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第七十九話 「参加登録」

 Sランクの冒険者パーティーか……。

 僕たちよりもランクが高い冒険者。

 しかもそれが二組となると険しい戦いが予想される。

 ただSランクの冒険者の戦いをじかに見た経験は少ないので、その人たちの熟練の戦いぶりや連携などを見られる貴重な機会でもあるな。


『それと軍事的に強い力を持つブルース王国の、中でも武闘派と言われている“貴族家”から参加登録をしている人物も複数人います』


(貴族の人か……)


 まあ、腕に覚えのある貴族だったら、闘技祭に参加する人だって中にはいるよな。

 聞くところによるとSランクの冒険者よりも実力的に上の貴族はそれなりにいるみたいだし。

 事前に聞いていた通り、役職に関係なく色んな場所から実力自慢の猛者が集まっているようだ。

 ただ、お金を持っているはずの貴族様たちが、わざわざ闘技祭に出場する理由はなんなんだろう?


『貴族家からの参加者が多いのは、闘技祭で名を残せば名家の生まれとしても箔が付き、領民たちへ改めて力を示すことができるためです』


 なるほど。

 闘技祭は隣の大陸にまで名前を轟かせる有名な闘技大会。

 そこで輝かしい成績を残すことができれば貴族としての箔が付くのか。

 純粋な力はまさに権威の象徴だから。


『同じく懐事情に困っていない高ランクの冒険者たちも、賞金以外の目的を持って闘技祭に参加していると推測できます」


(賞金以外の目的?)


『現在、ドーム大陸のギルド本部にて大規模な作戦が計画されています。近年この地で多大な被害を出し続けている魔人集団の足取りを掴んだため、近々精鋭と認められた冒険者のみを集めて掃討作戦を実施する予定です。闘技祭で実力を示すことができれば、その作戦への参加が叶い、討伐隊の指揮権を得られる可能性もあります』


 それは大変名誉なことだな。

 精鋭と認められた冒険者たちを指揮し、多大な被害を出し続けている魔人集団を討伐することができたら、冒険者としてこれほど誇らしいことはない。

 そもそもそんな大規模な作戦に参加できるだけでも冒険者として誉れである。

 そのために実力を誇示しようと、Sランクの冒険者様が意気揚々と闘技祭に参加しにきたってわけか。

 気合の入り方からしても厄介な相手になりそうだ。


「うーん……」


 やっぱりもう一人くらい頼もしい味方が欲しいところだな。

 単独で参加している人の中から誘えたりしないだろうか?


(ねえヘルプさん、単独で参加してる人の中から仲間に誘えそうな人を選出できないかな? できれば賞金目当てじゃない人で)


『己の実力を誇示するためでも賞金目的でもなく、単純に仲間がいない人物で、名誉や優勝そのものにしか興味がない参加者ですね。ただいま該当の条件に当てはまる人物を検索し……』


(あの、ごめん。そんな人絶対にいないだろうから検索しないでいいよ)


 闘技祭に参加していながら賞金に興味がなく、それでいて仲間を欲している人物なんているはずがない。

 そもそも何千万もの金額に見向きもしない人なんて世界中探してもほとんどいないだろう。

 ヴィオラだって本当は欲しいけど気を遣って分け前をなしにしてくれたくらいだし。

 だからもし本当に味方が欲しくなった時は、分け前が減ることを覚悟で仲間に誘うことにしよう。

 そう心に決めていると、気づけば受付の列がかなり進み、あと数人で僕たちの番というところにまで迫っていた。

 すると前の方から受付さんと参加希望者の会話が薄っすら聞こえてくる。


「団体として参加登録される場合は“リーダー”を決めてください」


「リーダー?」


「闘技祭の開催中、リーダーは固定となりますがその他のメンバーは試合の合間に限り変更が可能です。新たにメンバーを追加することもできます」


「予選とかで怪我して次の本戦に出られなくなったメンバーがいたら、他のメンバーと交代して本戦に挑めるってことか」


 遠くから聞こえるその会話に、僕も人知れず頷く。

 もし試合で人数が欠けてしまっても、他の仲間がいれば補充はできるみたいだ。

 おそらく体調不良などで参加が叶わなくなってしまった際の救済措置も兼ねているのだろう。

 代わりにリーダーだけは固定で出場しなければならないようで、参加登録の際に設定することが義務づけられている様子。

 同じく今の会話を聞いていたらしいヴィオラがこちらを見て微笑んだ。


「リーダーは当然モニカさんで」


「“当然”ってどういうこと?」


「集団のリーダーは一番強い人がやるべきだと思いまして」


「だったらヴィオラになるじゃん」


「ですから私のこと買いかぶりすぎですってば」


 他愛のないそんな話をしていると、前にいた人が突然列から抜けるのが横目に映る。

 腹痛か何かだろうか、苦しそうな顔でお腹を抱えて走り去ってしまった。

 ちょうどそのタイミングで前で受付をしていた集団も参加登録が終わり、一気に僕たちの番となる。

 ついてるなと思いながらさっそくカウンターにいる受付さんに声をかけたその瞬間――


「あの、闘技祭の参加登録をしたくて来たんですけど……」


「ちょっと、順番を抜かさないでくださいませ」


「……っ?」


 不意にどこからか聞き覚えのない少女の声が聞こえてきた。

 声の高さは近しいが、落ち着いた声音のヴィオラのものとはまた違う、少し棘のある声質。

 明らかにこちらに向けられた声に戸惑いながら、周りを見渡していると、ふと視界の下からバッと白い細腕が伸びてきた。


「わっ!?」


「ここ! ここですわ! どこに目を向けていますの」


 釣られて僅かに視線を落とすと、そこには腕を伸ばしたと思しきブロンドツインテールの“小柄”な少女が、不満げな顔で立っていた。


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