第八話 「大収穫」
金兎の討伐を終えた後。
無事に金角を回収した僕は、それから角兎の討伐依頼を続行した。
そして指定数を討伐し終えた後、寄り道はせずに早々に洞窟から出る。
金兎との戦いで精神的に疲弊してしまった僕は、すぐに町に帰って休息をとりたかったのだ。
それにこれで30000ノイズに届くので、早く町に戻って換金をしたい。
帰路を歩く道すがら、僕はもしやと思ってヘルプさんに尋ねる。
「ヘルプさん、次に金兎が出没する場所ってどこかわかったりしない?」
『申し訳ございませんが、そちらは回答いたしかねます。魔物の出没地点に規則性はなく、加えて金兎は出没確率が極めて低い魔物ですので、出没予測は不可能となっております』
「だよねぇ……」
まあ、なんかそんな気はした。
それがわかるんだったら、最初からそのことを僕に教えてくれているはずだもんね。
金策に一番いいのは金兎の金角の乱獲だって。
まあ、一本手に入っただけでもよかったとしよう。
「町に戻ったらさっそく換金して、メニュー画面のシステムレベルを上げようか。少しでも高く買い取ってくれそうなお店、調べておいてもらえるかな?」
『西の工業通りにある“カズー”という主人がやっている工房でしたら、35000ノイズでの買い取り実績がございます。そちらが現時点での最高取り引き額となっております』
さすがヘルプさん、仕事が早い。
カントリーの町に戻って来ると、僕はヘルプさんに教えてもらった工房に向かった。
そこで金兎から採取できた金角を買い取ってもらう。
情報通り35000ノイズで換金することができて、加えてギルドで討伐報告を終えた結果……
現在の僕の手持ちは41500ノイズとなった。
帰って来た宿部屋で一人、僕は人知れずわなわなと体を震わせる。
「41500ノイズ……! 今までこんな大金、持ったことないよ……!」
Sランクパーティー『勝利の旋律』にいた時も、依頼の報酬金はちゃんと分けてもらえていた。
ただ、分け前がたったの“0.5割”で、皆がやたら高い食堂や宿を利用するので、まともに貯金することができなかったのだ。
コルネットの解呪費用の5000万ノイズまでは果てしなく遠いけれど、ヘルプメニューが目覚めてくれたおかげで一気に前進することができた。
僕のメニュー画面にはまだまだ可能性が宿されている。
「よし、それじゃあシステムレベルを上げてみよっか。ヘルプさんと同じくらい優秀な機能が覚醒するかもしれないからね」
そう言って僕は、指を立てて下から上に弾くようになでる。
すると鈴のような音色と共に、青いガラス板のようなものがどこからともなく現れた。
◇メニュー◇
【アイテム】
【ヘルプ】
【セーブ】
【ロード】
そこに記載された『◇メニュー◇』の文字に指を伸ばす。
触れた瞬間、水面に水滴を垂らすような音が響いて、ガラス板に表示された画面が切り替わった。
◇メニュー詳細◇
システムレベル:2
フォント:タイプ1
ウィンドウカラー:タイプ1
サウンドエフェクト:50
ここでシステムレベルを変えることができる。
と、メニュー詳細の画面を改めて見た僕は、ふと疑問に思っていたことをヘルプさんに尋ねた。
「そういえばヘルプさん、この『フォント』とか『ウィンドウカラー』っていうのはどういう機能なの? なんか怖くて触れなくて……」
『すでに解析済みです。フォントはメニュー画面に記載されている文字の書体を変えることができる機能となっております。タイプ1からタイプ20の二十種の書体変更が可能です』
書体?
危なそうな機能ではないとわかって、とりあえず触ってみることにする。
するとヘルプさんの言う通り、タイプ1からタイプ20まで変更が可能で、変える度にメニュー画面の文字に変化が起きた。
文字の大きさや形が自由自在に変えられる。こんな機能があったなんて今まで知らなかった。
『ウィンドウカラーについては、メニュー画面の背景の色を変えることができる機能となっております。こちらもタイプ1からタイプ20の二十種から選択が可能です』
文字に続いて背景の色まで変えられるとは、使う側への配慮と遊び心が感じられる。
フォントとウィンドウカラーを変えるだけで、今まで使っていたメニュー画面とはまるで別物のように見えてきた。
ただ、十二歳で【メニュー】のスキルを授かってから六年、ずっと同じ設定でメニュー画面を使い続けてきたので、今さら書体や背景を変えるのは違和感がすごい。
というわけで、結局今まで通りの設定に戻して落ち着くことにした。
「ちなみに『サウンドエフェクト』っていうのはどういう機能なの?」
『サウンドエフェクトはメニュー画面の開放時、選択時に鳴る音の大きさを調整することが可能です。加えてヘルプ機能の音量調整も同時に可能となっております』
いつも頭の中に響いているあの音か。
まあ、これも別に不便はしていなかったので、特にいじることはしなかった。
ともあれ気になっていた疑問についてはこれで解消ができた。
というわけでいよいよシステムレベルの上昇に取りかかる。
まずはちゃんと【アイテム】の中にお金が仕舞えているかどうかを確認する。
【所持金:41500ノイズ】
どうやらメニュー画面の中にお金が入っていないと、システムレベルを上げる際に『所持金不足』と表示されてしまうらしい。
最初はそんなことも知らずにたまたま財布を【アイテム】の中に入れていたから、システムレベルを上げられたみたいだけど。
そんな確認も終えて、僕は再び【メニュー詳細】の画面に戻った。
そして改めて【システムレベル】の文字を押す。
【システムレベルを上げますか? 必要金額:30000ノイズ】
【Yes】【No】
大丈夫、何も怖がることはない。
むしろどんな新機能が目覚めるかわくわくしながら、僕は【Yes】の文字に指を伸ばした。
瞬間、水面が揺れるような音と共に画面が切り替わる。
その直後、無事にシステムレベルが上がったという文面が、目の前に表示された。
【システムレベル上昇 ステータスメニューが解放されました】
【自動セーブにより現在の進行状況が記憶されました】