第六話 「金策」
鬼魔の討伐依頼を終えた後、僕は町に戻ってギルドに直行した。
そして依頼報告を終えて、報酬金の500ノイズを受け取る。
それから森で拾った採取品を商人さんのところで換金して、ヘルプさんに教えてもらった宿屋に向かった。
情報通り平均よりも宿代が安く、部屋も綺麗に整っている。
その一室を借りてようやく一息入れると、僕は改めて本日の収穫を確認することにした。
「おぉ、森で拾ったものだけで3000ノイズ……」
ヘルプさんに教えてもらった採取品を集めただけでこの額。
鬼魔討伐をやるよりもかなり楽で取得金額も大きい。
戦闘面だけでなく、こういったお金集めの面でもヘルプさんは大いに役に立っている。
まさか僕のメニュー画面に、こんな便利な機能が覚醒するとは思ってもみなかった。
ただ……
「うーん、便利と言えば便利だし、前よりは戦闘で役立てるようになったかもしれないけど……」
どこかのパーティーに入れてもらうというのはまだ難しそうだ。
ヘルプさんはとても便利だけど、僕自身が強くなったわけではないし。
戦力として認めてもらうには、まだまだ成長していって、もっと“明確な強さ”を手に入れないと。
となると、今の僕がするべきことは……
「とにかく討伐依頼を受けまくってお金を貯める。それで『メニュー画面』のシステムレベルを上げていって強くなる。で、いいかなヘルプさん?」
『問題はないかと思われます』
「じゃあ決まりだね」
明日からやることも決めて、僕はますますやる気をみなぎらせた。
翌日。
再び冒険者ギルドを訪れた僕は、受付窓口で依頼の受注をすることにした。
ヘルプさんという頼もしい味方ができたことで、より自信を持って討伐依頼に挑める。
と、そんな意気込みで来たはいいけど、やはり単独階級がFでは大した依頼は紹介してもらえなかった。
「現在ご紹介できる討伐依頼は以上となっております」
「うーん……」
窓口の卓上に置かれた四枚の依頼用紙を見つめながら、僕は小さな声で囁く。
「ねえヘルプさん、この中だとどれがいいと思う?」
『“リリック大洞窟での角兎討伐”をおすすめいたします。洞窟内には冒険者が落としていった古い装飾品や道具などが残されており、それを拾い集めるだけでもそれなりの資金調達が可能です』
なるほど、そういう決め方もありか。
報酬金額と討伐対象だけに注目していたけれど、“場所”によってはヘルプさんの知識を使ってお金集めができる。
先日スコア大森林で儲けたみたいに。
昨日はむしろそちらの収入の方が多かったくらいなので、そちらに主眼を置いて依頼を決める方が確かに利口だ。
さすがヘルプさん。
「じゃあこの、『リリック大洞窟での角兎討伐』を受けます」
「はい、かしこまりました。指定討伐数は“十五体”。報酬金額は“750ノイズ”となっています。追加で討伐した際はその分“50ノイズ”ずつ報酬金額が上乗せされますので。では、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
受付嬢さんの笑顔を背に、僕はリリック大洞窟に向けてギルドを飛び出したのだった。
町から二時間ほど北に歩いた場所に、くだんのリリック大洞窟があった。
岩石地帯の地面を掘り起こしたように、大口を開けている暗い洞窟。
そこに辿り着くや、さっそく僕は【アイテム】の中からランタンを取り出して灯りを点けた。
ついでに【セーブ】も忘れずにしておく。
そしてヘルプさんの道案内に従いながら、入り組んだ洞窟を探索していった。
なんとヘルプさんは、複雑な洞窟内部も正確に道を把握しているらしく、完璧な道案内をしてくれるのだ。
『続いての岐路を右に曲がると袋小路となっております。そこでは骨人たちが地中に隠れて待ち伏せをしており、多数の駆け出し冒険者が被害に遭っていると報告されております』
「ありがとう、ヘルプさん」
危険な道は事前に教えてくれて、僕は危なげなく洞窟内を探索できている。
おかげで洞窟に入ってから三十分ほどで、かなり奥まで進むことができた。
おまけに道中で、換金できそうな物をヘルプさんに見分けてもらい、それらも多く回収できている。
今から換金するのが楽しみで仕方がない。
中には冒険者たちの落とし物らしき品もあるが、こういった物は見つけた人が回収していい暗黙の了解がある。
でなければ魔物に拾われて悪用されたり、誰にも拾われずに埃を被るだけになるから。
だから僕は遠慮せずに、埃被りの剣や鎧を次々と回収していった。
「でも、こんなに落ちてるものだと思わなかったよ。どうしてみんな拾って行ったりしないのかな?」
『おそらくですが、洞窟内部から持ち帰る労力と見返りが釣り合っていないからだと思われます。アルモニカ様の場合はメニュー画面の【アイテム】にすべてを収められますが、他の方々では……』
「あぁ、そっか。みんな全部自分たちの手で持ち帰らなきゃいけないもんね」
それは相当邪魔な荷物になる。
下手をしたら戦闘にも支障が出て、荷物のせいで命を落とすことだってあるかもしれない。
それに駆け出し冒険者の落とし物なんて大した値も付かないし、一つ二つ持ち帰ったところで意味はないから。
つまりこれは、メニュー画面の【アイテム】に物を仕舞える僕だけができる“金策”。
生きているもの、僕の体より大きなもの、僕が触れられないもの、これらは【アイテム】に仕舞うことができないが、それ以外の落とし物は全部僕のものということである。
そこまで計算に入れて、ヘルプさんはリリック大洞窟での討伐依頼を勧めてくれたのか。
ちなみに角兎の討伐の方も、ヘルプさんに動きの癖を教えてもらったおかげで苦労することなく進めることができている。
「キィィ! キィィ!」
高い俊敏性と鋭い角を持っている兎の姿をした怪物。
上質な鎧も容易く貫いてしまう角の攻撃は、これまで何人もの冒険者たちに大傷を付けてきた。(引用元ヘルプさん)
しかし突進の際は尻尾が僅かにピクつく癖があり、それがわかっていれば突撃のタイミングがわかりやすくなっている。
それを教えてもらった結果、僕は角兎の攻撃を容易く躱して、的確に反撃を返すことができた。
ここまでですでに十体の角兎を討伐して、討伐証明の角を十個回収している。
あと少しで目標討伐数に到達しそうだ。
弱点がわかっていると本当に戦いやすいし、ヘルプさん様々だ。
もはやヘルプ様と呼ばせてもらいたい。
「この調子だったら追加討伐の報酬ももらえるだろうし、換金物もかなり溜まってきたから3000ノイズくらい行くんじゃないかな?」
これなら近いうちにメニュー画面のシステムレベルを上げられそうである。
ヘルプさんに続いて、次はどんな新機能が目覚めるのか今から楽しみだ。
まあそのためには一週間近く同じ金策をしなければならないので、そこそこ骨が折れそうだけど。
30000ノイズはさすがに遠いよね。
しかもシステムレベルは上げていくほど、成長に必要になる金額が増えるということなのでますます不安である。
それもこれも誰かとパーティーを組んで、高難易度の依頼を受けられるようになれば多少は楽になるのかな。
思わずため息を吐いてしまいそうになると、不意に前方に微かな光が見えて、僕はため息を飲み込んだ。
目を凝らしてみると、その光は開けた洞窟の広場で動き回っており、生き物であるということがわかる。
影の形は角兎にとてもよく似ているけど、なんだろうあれ……?
『希少種の金兎だと思われます』
「えっ?」