひとつで確実に無力化することができる。

 確信を得た僕は、密かに笑みを浮かべながら【グラップリングフック】を伸ばす右手を思い切り後ろへ引く。

 するとフックの先で拘束されている青年は体が引き寄せられて、瞬く間に険しい表情が近づいてきた。

 ――今度は逃がさない!

 その勢いのまま、青年の腹部に左手の一撃を叩き込んだ。


「はあっ!」


 ドゴッ!

 左の拳が突き刺さり、眼前で青年の呻き声が漏れ出る。

 しかしそれで意識を失うことはなく、彼は歯を食いしばりながら銀の直剣を振りかぶった。

 苦し紛れの一撃に見えたが、僕は安全を期して【グラップリングフック】を解除し、即座にその場から飛び退る。


 追撃してもよかったけれど、青年はゴホゴホと咳を漏らして相当なダメージを負った様子を見せている。

 だからこれ以上は不要だと判断した。

 修復不可能の怪我を負わせたら即失格という規則もあるし、やり過ぎにならないよう加減を心得ていないと。

 すると彼はその場で力なく片膝をついた。


「な、なんつー……重い拳だ……! もはや、魔人じゃねえか……!」


 あまり褒められている気はしなかった。

 あんな連中と一緒にしないでもらいたい。

 そういえばヴィオラは閃光の影響を受けていたけど大丈夫だろうか。

 そこまで心配せずに横を見ると、予想通りヴィオラは防護魔法を張っていて、リンという少女の魔法を目を擦りながら棒立ちで防いでいた。


「うぅーん、目がチカチカしますぅ……」


「この子の防護魔法、固い……! 私じゃ崩せない……」


 極限まで魔力値を高めた防護魔法【パーソナルスペース】にいたく苦戦している様子だ。

 目がくらんでいるうちにヴィオラを倒そうと思ったみたいだが、狙うなら僕の方だったな。

 これならふたりを無力化するのも難しくはない。

 手早くこの場を収めて、バッジを持っているリーダーを探しに行くとしよう。

 そう思って青年が苦しんでいる間に、もう片方の魔法使いの少女を倒しに行こうとすると……


『右手より六つの生体反応が急接近』


「えっ?」


 刹那、右側の木と茂みが吹き飛び、多数の人影が飛び出してきた。

 人影の数は六つ。

 ドレスと鎧を合わせたような装備を着た、お嬢様風の三人組チーム。

 獣の毛皮で作った鎧とフードを着用した、野性味溢れる蛮族風の三人組チーム。

 おそらく別の参加者たち。交戦している最中にこちらに流れてきたようだ。


「あらあら、こんなところにも他のチームがおりますわ!」


「チッ! 乱戦じゃ乱戦じゃー!」


 今やっとひとつのチームを無力化できそうだったのに、続け様に他のチームが現れるなんて。

 息つく間もない戦いの連続。

 これが闘技祭。

 この戦いに生き残って、絶対にコルネットのための賞金を手に入れてみせる。


「ヘルプさん、六人の分析頼んだ」


『承知しました』


 僕は右手の短剣を握りなおし、好戦的な様子を見せる六人を見て改めて身構えたのだった。


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