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第五十七話 「兄と妹」


「活発? モニカさんみたいに大人しい感じではないんですか?」


「むしろその逆だよ。いっつも外で元気に走り回ってて、家にいることの方が少ない奴なんだ」


 対照的に僕は家に篭もりがちで、見事に性格が真反対の関係である。

 そのせいでお母さんからはよく、『コルネットを見習って外で体を動かしなさい』って言われたな。


「友達も多くてさ、故郷の『クラシカルの村』にいる歳の近い子はみんな仲良しって感じだったよ」


「そういえば友達とお喋りするのが好きと言っていましたもんね。モニカさんの方は友達どれくらいいたんですか?」


「うっ……!」


 僕にそれを聞くのか。

 普段の僕の性格からして、答えは自ずとわかるだろうに。

 いやでも、まったくいなかったわけではないからね。


「この大人しい性格が災いして、友達って呼べる人はほとんどいなかったよ。ただまあ、ホルンとかとはよく一緒にいたけど」


「あぁ、あの元パーティーメンバーの方の……」


 僕の幼馴染であり元パーティーメンバーのホルン。

 ヴィオラも一度だけ会ったことがあり、ホルンと久々に再会して言い争いになったところを彼女にも見られてしまった。


「確か、勝利の旋律は幼馴染同士で組んだパーティーと言っていましたもんね。その人たちとよく遊んでいたんですか?」


「遊んでいた、とはちょっと違うかな。僕以外の四人は仲が良かったけど、僕の場合は数合わせとして連れ回されてたってだけの話だから。他に歳の近い子もいなかったし」


 田舎村ではよくある話で、歳の近い子がいれば親たちが必ず遊ばせたがる。

 それからは義務的に一緒に行動をするようになるので、別に仲は良くなかったけどホルンたちと一緒にいるようになっていた。

 まあ、友達が多い妹に少し引け目を感じて、自分も遊び友達が欲しいと思っていた表れかもしれないけど。


「では、妹のコルネットさんとはあまり一緒に遊んではいなかったということですか?」


「ヴィオラが期待してるような兄妹同士での遊びはほとんどしなかったね。そもそも歳が四つも離れてるし、性格もまるで違うからさ」


 一緒に遊ぼうにも、歳の差と性格の違いから何をして遊んだらいいか全然わからない。

 そんなわけで僕たちは、日中はほとんど一緒にいることはなく、お互いに自由に時間を過ごしていた。

 ただ……


「まあそれでも、仲が悪かったってことはまったくないかな。歳の離れた兄妹って喧嘩すら起きないくらい関係が希薄になることが多いって聞くけど、コルネットはよく僕に話しかけてくれて、その日の遊びの内容を嬉しそうに教えてくれたよ」


「……コルネットさんはみんなに優しくて、本当に明るい女の子だったんですね」


「うん。友達って呼べる人がいなかった僕にとって、コルネットだけが唯一の話し相手だったんだ。そんなコルネットからいつも元気をもらってて、あの子が外で元気に遊んでる姿を見るのが、僕はすごく好きだった」


 コルネットは周囲に元気を振り撒く太陽のような存在だった。

 彼女がいるだけでその場が明るく照らされて、みんなから愛されていて、兄として羨ましいと思うより誇らしい気持ちの方が強かった。


「だから、魔人に呪いを掛けられて、半分寝たきりのような生活を送っているのが、本当に今でも信じられない」


「……」


 あれだけ元気一杯で明るい存在だったコルネットが、まるで別人のように大人しくなってしまった。

 それもこれも、すべては魔人に掛けられた呪いのせいである。


「六年前、コルネットが八歳の時に、村に一体の魔人が現れたんだ。いや、“現れた”っていうか“通り過ぎた”って言った方がいいのかな?」


「通り過ぎた?」


「当時、僕は村の外に出ていて詳しくは知らないんだけど、魔人は村を襲うためにやって来たわけじゃなかったらしいんだ。ただその魔人の通り道に村があっただけって言うのかな……」


 話に聞いた魔人は、他の魔人のように積極的に人を襲うことはしなかったらしい。

 かといって別の目的が何かあるわけでもなく、本当に村を通り過ぎただけだったようだ。

 ただ……


「魔人からは異質な力が溢れていて、村を通り過ぎただけで家屋や施設が軒並み崩れたんだ。そして異質な力に当てられた村人たちも体調を悪くしたり気をおかしくしたりして……それでコルネットの場合は、“呪い”が掛かってしまったみたいなんだ」


「……」


 ヴィオラは言葉を失くして固まっている。

 そんな魔人、見たことも聞いたこともないからだろう。

 人に興味を示さず、存在しているだけで周囲に悪影響を及ぼす魔人なんて。


「そして魔人は崩れた村や苦しむ村人たちにはまるで興味が無さそうに、その場を去って行ったって聞いたよ」


「まるで、悪い災害に巻き込まれてしまったかのようですね」


「僕が村に帰って来たら、それこそ嵐が通り過ぎた後みたいになってたからね。災害って例えが一番合ってるかも」


 家屋とかだけではなく、村にあった畑や土壌にも数年規模で悪い影響が出て、しばらく不作が続いたし。

 ただ幸い、死者は出なかったので、そこだけは不幸中の幸いと言えるけどね。

 ともあれ、その魔人の瘴気とも言える異質な力を浴びたせいで、コルネットは呪いに冒されてしまった。

 そして体が徐々に衰弱していき、やがて満足に立って歩くこともできなくなってしまったというわけである。


「僕はまたもう一度、コルネットが外で走り回ってる姿を見たい。みんなに元気を振り撒く太陽のような存在に戻してあげたい。今まで元気をもらってきた分、今度は僕がコルネットを助けてあげたいんだ。肝心な時に、僕はコルネットの傍にいてあげられなくて、守ることができなかったから」


 僕は今一度、自分の気持ちと目的に向き合って、それを言葉で示す。

 それを聞いたヴィオラは、不意に微笑みを浮かべてお礼を口にした。


「話していただいてありがとうございます。コルネットさんがどういう子なのかよくわかりました。それと、モニカさんがどれくらい妹さんのことを大切に思っているのか」


「あ、改めてそう言われると、なんかすごく恥ずかしいんだけど」


 まるで僕が妹大好きみたいな感じじゃないか。

 唯一の話し相手になってくれたことや、元気を与えてもらったことに恩義を感じているのは確かだけど、別に妹が好きというわけではない。

 そもそも兄として、妹を助けてあげたいと思うのは当然のことじゃないかな?


「ま、まあ、妹のこととは関係なしに、ライアのことも助けてあげたいと思ってるよ。だから一緒にライアのことを守ってあげよう」


「はい、そうですね」


 そんな形で話を綺麗に締めて、僕たちも就寝することにした。

 焚き火の後始末も終えて、互いのテントに入ろうというところで、ヴィオラから不本意なことを言われてしまう。


「モニカさんは助けるべき女の子がたくさんいて大変ですね」


「その言い方だと、僕がすごく不誠実な人間みたいに聞こえるからやめて」


 たまたま助けるべき人が女の子ばかりになっているだけだから。

 別にわざと女の子だけを助けようとしているわけじゃないからさ……!

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